「命さえ忘れなきゃ」
そんなキャッチフレーズ(?)で、日々のこと、歴史のこと、人間のことをみつめるエッセイスト朴慶南さんの言葉です。
多くの著書がおありですが、その中から『ポッカリ月が出ましたら』を紹介します。
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『ポッカリ月が出ましたら』
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“ポッカリ月が出ましたら”は、中原中也の「湖上」という詩の中に出てくる言葉です。
「湖上」
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。
(略)
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。
(略)
慶南さんが滋賀に旅した時、琵琶湖を見てこの詩を思い出し、そこから連想したという中学・高校時代の友人の半生が紹介されています。
愛を求め、愛に振り回された人。
才能を求め、個性的という言葉に振り回された人。
“女性”という性の生きにくさや、“地方”という町の寂しさが感じられるエピソードで、あぁ、わたしもこんな日々を過ごしたなーと、揺れる湖面が目に浮かぶようでした。
そして、この本を読んだ20年ほど前、初めて知ったのが、横浜にある鶴見警察署の大川常吉署長の話です。
関東大震災の後に発生した朝鮮人狩りの騒動の中、大川さんは300人もの朝鮮人を署内にかくまい、押しかけた群衆を一喝して追い返したそう。
当時の狂気じみた空気は、イ・ジュンイク監督の映画「金子文子と朴烈」にも描かれています。
わたしが好きな哲学者・キェルケゴールは、移ろいやすい”大衆”というものを信じず、「大衆は虚偽である」とまで語りました。
噂話をうのみにせず、自分の目で見に行く。経験した人に直接話を聞く。
泥の中を泳ぐような人生に、真実の光を当ててくれるエッセイです。
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