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失敗上等!人生無計画でもなんとかなるよ『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』#49

将来どんな風になりたいか。キャリア設計は。そのために必要なスキルは。 人生近道を求めすぎなんじゃないだろうかと感じるくらい、現代では「夢から逆算して人生を設計」することが求められているようです。 でも。 「人生無計画」と呼べそうな半生を歩んだ方もいるんですよね。今日の「#1000日チャレンジ」の書評は、『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』 https://amzn.to/3yEFA4Z ☆☆☆☆☆ 著者の田中さんは、高校時代に不登校となり、役者を目指して上京。でも。 「やっぱ、これじゃなかったわ~」 と自宅へ舞い戻ります。あれこれあった後、一念発起してアメリカに留学。超低レベルの大学に進学するも。 「やっぱ、これじゃなかったわ~」 と転校。とにかく計画性のなさと、忍耐力のなさが特徴といえそうな方です。それでも、英語のおもしろさ、というより、コミュニケーションのおもしろさに目覚めてから、メキメキと力をつけていきます。 とはいえ、フリーランス通訳者となってからも失敗ばかり。大汗かいてやり終えた通訳なのに、信頼され、リピートを獲得。今ではダライ・ラマからご指名を受けるほどになったそうです。 思えば、わたしも10代のころはなんも考えてなかった気がします。いっぱい失敗して、絶望して、逃げながら今に至ります。笑 だから、「失敗しても、やり直しはできるよ」という田中さんのメッセージはとても力強く響きました。この本は、単純なサクセスストーリーではありません。 生きづらさを抱えて逃げるしかなかった著者が、自分の居場所をみつけるために右往左往する話です。がむしゃらに努力したから今があるという話ではなく、あたふた、オロオロ、じたばたするわけです。 こういう本こそ、将来の目標が見つけられないという人に読んでほしい。 好きを仕事に。 と言われても、そんなにカンタンに「好き」が見つからない人もいるでしょう。「天職」が見つからなくてもいいし、「違った!」と思ったら逃げてもいい。 息苦しいと感じる場所から逃げることは、「失敗」じゃないんですよ。

自分をも食い尽くす承認欲求 『ナイルパーチの女子会』#18

「叱る」って本当に難しいですよね。 「怒る」と「叱る」を混同している人も多く、新人に注意する時には、その説明からすることもよくあります。そのことについてはあらためて書きたいと思いますが。 この常識はいまも必要だろうか? このイライラは嫉妬ではないか? といった点は、常に自分に問いかけるようにしています。でないと、自分の価値観が絶対的な正義のモンスターになってしまうから。 そんな「モンスター」を描いた小説が、柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』です。 ☆☆☆☆☆ ナイルパーチの女子会 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 翔子が匿名で書いている主婦ブログのファンだった大手企業に勤める会社員の栄利子。偶然にも近所に住んでいることが分かり、知り合いになります。同性の友達がいないという共通のコンプレックスによって、ふたりは意気投合。親友になるのですが……。 ナイルパーチとは、アフリカ大陸の川などに生息する大型の淡水魚の名前です。フライ用の白身魚として日本にも輸出されています。肉食の巨大魚で、放流されると生態系に深刻な影響を与えてしまうのだとか。 多様な生物が生息していたビクトリア湖がナイルパーチによって激変しまう様を描いたドキュメンタリー映画「ダーウィンの悪夢」は、数々の映画賞を受賞しました。 (画像リンクです) あんまり穏やかでない魚の名前のついた「女子会」は、お互いを食い合うようなどう猛さがありました。 キャリアウーマンと専業主婦の友情は、『対岸の彼女』を思い出させる設定です。が、この本で描かれるのは「他者の価値観」です。 承認欲求とはつまり、内向きのプライドなので、刺激されると暴走しがちです。そして、モンスター化していく。登場人物のヒエラルキーは、あまりにも脆いものでできている気がしました。 栄利子の場合は、学歴やお金、大手企業に勤めているキャリアウーマンであることが武器。 翔子の場合は、人気ブロガーであり、結婚して社会的に安定したポジションを手に入れていることが武器。 最初のうちこそ、自分にはできない方法で社会から承認されている相手をリスペクトして仲良くなるのですが、深く付き合うことで違う面が見えてきます。 それは、裏切りなのか。 ビクトリア湖に放流されたナイルパーチは、他の固有種を食い尽くし、絶滅に追いやりました。自分以外の存在を認めないかのようなどう猛

