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『神様の友達の友達の友達はぼく』#918

クリント・イーストウッド監督デビュー50年、40作目の記念作という映画「クライ・マッチョ」を観ながら、なぜか最果タヒさんの言葉を思い出していました。 “人の心情とはばらばらで、辻褄のあわないものだと思うのだけれど、それゆえにひとつひとつに明確な言葉を与えていくと、自分の中で矛盾が膨らみ、自分を見失うことになるように思う。” 現代の日本では、スキルとしての「言語化」が注目されているけれど、言葉にすることでこぼれ落ちてしまうものもある。言葉にするということは、どうしたって具体の全部を表すことができないのだから。 そんな“不自由な”言葉への想いを綴ったエッセイが、『神様の友達の友達の友達はぼく』です。 ☆☆☆☆☆ 『神様の友達の友達の友達はぼく』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ この本のおもしろいところ、というか、校閲ガールとして苦しかったところは、カギカッコの中の文字が、中心からズレているところでした。 段落の最初の文章も、字下げの設定が自由。 これは……苦しい。 揃えたくなる。 そんな自分の感情と向き合いながら読んでいると、自分のかけている「色メガネ」が鮮明に感じられるんです。 人とつながることや孤独と付き合うこと、「世間」という謎の集団と自分との距離感などに、チクチクと揺さぶられている自分がいる。 わたしはどんな性格診断をしても、「孤独を愛しすぎている」と結果がでるくらいだけど、それでも、人と同じモノを持ち、人と同じ道を歩くことに安心していることがあります。 堂々巡りのつぶやきのように放たれる、数々の言葉の玉。ひとつずつポケットに入れて、ジャラリジャラリと感じていたい。 “心の壁をぶち壊すためのメソッドとか、わたしには時々暴力に思える。わたしの心の壁は、わたしのものです。あなたにぶち壊す権利はないと、静かに言える強さが欲しいわ。” 映画「クライ・マッチョ」は、メキシコに住む少年が、落ちぶれた元ロデオスターの男と一緒に旅をしながら、本当の「マッチョ=強さ」を知る物語です。 孤独のために、心に壁を築いていた少年と、老いた男の信念が、ジワジワと響いてきます。 不用意に放たれる言葉に傷つけられることもあるけど、救いもまた、言葉と共にあるのかもしれないと思った。

『書いて覚えるハングル名言』#898

「ハングルってパズルみたいだよね」 韓国語を勉強していると言うと、よくそんな風に言われます。 ハングルは朝鮮第4代国王の世宗大王が「人工的に」つくった表音文字で、1443年に公布されました。官僚たちの反対を振り切って制作に邁進する様子は、情熱大陸風にドラマ化されています。 ハン・ソッキュ版世宗大王のドラマ「根の深い木」 ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424   そして、ソン・ガンホ版世宗大王の映画「王の願い ハングルの始まり」 映画「王の願い ハングルの始まり」#723   音と文字を一致させているので、分かってしまえば意味が分からなくても「読む」ことができる。そこが表音文字のおもしろいところ。 ただ、ローマ字や漢字のように見慣れたものではないため、一から文字を覚えるのは簡単なことではないんですよね。 でも、たった24文字だから!!! そんな励ましを送りながら、会社でも有志を集めて「韓国語教室」を開催していました。 李泰文さんの『書いて覚えるハングル名言』は、韓国の著名人の言葉や文学作品、詩などから名言を集めた本です。なんと書き取り練習も付いているという、ありがたさ。 ☆☆☆☆☆ 『書いて覚えるハングル名言』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 日本の本屋さんで「詩」のコーナーはちょびっとしかありませんが、韓国の書店は違います。ドドーンとかなりのスペースを占めていて、日常的に詩の言葉を引用する人もいるくらいです。 編著者の李泰文さん自身、詩人としても活動しておられるそう。 滋味に満ちた言葉を味わいながら、パズルのような文字の組み合わせを楽しむ。なんと音声のダウンロードもできます。 もうすぐ長いお休みがやってきます。来年はひとつ、新しいことを始めてみませんか? 韓国語学習はいいぞー。ドラマを観まくる言い訳ができます!

