スキップしてメイン コンテンツに移動

映画「白頭山大噴火」#783


なかなか「映画館に行こうよ!」って誘いにくい空気ですけれど、それでも、ちょっとだけ声を大にしていいたい。

「白頭山大噴火」は、大きなスクリーンで、いい音響で、つまり映画館で観た方がいい映画です!!

☆☆☆☆☆

映画「白頭山大噴火」公式サイト
http://paektusan-movie.com/

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
韓国軍爆発物処理班のチョ・インチャン大尉は、除隊を間近に控えていた。不発弾解除の任務に就いていた時、白頭山で、観測史上最大の噴火が発生。地質学のカン教授は、朝鮮半島を崩壊させるほどの、さらなる大噴火が75時間後に起こると予測。マグマの圧力を逃すための作戦が立てられた。チョ大尉率いる部隊は密かに北朝鮮へ潜入し、作戦の鍵を握る北朝鮮の工作員リ・ジュンピョンを探すことになるが……。


イ・ビョンホンとハ・ジョンウが初共演、マ・ドンソクが腕力を封印して学者に、そしてチョン・ドヨンまで!!

なんとも、すごいキャストを集めたなーと、みんなを紹介するだけでお腹いっぱいになりそうな豪華さです。

監督は、イ・ヘジュンとキム・ビョンソの共同演出。製作は、「神と共に」シリーズのキム・ヨンファ監督。ということは当然、VFXもキム・ヨンファのデクスター・スタジオ。だから映像がとてもリッチです。

映画の冒頭から、いきなり地震によって街が崩れていくんですけど、「揺れ」よりも、建物の「崩壊」を見せるんですよね。

この辺り、地震国である日本に住む身からすると、おもしろい描き方だなと感じます。


映画タイトルにある「白頭山」は、北朝鮮と中国の国境付近にある山の名前です。「ペクトゥサン」と読み、韓国の国歌にも、北朝鮮の国歌にも登場します。それもそのはず。建国神話の舞台となっていることから、「霊峰」として崇められている山なんです。

(画像はGoogleマップより作成)

標高2,744mの火山で、朝鮮半島の最高峰。

そんな山が噴火するなんて。

映画用の設定なのだと思っていたら、本当に噴火の可能性が指摘されているのだそう。


未曾有の天変地異を前に、北と南の人間が交流する。

韓国映画が、エンタテインメントとして大きな転換を遂げた「シュリ」以降の映画は、北朝鮮の国民が「人間的に」描かれるようになりました。これはこの20年の大きな変化といえるのかもしれません。

☆☆☆☆☆

映画「シュリ」DVD

☆☆☆☆☆


北朝鮮の工作員と、韓国の情報機関員とのラブストーリーという、なんとも大胆な設定から、「JSA」では友情を描くまでに。

☆☆☆☆☆

映画「JSA」DVD

☆☆☆☆☆


ヒョンビン演じる北朝鮮の刑事と、韓国の警察官との「共同捜査」なんて設定の映画もできるほどです。


「シュリ」や「JSA」を観た当時、実は一番感じたことが「言葉が通じることの悲劇」でした。

北朝鮮と韓国は、方言はあるけど、そもそも同じ言葉を話しています。お互いに敵視してはいても、同じ言葉を使う、同じ民族。だから偶然の出会いが運命になる。そこに、一番の悲劇性を感じたのですよね。

それが「白頭山大噴火」では、ジョークにまで高められているんです。

チョ大尉が、最初にリ工作員を見つけた時、リ工作員が話していたのは、全羅道という朝鮮半島の南西部にある地域の訛りです。

ええっ!?となる隊員たち。

ようはプロの工作員に、トーシローの部隊がからかわれているわけです。訛りだけでなく、戦い慣れしていない韓国の軍人(普段は民間人だから……)や、アメリカへの皮肉などがコミカルに描かれ、笑えるシーンもたっぷり用意されています。

なにより、

「核爆弾がないなら盗んでくればいーじゃなーい♪」

ってノリで作戦が立てられるなんて、今年最大の「おい……!!!」って感じで。

韓国の大尉を演じたハ・ジョンウは、頼れる兄貴な役もいいけど、こういうアタフタ・オロオロしてしまう「ヘタレ役」の方が似合う気がしますね。

(画像は映画.comより)


うがった見方かもしれないのですが。

この映画って、「自分たちのことは自分たちでやるから、口を出さないでくれ!」という叫びにも思えました。

朝鮮半島で起こった大災害に対して、外国からの干渉を受け、右往左往する韓国の政治と軍部。作戦を妨害する大国のプロ軍団。

それらをはねのけるのは、トーシローでヘタレの「必死」なのです。

射撃訓練さえしたことがない部隊のメンバーに、だんだんと心を動かされていくプロ。

この、変化が、激しく胸を打ちます。


ちょっとネタバレすると、ラストシーンで女の子が話している言葉も、北朝鮮の訛りです。字幕では再現できないのが残念。小さな身体で、大きな変化を受け入れてきたんだなーと感じさせる、ホロリとするラストが待っています。


映画「白頭山大噴火」128分(2019年)

監督:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ

脚本:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ、クァク・ジョントク、キム・テユン、イム・ジョンヒョン

出演:ハ・ジョンウ、イ・ビョンホン、マ・ドンソク、チョン・ヘジン、ペ・スジ、チョン・ドヨン




コメント

このブログの人気の投稿

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...