スキップしてメイン コンテンツに移動

ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424


「朝鮮時代、最高の名君」と称される「世宗大王」は、次々と事業を起ち上げ、民衆のよりよい暮らしのために尽くした人物です。そのため、身分を問わずに秀才や科学者を集めました。

ただ、そのほとんどが覇権国である明を刺激するものだったんです。

むかしの東洋社会には「中国皇帝が世界の中心」という中華思想があって、「暦」や「天文学」などは、天命を受けた皇帝だけに権限があると考えられていたからです。

その戒めに反して、日本初の暦作りに取り組んだのが渋川春海。冲方丁さんの『天地明察』は、彼の人生を追った小説です。


韓国では先に紹介した「世宗大王」が、天体観測機器などを発明したチャン・ヨンシルと共に、朝鮮独自の暦を制作しました。映画「世宗大王 星を追う者たち」は、ふたりの絆を描いた時代劇です。


『天地明察』と「世宗大王 星を追う者たち」は、「暦」をめぐる物語でした。「世宗大王」の時代にはもうひとつ、中国を刺激する材料がありました。それが、朝鮮独自の文字である「ハングル」です。

中国から伝わった「漢字」を使っていた朝鮮ですが、発音と合わない、覚えるべき文字が多すぎるという問題を抱えていました。専門的に学問をするつもりでないと覚えきれないですよね、漢字って。なので、女性や子どもは自身の考えを表したりすることはできなかったんです。

学問は男性だけがするもの。科挙を受けて官僚となり、国のために尽くして大成することこそ、親孝行と考えられていたようです。

そんな状況に疑問を感じた第4代朝鮮国王「世宗大王」は、朝鮮独自の文字を作ろうと決めます。ですが、明の意向を忖度する勢力、官僚の力を守りたい勢力によって、公布はことごとく邪魔されてしまう。

「世宗大王」の若き頃から、ハングルの創製を民衆に伝えた『訓民正音』の発表までを舞台にしたドラマが「根の深い木」です。イ・ジョンミョンのミステリー小説を原作に、ハン・ソッキュが「世宗大王」を演じています。

☆☆☆☆☆

ドラマ「根の深い木」

DVD

(画像リンクです)

Amazonプライム配信

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

ある日、王の住まいである景福宮で殺人事件が発生します。捜査を担当することになったカン・チェユンは、王の周辺になにやら秘密があることに気づきます。一方で、秘密組織“密本(ミルボン)”が動いていることも突き止めて……という、ミステリー仕立ての時代劇です。

カン・チェユンが子どもの頃、まだ朝鮮という国はできたばかりで、基盤はグラグラ。王権強化のため粛正をおこなった太宗(テジョン)と、まだ若かった世宗は激しく対立します。30年近い月日が流れ、この時の政変が世宗の事業に横やりを入れていることが発覚するのです。

強権で支配した父。その影響から抜け出し、ダークサイドに落ちまいともがく息子。

「根の深い木」は韓国時代劇版の「スター・ウォーズ」といえると思います。勝手に役を当てはめてみました。

ルーク:世宗大王(ハン・ソッキュ)
ハン・ソロ:カン・チェユン(チャン・ヒョク)
レイア姫:ソイ女官(シン・セギョン)
チューバッカ:チョ・マルセン(イ・ジェヨン)
C-3POとR2-D2コンビ:カン・チェユンの同僚であるチョタクとパクポ

チョ・マルセンの置き所に困ったけれど、髪型的にもここかなと思いました。もしドラマをご覧になる方は、「もみあげ」に注目してくださいね。

ダースベイダーはもちろん「太宗」といいたいところですが、出番が少なすぎるため、世宗のライバルであり、目標でもあった鄭基準(チョン・ギジュン)にしたい。

ヨーダはカン・チェユンの師匠であり、建国時に「太宗」の仲間でもあったイ・バンジ。小柄なところも合う。

そして、わたしの大好きなオビ=ワン・ケノービは、わたしの大好きな俳優であるチョ・ジヌンが演じるムヒュル護衛武官。

並べてみてあらためて驚きました。めっちゃぴったり!!!

キム・ヨンヒョンとパク・サンヨンによる脚本を、チャン・テユが演出。このコンビの作品は「六龍が飛ぶ」へと続き、朝鮮の建国時代を描くドラマが完成していきます。


ハン・ソッキュ演じる「世宗大王」は、映画よりもだいぶ愛嬌があって、腰も軽いです。時代は映画の方が少し前なのですが、ドラマの方が若々しいのはまぁ仕方ないかな。

政権の重鎮たちはかなりの部分で重なっているので、見比べてみるのもおもしろいと思います。たとえば、ドラマでは好々爺で抜群の調整力を持った人物として描かれているファン・ヒ領議政(いまの日本でいう首相みたいな役割)。

韓国の時代劇で唯一、ファン・ヒ領議政が悪役として描かれているのが「世宗大王 星を追う者たち」だそうです。この映画はハン・ソッキュとチェ・ミンシクという韓国映画界の宝ともいえる名優同士が、いぶし銀の演技対決をしています。こちらもぜひ。


「世宗大王 星を追う者たち」と「根の深い木」を合わせて考えると、「世宗大王」の孤独がより伝わってくるように思います。

「根の深い木」で取り組む事業のメンバーは、どこまでいっても「部下」なんですよね。全幅の信頼を置くムヒュル護衛武官や、生涯のライバルであり天敵でもある鄭基準という人物はいるものの、そこに「友」はいない。

