「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」
室生犀星のこの詩は、帰りたくても帰れない故郷への思いを綴ったものだと思っていました。実は、犀星が郷里の金沢に帰郷した時に作られた詩だそう。
東京暮らしのつらさを抱える身なのに、温かく迎えてくれない故郷の人々。その愛憎が作らせた詩と聞いて、故郷への複雑な思いを感じました。
帰りたい。帰れない。
依頼を受けて旅をする「旅の代理人」となった丘えりかも、そんな想いを抱えたひとりです。
『旅屋おかえり』から5年ぶりとなった続編『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は、「おかえり」の故郷である北海道へと向かうお話です。
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『丘の上の賢人 旅屋おかえり』
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北海道の離島出身の「おかえり」は、現在も所属する事務所の社長にスカウトされてアイドルになるも、パッとせず。タレントとして旅番組を持つも、打ち切りに。それでも旅は好きだからと始めたのが、事情を抱えた人から依頼を受け、その人が行きたかった場所を旅する「旅屋」です。
ただ、「おかえり」には、絶対に行きたくない旅先がありました。
それが、北海道です。
北海道の一番北よりさらに北にある、礼文島で生まれ育った「おかえり」。イマも「パッとしない」仕事をしているため、家族に会う勇気がない。だから、北海道に行くのは無理。
そう決めていたのですが、久しぶりに舞い込んだ依頼の行き先は、北海道の小樽でした。
さあ、どうする、「おかえり」!?
大人の純愛物語ともいえるストーリーなんですが、テーマは「待つこと」です。信じているから待てることもあれば、それが習い性のようになってしまった待つもあるでしょう。
さまざまな事情で行き違いながらも、待ち続けた人たちのご縁を、再び「おかえり」がつないでいく。
勝田文さんの描き下ろし漫画も楽しめる一冊。
わたしたちはまだ旅の途中で、袖振り合った人とは何年経っても切れないのが、人の縁なのかも。
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