人の話を“聴く”って、なんて難しいんだろう。
いま、“聴く”トレーニングの勉強をしていて、毎日そう感じています。
「聞くくらい、誰でもできるでしょ」
そう思いますか?
『日本国語大辞典』によると、「聞」と「聴」はこのように区別されています。
聴:聞こうとして聞く。注意してよく聞く。
意識しないでも耳に音が入ってくる状態は「聞く」なんです。誰かと話をする時、上司とミーティングをする時、ほとんどの場面は「聞く」状態ではないでしょうか。
注意してよく耳を傾ける「聴く」は、声として口に出さなかった言葉までも聞き取ろうとすることです。
オトナはよく、「分からなかったら、なんでも聞いてね」と言うけれど、本当に「聴く」ができる人は少ないように思います。
「幼い依頼人」は、少女の話を本当に聴いてくれるオトナがいなかったことから起きた、痛ましい事件を映画化したものです。
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映画「幼い依頼人」
公式サイト
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ロースクールを卒業したものの、就職に失敗したジョンヨプ。姉の勧めで児童福祉館に就職し、相談員となる。ある日、継母から虐待を受けている“ダビン”姉弟に出会うが、ソウルの法律事務所への就職が決まり、町を離れることに。しかしその後、出世街道に乗ったジョンヨプの元に、姉のダビンが弟ミンジュンを殺したという知らせが飛び込んできて……。
「私は王である!」や「先生、キム・ボンドゥ」など、コミカルなヒューマンドラマを撮ってきたチャン・ギュソン監督がメガホンを取り、「エクストリーム・ジョブ」で、ひとりだけ捜査に熱心な刑事を演じたイ・ドンフィが主演だったので、少しはお笑いシーンもあるのかと思いきや。
全編にわたってイタかった……。
出世を目指す弁護士ジョンヨプと、虐待されて逃げ込んできた姉弟。やたらとジョンヨプに懐くのには、理由がありました。
「助けて」というメッセージを、大人たちは誰も聞いてくれない。「忙しい」「こんなことで警察にくるなんて」といった言葉を投げつけられ、どんどんとオトナへの信頼を失っていく子どもたち。
なのに、ジョンヨプだけが「間違ってない」と言ってくれたんです。
一度は逃げ出したジョンヨプも、事件を聞いて考えを変えます。“人権派弁護士”の誕生!なんですが、法律の壁にぶつかってしまう。
虐待事件のほとんどは家庭内で起こるため、法律の死角になりやすいのだそう。
思えば、映画「虐待の証明」は、痛みの連鎖から抜け出そうともがく女性を描いていました。
「幼い依頼人」の方はというと、他人や警察の手が届かない、法の限界を描いています。その分、もどかしさがハンパない。そして、どちらの映画も、虐待の連鎖を感じさせるんですよね。
「虐待の証明」でサンアが、親の愛を知らない自分が、子どもを愛せるだろうかと不安をみせるシーンがあります。刑事に問い詰められたジウンの父には「オレだって殴られてたのに!」という台詞もありました。
「幼い依頼人」の義母も同じ台詞を口にするんです。
それが、なんともつらい。
心にも身体にも傷を負い、オトナに対して心を閉ざしたダビン。ジョンヨプの「聴く」力が試されるシーンは、一番の見どころです。
こういう映画は、義母役の悪辣さが際立っているほど、物語も緊迫感を増します。だけど韓国映画は暴力シーンがハンパないだけに、子役たちのケアがちょっと気になってしまった。それくらい、真に迫った演技です。子どもたちも、毒親も。
映画「幼い依頼人」114分(2019年)
監督:チャン・ギュソン
脚本:ミン・ギョンウン
出演:イ・ドンフィ、ユソン、チェ・ミョンビン、イ・ジュウォン、コ・スヒ、ソ・ジョンヨン
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