『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』#6

校閲者のお仕事本シリーズ。本日は飯間浩明さんの『ことばから誤解が生まれる - 「伝わらない日本語」見本帳』です。 ☆☆☆☆☆ 『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』 https://amzn.to/2Spc0k5 ☆☆☆☆☆ 著者の飯間さんは国語辞典編纂者です。最初に「言葉によって誤解が生まれる事態は避けられない」とキッパリ宣言。でも誤解されないようにすることはできるはず。だから言葉を上手に扱いましょうと、音声・文法・語義など7テーマに分けて言葉を分析・解説しています。 日本語は同音異義語が多いので、ちょっと使い方を間違うと一気に関係を壊してしまいそう。でも、これをポジティブに考えると、「誤解が生まれる元を知っておけば、気持ちのいいコミュニケーションがとれる」ということ。 なかでも、何気ない使い分けでニュアンスが大きく変わってしまう助詞の項目がおすすめです。 a「グラスに酒が半分はある」 b「グラスに酒が半分もある」 c「グラスに酒が半分しかない」 d「グラスに酒が半分だけある」 事実はひとつなのに、心象を反映してニュアンスが変わっていますよね。変えているのは、助詞です。 よく冗談で言われる「今日 は きれいね」も同じです。「は」は他のものと区別するニュアンスを持つので、「 (いつもと違って) 今日 は きれいね」と聞こえてしまう。いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんですよーと弁解する前に、「 (いつもきれいだけど) 今日 も きれいね」と、意識して助詞を選択できるようになりたいですね。 言葉には多義性があるので、この言い方は間違い、この使い方はNGと切り捨てないのが飯間さんのスタンスです。 飯間さんのこういう姿勢がわたしは好きなんです。 “あることばを、自分がいくら「正しい」意味で使おうとしても、相手も同様にその意味で使っているとは限りません。(中略)「これが正しい意味だ」と、みんなが納得できる規範は、結局、どこにもありません。” 「口は災いの元(門)」「もの言へば唇寒し秋の風」などなど、日本は言葉にしないことをよしとしてきたようですが、いまの時代、そんなわけにはいきません。おまけに「沈黙」していたって誤解は生じます。 「誤解」とは、「情報処理の誤り」です。この本にあるような知識があれば、思い込みで人を断罪するような解釈はなくなるのかなと感

「#1000日チャレンジ」1日目 山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 #1

今日から「#1000日チャレンジ」を始めることにしました。 「#1000日チャレンジ」とは、さとなおさんのアニサキス・アレルギーとの闘いを楽しい活動にしようという取り組みのこと。チャレンジの内容は参加者それぞれ。より詳しく知りたい方は、さとなおさんのこちらの記事を参考にしてください。 1000日チャレンジ、始めます|さとなお(佐藤尚之)|note   チャレンジの成就を願う気持ちと、せっかくだからわたしも何かやってみようと思い、こちらのふたつにチャレンジすることに。 キツイこと:本か映画を1000本紹介する できそうなこと:毎日一万歩歩く 「負け続け」から「勝ち」にいく戦略へ。 さとなおさんの #1000日チャレンジ の成就を願って、わたしも始めます! キツイこと:書評1000本書く できそうなこと:毎日一万歩歩く スタート日は2019年7月14日。 2022年4月8日まで。 https://t.co/U4typ28Wh8 — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) July 14, 2019 というわけで、初日の書評は山田ズーニーさんの『あなたの話はなぜ「通じない」のか』です。 言いたいことがうまくまとめられない。話が回りくどくいと言われる。「結論から言え」と言われて混乱する。 そんな経験を持つ人は多いと思う。この本は、そんな悩みを持つ人はもちろん、周囲に話しが分かりにくい人がいると感じている人におすすめだ。 ☆☆☆☆☆ 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ わたしはいま、校閲の仕事をしながら社内研修を担当している。講師をすることもある。 まだ数年にしかならないが、身にしみて感じていることがある。 人は人の話を聞かない。 難易度や理解力もあるだろう。でも、それ以上に、講師とメンバーの間には薄い幕がかかっているような気がしていた。ちなみに、ほとんどの講義は社内の人間に講師を務めてもらっている。 マジメな話が続くと寝てしまう。そりゃそうだ。では、とエンタメ要素を増やしてみると、「楽しかった」という感想は増えるが、3日も経てば忘れてしまう。 この間、さまざまな本を読んだり、セミナーに参加したりして、「講師の話し方」に注目してきた。 そんな中で、山田ズーニーさんの『あなたの話はなぜ「通じない」のか』が一番分かりやすくまとまっ

