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『追憶の烏』#826


阿部智里さんの才能に、言葉を失ってしまった。

「八咫烏シリーズ」の最新刊『追憶の烏』は、この前に出た『楽園の烏』の前の時代を描いています。

思えば、第1巻の『烏に単は似合わない』と、第2巻の『烏は主を選ばない』は、同じ時間をはさんだ表裏の対になっていて、世界全体の起こりは第5巻の『玉依姫』。第3巻『黄金(きん)の烏』でようやく謎が明らかになるのに、第4巻『空棺の烏』は、また時代が戻って学園ものに。

「スター・ウォーズ」より、はるかにエピソードが前後している!!!

そんな物語を引っ張ってきたのが、金烏と雪哉でした。デコボコな主君と従者のバディが、この先もずっと続いていくと思っていたのに。

『追憶の烏』は、あまりにも衝撃の展開で、あまりにもつらすぎました。

☆☆☆☆☆

『追憶の烏』

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

「八咫烏シリーズ」は、<山内>という異世界が舞台です。ここで暮らす「八咫烏」は人間の姿に“転身”でき、金烏(きんう)という、“王”が治めています。

東西南北の各領地を治める“家”はライバル関係にあり、金烏の妃の座を巡って争ったり、金烏を引きずり下ろそうと策略を練ったり。

壮大でありながら、青春の痛みを感じさせる和風ファンタジーなんです。

9作目となる『追憶の烏』で一番感じたのは、着物や色の描写が豊かになったことでした。

これは、もしかしたら阿部さんの研究成果なのかもしれません。現在、早稲田大学大学院文学研究科の博士課程に在籍されているからです。

「ハリー・ポッター」シリーズを読んで小説家を志したというところは、めちゃくちゃ共感できますね。

でも。

実は、雪哉は黒焦げになるモブキャラだったという設定には、「うっ!!!」となりました。


前例のない女性の“金烏”をたてるための取り組みなんて、いまの日本を反映しているよう。よくまぁ、ここに切り込んだものだと驚きました。

ここまで読んできた者にとっては、雪哉の孤独が沁みる巻です。そんなに急激に「大人の階段」を登らなくてもいいのに。物語を読み終えて、表紙のイラストを見直したら、ホロリと泣けてきました。

さぁ、次はどの時代のお話になるのでしょう。

1巻から読んでみたいという方は、こちらの順番でどうぞ。まず世界観を味わいたいという方には、短編集の外伝『烏百花 蛍の章』がおすすめです。

<第一部>

第一巻『烏に単は似合わない』

第二巻『烏は主を選ばない』

第三巻『黄金の烏』

第四巻『空棺の烏』

第五巻『玉依姫』

第六巻『弥栄の烏』

外伝『烏百花 蛍の章』

外伝『烏百花 白百合の章』


<第二部>

第一巻『楽園の烏』

第二巻『追憶の烏』



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