この設定には、やられた!しかない!!
ミステリのジャンルのひとつに、「安楽椅子探偵」というものがあります。
特徴としては、
・現場に行かない
・外から与えられた情報のみで推理する
ことがあるそう。
新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』でも、このジャンルの小説がいくつか紹介されていました。
米澤穂信さんの時代小説『黒牢城』が、まさにこのジャンルの醍醐味を詰め込んだものでした。ただし、“探偵”は、「安楽椅子」に座っているのではなく、「牢屋」に閉じ込められているのですけど。
天才軍師と呼ばれ、織田信長や豊臣秀吉に仕えた知将・黒田官兵衛が、“探偵”。
牢屋にいる官兵衛に「やっかいごと」を相談に行くのは、官兵衛を捕らえた張本人の荒木村重。
一年近くに及んだ籠城戦の裏側で、「牢屋探偵」が活躍していたとは……。設定だけでも十分におもしろいでしょ。
☆☆☆☆☆
米澤穂信『黒牢城』
☆☆☆☆☆
黒田官兵衛という武将については、岡田准一さん主演の大河ドラマ「軍師官兵衛」があったので、ご存じの方も多いかもしれません。
本能寺の変の後、秀吉を説得して光秀を討つよう進言したり、姫路城や大坂城、福岡城といった名城を築城したりと、知略に富んだ人物です。「天下を狙った野心家」といわれていて、秀吉は彼が謀反を起こさないよう、わざと石高を低くしておいたのだとか。
現代なら、さっさと転職しちゃいそうですが……。
荒木村重が織田信長に対して謀反を起こし、有岡城に籠城した際、説得に行った官兵衛は、逆に幽閉されてしまうんです。地下にある土牢で一年ほど過ごしていたそう。
わたしはむかーしにマンガで「黒田官兵衛」という名前を知りました。なんというタイトルだったのか、いろいろ検索してみたのですけど、どうしても思い出せない……。風がどうこうだったような気がする。
このマンガの中の官兵衛は、やさしくて(当然イケメン)、頭が切れる(イヤミな感じはなく)男でした。ラストシーンが、土牢に幽閉された官兵衛を救うところだったので、官兵衛のために動いていた“外側”の人たちの物語だったのではなかったか、と思います。
でも、『黒牢城』で描かれる官兵衛はというと、知力を鼻にかけたタカビーなヤツなんです。自身は髪の毛伸び放題の、垢まみれ、泥まみれであるにも関わらず、まったく卑屈さはありません。
有岡城主である荒木村重に対しても一歩も引かず、飄々とした態度を取り続ける。難問に頭を悩ませる村重を鼻で笑い、不安を指摘し、あざ笑う。
「ヒントあげるから、解けるもんなら解いてみな。ケケケッ」
って感じなんですよ。めちゃイヤなヤツ。
こうした態度は、狂気の故なのか、鋭すぎる知力のせいなのか。話相手もないまま、真っ暗な地下に押し込められても、謎を前にすると解かずにはいられないとは、ゾッとするほどの才能だなと思います。
彼を怖れつつ、尊敬の気持ちも隠せない荒木村重。官兵衛に勝るとも劣らない知将で、彼が籠城した有岡城は、当時としては最新鋭の要塞だったのだとか。
持久戦の中、城内の空気が変わっていく様子は、会社組織そのものかも、とも感じました。
つまり「外の風」は必要だな、と。
「安楽椅子探偵」ならぬ「牢屋探偵」。ミステリ好きだけでなく、歴史好きにもおすすめです!
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