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『ピカソになりきった男』#861


「その朝、俺はピカソだった」

ギィ・リブというフランス人のおじさん画家は、その界隈では有名な方なのだそう。

その界隈とは……贋作業界です!

ピカソやシャガールら巨匠たちの名画の複製だけではなく、作風をコピーして新作を描いていたというんですから驚き。30年にわたって贋作を描き続けたギィ・リブの自伝もまた、ワクワクするくらいに刺激的でした。

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『ピカソになりきった男』

(画像リンクです)

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1948年生まれのギィ・リブは、幼少期を娼館で暮らしており、学校で学ぶという環境にはなかったようです。

8歳の頃から絵を描き始め、30代半ばで贋作作家へと踏み出します。でも、せっせと描き続けたことで、ある日、気が付くんです。

作品に、魂がないことに。

そこから、偉大な先人たちの画風を完璧にコピーし、「新作」に取り組むように。フランス警察でさえ、「偽物」だと結論付けることができないくらいの腕前(?)になってしまう。

ギィ・リブの場合、正当な画壇との縁は遠く、食べていくために底辺の世界に手を染めるしかなかった。まともなアーティストの代わりに、集まってくるのは、邪な計画を持つ画商だけ。本物以上の偽物を作り上げ、買い手を騙そうとする。

どんだけ!?と思うんですけど、実際にピカソの子どもたちが「本物」と認めた作品もあるのだそう。

アート市場の欺瞞も感じることができる自伝ですが、とても心に残った言葉がありました。

「いい盗みとは、いいものだけを盗むことである」

うう。

その天才的な審美眼が、ギィ・リブを犯罪世界に引きずり込んだともいえそうです。

独善的で、利己的だけど、根は(たぶん)善人なギィ・リブの半生。これはおもしろかった!

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