『言の葉の森——日本の恋の歌』#894

日本古来の詩である「和歌」を韓国語に翻訳し、歌にまつわるエッセイを再び日本語に翻訳する。 なんだかややこしい、ふたつの言葉の行ったり来たりが、こんなに美しい世界になるなんて。 韓国で日本語翻訳家として活動されているチョン・スユンさんのエッセイ『言の葉の森——日本の恋の歌』は、限りなく素直な透明感にあふれた一冊でした。 ☆☆☆☆☆ 『言の葉の森——日本の恋の歌』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 韓国留学中に、友人たちと韓国語の詩を読んでみようと挑戦したことがありました。でも、あまりに難しくて挫折しました。 「詩」の中で扱われる言葉は、意味の広さと深さ、音の響きやつらなりが、教科書に載っている文章とはぜんぜん違うんですもん。 「難しさを味わえただけでも、よかったよね」 みたいな感じで会は終わりました……。 当たり前ですが、「詩」よりも「和歌」の方が文字数が少ないわけです。「五七五七七」という決まりごともある。 それを外国語に訳すのは、想像するだけでも絶句するような難しさだと思います。おまけにチョン・スユンさんの韓国語訳は、できるかぎり「五七五七七」に近づけてあるんです。 下の画像がそれ。韓国語は分かち書きをするので、一見そう見えないかもしれませんが、単語としては和歌の型になっています。すごいしかない。 (画像はAmazonより) 取り上げられているのは、『古今和歌集』や『拾遺和歌集』などの和歌です。 もちろん、外国語になることで、さらに情景がクリアになったり、情感がハッキリしたりするんだなーと感じるところも。 それにしても、「翻訳家」という職業についておられる方の、言葉の豊かさよ……。 おだやかでやさしい言葉の森を歩いたような、すがすがしさがあふれていますよ。

映画「詩人の恋」#779

詩人に見えている世界は、凡人のわたしとはなんて違っているんだろう。 うだつの上がらない詩人が、ひとりの青年に出会ったことで自分の世界を開いていく。 でも、トキメキの対象は同性の青年。妻は妊活中で、現実と恋との板挟みになってしまうんです。その姿が、ひたすら愛おしくて痛々しかった。 済州島を舞台に、ヤン・イクチュンを主演に迎え、詩人の心の揺れを映画化したキム・ヤンヒ監督は、これが長編デビュー作です。 ☆☆☆☆☆ 映画「詩人の恋」 オフィシャルサイト https://shijin.espace-sarou.com/ DVD ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 済州島で生まれ育った詩人テッキは、スランプに陥っていた。稼げないテッキを支える妻のガンスンが妊活を始めたことから、人生に波が立ち始める。乏精子症と診断され、詩も浮かばずに思い悩むテッキは、ある時、港に開店したドーナツ屋で働く美青年セユンと出会う。セユンのつぶやきをきっかけに新しい詩の世界を広げることができ、セユンについてもっと知りたいと思うようになるが……。 朝鮮半島の南西部にある済州島。自然に恵まれた火山島なんですが、風と石と女が多いため、「三多島」とも呼ばれています。 伝統的に女性が強いそうで、テッキも完全に主導権を妻に握られています。詩を読む会で酷評され、家に帰って「ボクっておデブかなー?」と聞くところなんて、かわいいしかない。 (画像は映画.comより) しっかり者の妻のおかげで、自分自身は現実に対峙せずに済んでいたところもあったんですよね。5センチくらい宙に浮いているような感じ。 でも、ドーナツ屋の青年にときめいちゃってからは、「生きる」ことに対して積極的になっていきます。寝てるけど。 (画像は映画.comより) そんなテッキを微笑ましく見守りながら、わたしの頭の中を占めていたのは。 「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が食べたい。 「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が食べたい。 「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が食べたい。 行ってきました。 わたし、オリジナル・グレーズドが好きなのですけど、テッキのマネをしたくて、いろんなドーナツを買ってしまった。 ああ、なんか、詩人とは見ている世界が違いすぎて、自分で自分にガッカリしてしまう……。 テッキ役のヤン・イクチュンがみせるモジモジしたおっちゃん感はたまらないし

『すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間』#767

韓国人男性の特徴を挙げるなら、まずは「マザコン」であることでしょうか。そして「ポエム男」も意外と多い気がします。 40代から50代の場合、座右の銘を漢文で挙げる人も。日本だったら「オレか、オレ以外か」って言いそうな人なのに……と感じたこともありました。 とはいえ、強さを前面に押し出している人だって、心の中までは分からない。しょっぱい思い出も、甘酸っぱい初恋も、自分なりの「詩」に昇華して、記憶しているのかもしれません。 ラブコメの帝王パク・ソジュンと、パク・ミニョン主演のドラマ「キム秘書はいったい、なぜ?」は、まさにそんなストーリーでした。 “傾聴”できない男は、インサイトをつかめるか!? ドラマ「キム秘書はいったい、なぜ?」 #494   このドラマでキム秘書が読んでいた本が、ハ・テワンさんの『すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間』です。韓国でこのドラマが放送されていた頃、すでにベストセラーになっていたのだそう。 愛する人への言葉、別れた人への言葉、ひとつひとつの思いをすくい上げたようなエッセイなのですが、長編恋愛小説のようでもあります。 ☆☆☆☆☆ 『すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間』 https://amzn.to/2W2UnYJ ☆☆☆☆☆ ハ・テワンさんは、SNSを中心に支持を受けてデビューしたため、「SNS作家」と呼ばれているそうです。年齢が出てこないけれど、本を出版した時に軍隊生活をしていたとのことなので、たぶん20代ですかね。 2作目にあたるこの本は、韓国でミュージカル化されるほど大人気に。 どのページを開いても、励まされるし、心を落ち着かせることができる。でも、やさしいだけじゃなくて、暗闇をのぞいているみたいな気持ちになる話もあります。 生活していれば、すべてがハッピーで、順調で、オーライな日ばかりではないでしょう。心の中に浮かんだカサカサを持て余してしまう夜は、ぜひ本をパラリと開いてみてください。 たとえば、「あなたは、本当にきれいで素敵な人」というエッセイには、こんな言葉が。 “あなたは とても魅力的なのに それを見せる方法を よくわかっていないのです。 他の誰よりも きれいで素敵な人であることは確かなのに。” そこにある言葉が、いま自分に必要なものだと感じられる、ビブリオマンシー(書物占い)みたいな一冊。

『花を見るように君を見る』#766

詩って、難しいなー。 とおーーーいむかし、受験生だった頃、「著者の言いたいことはなんですか?」みたいな問題にイライラしたものでした。 表面に現われているテキスト以上の寓意や暗喩がこめられているからでしょう。それを読み取るためには、詩自体の文字数の、数百倍の文字を読むことになります。 こんな当たり前のことを実感したのは、韓国に留学中、詩集を読んでみようと思い立ったからでした。 語学堂という学校では、教科書に沿って、文法・読解・リスニング・作文の授業があります。わたしはなぜかリスニング能力が先に伸びたのですが、その分、文字を読むのに苦労しました。 読み上げてくれたら、すぐに分かるのにー!!! そんな状況を打開しようと本を読むことにしたのです。でも、小説は扱われている単語が多すぎて大変すぎました。 で、行き着いたのが、詩。 だって、文字数が少ないから……。 韓国は日本よりも詩の扱いが大きく、大型書店じゃなくても詩のコーナーがちゃんとあるんですよね。ドラマや映画にも詩集が登場するくらい、身近な存在のようです。友人におすすめの詩人を教えてもらい、いざ、挑戦。 「なかなかに風流やん」と思うなかれ。 詩の方が難しいーーー!!! 目に見えている単語以上の広がりと奥行きを感じて、まだその段階ではないのだ……と絶望的な気分になりました。 最近は、日本でも邦訳された詩集が出版されるようになり、うれしい限りです。 BTSのRMや、BLACKPINKのジスの愛読書として知られ、爆発的な人気となった、ナ・テジュさんの『花を見るように君を見る』は、可憐な「花」のイラストが付いています。 ☆☆☆☆☆ 『花を見るように君を見る』 https://amzn.to/2XqORzz ☆☆☆☆☆ 小学校の教師をしていたナ・テジュさんは、1971年にデビューして以来、教壇に立ちながら35冊の詩集を出しておられるのだそう。 『花を見るように君を見る』には、ネットでよく取り上げられた作品115編を収録。その理由は、「詩人の代表作は読者が決めるもの」だから。 読んでみてとても意外だったのは、「日常で使うことば」が使われていることでした。エラそうにしたことばも、難しいことばもない。これは、黒河星子さんの翻訳がすばらしいのかもしれません。 たとえば、「葉っぱになるために」という詩は、静かに静かにかなしみが押し寄せてきま