アナキストが登場する物語は、なぜこんなにも女性がかっこいいのでしょう。
伊藤野枝の生涯を描いた村山由佳さんの小説『風よ あらしよ』でも、大杉栄より野枝に惹かれてしまったし。
朴烈事件の“首謀者”である朴烈と、その妻・金子文子を描いた映画「金子文子と朴烈」でも、文子の強さが際立っていました。原題は「朴烈」なのに、邦題には「金子文子」がくっついてしまったんですが、ふたりの信頼と愛情は、“燃えさかる火の玉”のようでした。
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映画「金子文子と朴烈」
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1923年の東京。朴烈と金子文子は、運命的とも言える出会いを果たし、唯一無二の同志、そして恋人として共に生きていくことを決める。しかし、関東大震災の被災による人びとの不安を鎮めるため、政府は朝鮮人や社会主義者らの身柄を無差別に拘束。朴烈、文子たちも獄中へ送り込まれてしまう。社会を変えるため、そして自分たちの誇りのために獄中で闘う事を決意した2人の思いは、日本、そして韓国まで多くの支持者を獲得し、日本の内閣を混乱に陥れた。そして2人は歴史的な裁判に身を投じていく。
朴烈事件とは、1923年に起きた皇室暗殺計画という大逆事件のことです。朴烈と金子文子は、関東大震災後の2日後に逮捕され、1926年に死刑判決が下されました。が、「天皇の慈悲」と言う名目で恩赦が出され、共に無期懲役に減刑されることに。
ふたりとも、当然これを拒否。
文子は獄中で自殺したと伝えられています。文子の死後、朴烈と文子が抱き合っている写真が公開され、またまた世間を騒がせることに。
(画像はWikipediaより)
映画でも、実物そっくりの構図で撮影しています。
(画像はKMDbより)
映画の制作にあたって、イ・ジュンイク監督は隅々まで考察をしたと語っていて、文子の演説は裁判記録から、朴烈の発言は当時の新聞からと、多くの資料を集めたのだそう。
頑なだった看守の心まで動かしてしまうくらい、熱く、真摯な文子の言葉。火傷しそうな鋭さを秘めていたんですが、実際に、家庭的な雰囲気を知らずに育ったようです。
その文子が生涯を共にすると決めた男が朴烈。演じるイ・ジェフンや、文子役のチェ・ヒソは、日本語の台詞で反論し、自らの想いを語るという難しい演技に挑戦しています。
朴烈の逮捕は、関東大震災の後に起こった朝鮮人虐殺の隠蔽が目的のひとつだったようですが、勢いづいたらもう止まらないのだな……と、かなり恐怖する展開です。
河鍋暁翠の半生を描いた小説『星落ちて、なお』にも、関東大震災と、暴動の“噂”が登場します。
主人公の暁翠は、知り合いの古物商と一緒に品川まで兄嫁を探しに行き、そこで被災。いろんな人に助けられたり、助けたりしながら、家まで戻ってきます。そこで「朝鮮人が暴れている」という噂を耳にしますが、自分が現場で目にしたことと違うからと、バッサリ切り捨てるんです。
あの時、暁翠のような姿勢をとれたら、朴烈事件は起きず、文子は死なずにすんだのかもしれない、と思ってしまいます。
映画にも登場する「十五円五十銭」の話や、朝鮮人虐殺の話は、朴慶南さんのエッセイ『ポッカリ月が出ましたら』にも詳しいです。この映画がお好きな方におすすめです!
映画「金子文子と朴烈」129分(2017年)
監督:イ・ジュンイク
脚本:ファン・ソング
出演:イ・ジェフン、チェ・ヒソ、キム・インウ、キム・ジュンハン、金守珍、趙博
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