金持ちの道楽に踊らされる若者はどこへたどりつくのか 映画「バーニング 劇場版」 #142

韓国ドラマや映画を観ていると、次々に実力のある若手が登場するので楽しみでなりません。わたしがずっと注目していたひとりが、ユ・アインです。 (画像はKMDbより) 2006年に「俺たちに明日はない」で映画デビュー。ドラマでは「トキメキ☆成均館スキャンダル」や「ファッション王」、「チャン・オクチョン-張禧嬪-」などで観ていましたが、一番よかったなーと思うのは「密会」です。年上の人妻に恋してしまう純粋で一途な天才ピアニスト役でした。 ドラマ「密会」#921   このドラマが放送されたのが2014年。そして翌年、彼にとって転機となる映画が公開されます。初の悪役を演じた「ベテラン」です。 「ベテラン」おしりペンペンされなかった悲劇がうむ喜劇 「ファン・ジョンミン主演映画にハズレなし!」と、観客からの信頼も厚い実力派俳優のファン・ジョンミン。中でも2015年に公開された「ベテラン」は、1300万人以上の観客を動員し、歴代5位につけています。 現在、Amazonプライムはじめ、Hulu、U-NEXTで配信されています。大笑いしながらスカッとするので、いま観るのがおすすめ。今回のコラムでは、この映画の魅力をお伝えします。   続いて出演した映画「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」で名優ソン・ガンホの演技にがっつり食らいつき、青龍映画賞の主演男優賞を受賞しました。 王位をかけた壮大な親子ゲンカ 映画「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」 #302   人気に実力がついてきたなーと実感する映画でしたね。2018年に公開された映画「バーニング」では、名匠イ・チャンドン監督の作品に出演。この映画は、2018年大鐘賞映画祭で最優秀作品賞を受賞、第71回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しています。 ☆☆☆☆☆ 映画「バーニング 劇場版」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> アルバイトで生計を立てるジョンスの夢は小説家。幼なじみのヘミと再会し、彼女がアフリカ旅行をする間、飼い猫の世話を頼まれます。旅行から戻ったヘミは、アフリカで知り合ったお金持ちの男ベンと一緒でした。ヘミに惹かれていたジュンスはかなりモヤモヤ。ある日ヘミが姿を消してしまいます。ジュンスは必死で彼女の行方を捜すのですが……。 原作は村上春樹の短編小説

