カウボーイハットをかぶって、馬にまたがる。
それだけで拍手が沸き起こるのは、世界でもクリント・イーストウッドだけかもしれない。「許されざる者」以来、30年ぶりに馬に乗った撮影で、スタッフは興奮したそうです。
西部劇で名を上げた俳優が、老いては元ロデオスターを演じるなんて、出来すぎなんじゃないかと思っていたけれど。
やっぱ、いいんですよ。さまになる。
銃でもって「正義」を知らしめるアメリカ的なヒーローから、「正義」のネガティブな側面までを描いてきたイーストウッドの、監督デビュー50年、40作目の記念作という映画「クライ・マッチョ」。
自身を「クソジジイ」感たっぷりだけど、チャーミングな老人に仕立てた、継承と再生の物語です。ニワトリが演技できるなんて、意外しかなかった!
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映画「クライ・マッチョ」
https://wwws.warnerbros.co.jp/crymacho-movie/
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かつて数々の賞を獲得し、ロデオ界のスターとして一世を風靡したマイク・マイロだったが、落馬事故をきっかけに落ちぶれていき、妻と息子を事故で亡くしてしまう。いまは競走馬の種付けで細々とひとり、暮らしていた。そんなある日、マイクは元の雇い主からメキシコにいる彼の息子ラフォを連れてくるよう依頼される。不良少年のラフォを探しだし、メキシコからアメリカ国境を目指すことになったマイクだったが、その旅路には予想外の困難や出会いが待ち受けていた。
映画の中で、イーストウッド演じるマイクがかぶっているカウボーイハット。たくさんのサンプルから一点を選ぶ時は、イーストウッドも加わったとのこと。
そんなカウボーイハットには、つばの広さや頭を入れる部分の高さなど、さまざまな種類があるそうです。
前田将多さんの『カウボーイ・サマー』には、カナダに到着してすぐに帽子を買いに行った話が出てきます。それくらいカウボーイにとっては命、なんでしょうね。
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『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』
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そんな大切な帽子を、友人の息子ラフォが「かぶってみたい」とおねだりするシーンがあります。最初はバッサリと断るマイク。でも、あれこれ御託を並べるラフォに「かぶってみろ」と渡すんです。
(画像は映画.comより)
ええっ!? その展開??
そう思ったけれど、拗ねているラフォは席を立ってしまいます。
実は、映画の中でここが一番しっくりこなかったのでした。
駄々っ子の相手が面倒だったから?
そんな気もしていたのですが、マイクは「持ち物」にも大した意味を感じていないのかもしれないと思えてきました。
闘鶏で小銭を稼ぎながら、ストリートで生きているラフォが、自分のニワトリに付けた名前が、「マッチョ」。旅の過程で明らかになっていくラフォの幼さを思うと、なんとも皮肉な名付けです。
でも、マイクにとっては「言葉」だって記号にすぎない。
本当の「マッチョ」とはなんなのか。不条理と折り合いをつけながら生きる姿を、背中で伝えるマイクは、落合陽一さんが呼ぶところの「ホワイトカラーおじさん」そのものです。
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『日本再興戦略』
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アメリカンヒーロー的西部劇から、疑似家族や年の離れた師弟関係を描いてきたイーストウッドは、自身のイメージをアップデートすることに迷いがないのだと思います。
アメリカ人が思い描く「理想の男」の仮面を脱ぎ捨て、人生の先輩として贈る言葉が厳しいくもあたたかい。
90歳を過ぎても、女性とのロマンスは忘れないセクシーさ。
すべてが過去のイーストウッドで、すべてが新しいイーストウッドだった映画でした。
とはいえ、あんまり「アメリカ的なヒーロー」にときめかないわたしは、マルタ姐さんを演じたナタリア・トラベンに惚れました。
人生の酸いも甘いも経験して、それでもなお「ケ・セラ・セラ」と魅せるあたたかい笑顔。こんな風に年をとりたい。
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