実際に「世宗大王 星を追う者たち」でチェ・ミンシクが演じた技術者「チャン・ヨンシル」は、王の私室にも出入りが許されるほど信頼されていたそうです。

ドラマの話に戻りますと、「根の深い木」の原作であるイ・ジョンミョンの小説『景福宮の秘密コード』は、日本語訳も出ています。

☆☆☆☆☆

『景福宮の秘密コード』

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

韓国語の原作に挑戦しようとしたけど、さすがに時代劇の用語は難しすぎて挫折しました。いつかこれが読めますように。


ドラマ情報「根の深い木」SBS 全24話(2011年)

監督:チャン・テユ、シン・ギョンス

脚本:キム・ヨンヒョン、パク・サンヨン

出演:ハン・ソッキュ、チャン・ヒョク、シン・セギョン、ソン・ジュンギ


コメント

このブログの人気の投稿

まったく新しい映画体験に思うこと 4D映画「ハリー・ポッターと賢者の石」 #484

映画の公開20周年を記念して、「ハリー・ポッターと賢者の石」が初の3D化されました。体感型の4DXやMX4Dで上映されています。 映画を「配信」するサービスが増え、パソコンやスマホでも映画が観られるようになったいま、「劇場で観る楽しみ」を、最大限与えてくれる上映方法だと思います。 でも、なぜか、4D映画ってモヤッとしてしまう……。 クィディッチゲームの疾走感や、チェスの駒が破壊されるシーンの緊迫感は倍増されていたので、こうした場面の再現率、体感度は以前に比べてかなり上がってきたように感じます。 (画像はIMDbより) それでも、稲光、爆風や水滴など、ストーリーとのズレを感じてしまう。 むかし観た4D映画では主人公が「GO! GO!」と走り出すシーンで、スポットライトがピカピカと点滅していたんですよね。わたしの頭の中で、「パラリラ パラリラ~」という暴走族のバイクの音が再生されてしまいました。 そうしたストーリーとは関係のない効果は減り、洗練されてきた感じはするものの、やっぱりスッキリしないものは残るのです。 4D映画はなぜモヤるのだろうと考えていて、「誰の目線で映画を観ればいいのか混乱する」からかもしれないと気がつきました。 ここで、あらためて4D映画について説明しておきます。 4D映画とは、映画に合わせて光や風などの演出が施された、アトラクション型の「映画鑑賞設備」のことです。 2D映画でも、4D映画の設備で上映されなら、4D映画になります。今回わたしが観た「ハリー・ポッターと賢者の石」は、3D映画の4D上映でした。 日本で導入されている4Dシアターは2種類。韓国のCJ 4DPLEX社が開発した4DXと、アメリカのMediaMation社が開発したMX4Dです。わたしは今回、TOHOシネマズで観たのですが、導入しているのはMX4Dのほうでした。サイトによると、体感できる環境効果はこちら。 特殊効果 ・シートが上下前後左右に動く ・首元、背後、足元への感触 ・香り ・風 ・水しぶき ・地響き ・霧 ・閃光 なるほど、のっけからシートがジェットコースターのように揺れ、風が吹きつけ、地響きも、ふくらはぎに礫が当たるような感触も体験できました。 人間社会で虐待されながら育ったハリー・ポッターは、ハグリットと出会うことで初めて魔法の世界に触れることになります。 ホグワーツ魔

キャラクター名“画数グランプリ” 優勝したのは!?「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 #515

劇場版「鬼滅の刃」が話題ですね。 校閲ガールであるわたしにとって、気になるのはストーリーでも、煉󠄁獄さんのかっこよさでも、興行収入でもありません。 漢字が多すぎ!!! ってことです。 たぶん、すべての校閲ガールや校閲ボーイは、トラウマとなる漢字を持っています。変換ミスや同音異義語を見落とした経験を持っているから……。一度やってしまうと、その漢字を見ただけで「ヒッ!」となります。特に画数の多い漢字はつらいんです。 なのに、 「鬼滅の刃」の登場人物は、全員画数多過ぎでしょ!!! 劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公式サイト 「その刃で、悪夢を断ち斬れ」劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編 絶賛公開中!   主人公は竈門炭治郎。その妹は禰豆子。鬼殺隊仲間は、我妻善逸、嘴平伊之助。「鬼殺隊」という名前からすでに怖そうですよね……。ちなみに一度で変換できなくて、「おに」「ころし」「たいちょう」と入力したので、あの日本酒を思い出しました。 清洲城信長 鬼ころしパックが【全国燗酒コンテスト2020】お値打ち熱燗部門 金賞受賞(2年連続受賞)   そんな「鬼殺隊」最強の剣士・煉󠄁獄杏寿郎さんはやはり、漢字の難しさも最高レベル。さすがは炎の呼吸を使う炎柱です。たぶん「隊長」みたいな役職の人です。 今回の映画の敵は魘夢と猗窩座というヤツで、これまで炭治郎たちが戦ってきた鬼よりはるかに強いヤツらしい。文字だけ見ても強そうですもんね。その鬼を束ねている悪の総帥が鬼舞辻無惨。 読み方分かりませんね……? 手書きできませんね……? 「鬼滅の刃」漢字検定1級をとれたらすごいと思います。このアニメとのコラボグッズは、校正するの、大変そう……。 そこで、緊急企画 「画数グランプリ」を開催 したいと思います! 「漢字辞典online」というサイトにて、各キャラクターの名前の画数を確認してみました。 kanji.jitenon.jp 「竈」という漢字を検索すると、こんな感じで表示されます。 この「画数」を足し上げていくのです。さて、優勝したのは!? (表記は公式サイトを基にしています) * * * 第3位:鬼舞辻無惨 54画 第2位:竈門炭治郎 55画 僅差です! 「魘夢」なんて、「魘」だけで24画もありました。これはぶっちぎるのでは……と思いきや、2文字という名前が仇に。けっこうしぶとい強いヤツでしたが、こ

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に