校閲レディの仕事術 Part II・「読み方」について

突然ですが、こちらの文章を読んでみてください。 「こんにちは 皆さんお元気ですか? 私は元気です。」 と読んだ方、もう一度、一文字ずつ読んでみましょう。 「あれ? あぁぁ!」 と、なった方、これからご紹介する 「校正的読み方」 をぜひご覧ください。 決して、意地悪したわけではないですよ! 今日は校閲レディの仕事術 Part IIとして、文字の「読み方」について書いてみたいと思います。 Part Iはこちらから。 校閲レディの仕事術・校正ってどうやってやるの? Part I   「校正的読み方」:どう見るのか 上の文章をスルリと読めるのは、「Typoglycemia」という現象だそうです。 「Typoglycemia」とは、単語の最初と最後の文字が合っていれば、中の文字が入れ替わっても読めてしまう現象のこと。 ずいぶん前に話題になりましたよね。まだ日本語の名称はないそうですが、要するに、「そら目」しちゃうということかと思います。 デジタル世界では、「こんちには」と「こんにちは」はまったくの別物。読み間違いという現象は起きません。 それはそれでいいのですが、人間がそれをやると疲れてしまいます。だから、“だいたい”のところで“ふんわり”と把握する能力は、生きる知恵なのではないかとわたしは感じるのです。 この大雑把でゆる~い感じはO型人間にとって、とてもうれしい! 大好き! サイコー! なんですが。 校閲レディとして仕事をする時は、この技は使えません。 ダメ。絶対。 校正の読み方とは、こちらです。 1 字 ず つ つ ぶ す なぜ、「つぶす」と呼ぶのか? 理由はよく分かりませんが、色鉛筆でひと文字ずつマークしていくので、確かに「つぶしている感」はある気がします。 webの短い記事を校正する時は、色鉛筆を使いますが、書籍などの長い文章を校正する時は、使いません。たぶん、疲れちゃうからでしょうね。 Part I で書いたように、校正の作業の流れは下記のとおりです。 <校正の流れ> 1 情報確認 2 資料合わせ 3 素読み 4 整合性 5 ネガティブチェック そして、どの作業においても、 1 字 ず つ つ ぶ す のです。 大変でしょ?笑 でも、残念ながら、校正のすべては、このひと言に尽きるのです。 「校正的読み方」:何を見るのか 1字ずつマークするだけなら簡単なのですが、もち

校閲レディの仕事術・校正ってどうやってやるの? Part I

校閲レディで、社内研修機関の校長をしているmameと申します。 ひと頃、話題となった「校閲」という仕事ですが、ドラマのサブタイトルにもあるように、本当に「地味」です。いまどきそれ?感満載のアナログな仕事です。 ただ、この仕事をしていると、文章のチェック方法を知らないライターや編集者はけっこう多いのだなということに気づきます。だから「自分でも見直ししてね」と言っても、セルフチェックが機能しない。 そこで、文章校正のポイントをまとめてみました。自分で文章を書いている方、他の人が書いたものをチェックする立場にある方は、ぜひ参考にしてください。 「校正」と「校閲」 まず、「校正」と「校閲」って何が違うの?という点について。 区分けはいろいろとありますが、ひと言で言うなら「作業内容の違い」です。「校正」の方が範囲が広く、「校正」の中に「校閲」があると考えると分かりやすいと思います。 ドラマの影響もあって世間では「校閲」という言葉の方が知られているようなので、わたしもここでは「校閲レディ」と名乗っていますが、自分の仕事を説明する時には「校正」の方を使います。 「校閲」だと、仕事の一部しか指していないような気がしてしまうんですよね。 目的はどちらも同じ(というか、校正の中に校閲があるので)、 「情報を正しくすること」 です。 他人の文章の粗探しをして悦に入る……と、今でもそう思っている人がいるようですが、それは絶対絶対絶対違います。 ま、それについては別の機会に書くことにして、具体的な作業の流れを説明しましょう。 「校正」でやること <校正の流れ> 1 情報確認 2 資料合わせ 3 素読み 4 整合性 5 ネガティブチェック 重要なのは、上記の工程を 「ひとつずつ」やる ことです。 情報確認をしながら整合性を見ない、資料を引き合わせながら素読みしない、ということ。 なぜなら、人間はふたつ以上のことを同時に確実にやれるほど有能ではないからです。(わたしだけ?) 資料を見ながら表記のユレに気を取られてしまうと、肝心の引き合わせが疎かになります。曜日を確認する時もそれだけの工程を最初から最後まで通してやる。その方が確実です。絶対に。 分量にもよるので小説や論文などの長い文書だとやり方が異なりますが、ネット上の記事などの短い文書(3000〜5000字くらい)なら、上記の5つを押さえるだけ