「朝鮮時代、最高の名君」と称される「世宗大王」は、次々と事業を起ち上げ、民衆のよりよい暮らしのために尽くした人物です。そのため、身分を問わずに秀才や科学者を集めました。
ただ、そのほとんどが覇権国である明を刺激するものだったんです。
むかしの東洋社会には「中国皇帝が世界の中心」という中華思想があって、「暦」や「天文学」などは、天命を受けた皇帝だけに権限があると考えられていたからです。
その戒めに反して、日本初の暦作りに取り組んだのが渋川春海。冲方丁さんの『天地明察』は、彼の人生を追った小説です。
韓国では先に紹介した「世宗大王」が、天体観測機器などを発明したチャン・ヨンシルと共に、朝鮮独自の暦を制作しました。映画「世宗大王 星を追う者たち」は、ふたりの絆を描いた時代劇です。
『天地明察』と「世宗大王 星を追う者たち」は、「暦」をめぐる物語でした。「世宗大王」の時代にはもうひとつ、中国を刺激する材料がありました。それが、朝鮮独自の文字である「ハングル」です。
中国から伝わった「漢字」を使っていた朝鮮ですが、発音と合わない、覚えるべき文字が多すぎるという問題を抱えていました。専門的に学問をするつもりでないと覚えきれないですよね、漢字って。なので、女性や子どもは自身の考えを表したりすることはできなかったんです。
学問は男性だけがするもの。科挙を受けて官僚となり、国のために尽くして大成することこそ、親孝行と考えられていたようです。
そんな状況に疑問を感じた第4代朝鮮国王「世宗大王」は、朝鮮独自の文字を作ろうと決めます。ですが、明の意向を忖度する勢力、官僚の力を守りたい勢力によって、公布はことごとく邪魔されてしまう。
「世宗大王」の若き頃から、ハングルの創製を民衆に伝えた『訓民正音』の発表までを舞台にしたドラマが「根の深い木」です。イ・ジョンミョンのミステリー小説を原作に、ハン・ソッキュが「世宗大王」を演じています。
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ドラマ「根の深い木」
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ある日、王の住まいである景福宮で殺人事件が発生します。捜査を担当することになったカン・チェユンは、王の周辺になにやら秘密があることに気づきます。一方で、秘密組織“密本(ミルボン)”が動いていることも突き止めて……という、ミステリー仕立ての時代劇です。
カン・チェユンが子どもの頃、まだ朝鮮という国はできたばかりで、基盤はグラグラ。王権強化のため粛正をおこなった太宗(テジョン)と、まだ若かった世宗は激しく対立します。30年近い月日が流れ、この時の政変が世宗の事業に横やりを入れていることが発覚するのです。
強権で支配した父。その影響から抜け出し、ダークサイドに落ちまいともがく息子。
「根の深い木」は韓国時代劇版の「スター・ウォーズ」といえると思います。勝手に役を当てはめてみました。
ハン・ソロ:カン・チェユン(チャン・ヒョク)
レイア姫:ソイ女官(シン・セギョン)
チューバッカ:チョ・マルセン(イ・ジェヨン)
C-3POとR2-D2コンビ:カン・チェユンの同僚であるチョタクとパクポ
チョ・マルセンの置き所に困ったけれど、髪型的にもここかなと思いました。もしドラマをご覧になる方は、「もみあげ」に注目してくださいね。
ダースベイダーはもちろん「太宗」といいたいところですが、出番が少なすぎるため、世宗のライバルであり、目標でもあった鄭基準(チョン・ギジュン)にしたい。
ヨーダはカン・チェユンの師匠であり、建国時に「太宗」の仲間でもあったイ・バンジ。小柄なところも合う。
そして、わたしの大好きなオビ=ワン・ケノービは、わたしの大好きな俳優であるチョ・ジヌンが演じるムヒュル護衛武官。
並べてみてあらためて驚きました。めっちゃぴったり!!!
キム・ヨンヒョンとパク・サンヨンによる脚本を、チャン・テユが演出。このコンビの作品は「六龍が飛ぶ」へと続き、朝鮮の建国時代を描くドラマが完成していきます。
ハン・ソッキュ演じる「世宗大王」は、映画よりもだいぶ愛嬌があって、腰も軽いです。時代は映画の方が少し前なのですが、ドラマの方が若々しいのはまぁ仕方ないかな。
政権の重鎮たちはかなりの部分で重なっているので、見比べてみるのもおもしろいと思います。たとえば、ドラマでは好々爺で抜群の調整力を持った人物として描かれているファン・ヒ領議政(いまの日本でいう首相みたいな役割)。
韓国の時代劇で唯一、ファン・ヒ領議政が悪役として描かれているのが「世宗大王 星を追う者たち」だそうです。この映画はハン・ソッキュとチェ・ミンシクという韓国映画界の宝ともいえる名優同士が、いぶし銀の演技対決をしています。こちらもぜひ。
「世宗大王 星を追う者たち」と「根の深い木」を合わせて考えると、「世宗大王」の孤独がより伝わってくるように思います。
「根の深い木」で取り組む事業のメンバーは、どこまでいっても「部下」なんですよね。全幅の信頼を置くムヒュル護衛武官や、生涯のライバルであり天敵でもある鄭基準という人物はいるものの、そこに「友」はいない。
実際に「世宗大王 星を追う者たち」でチェ・ミンシクが演じた技術者「チャン・ヨンシル」は、王の私室にも出入りが許されるほど信頼されていたそうです。
ドラマの話に戻りますと、「根の深い木」の原作であるイ・ジョンミョンの小説『景福宮の秘密コード』は、日本語訳も出ています。
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『景福宮の秘密コード』
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韓国語の原作に挑戦しようとしたけど、さすがに時代劇の用語は難しすぎて挫折しました。いつかこれが読めますように。
ドラマ情報「根の深い木」SBS 全24話(2011年)
監督:チャン・テユ、シン・ギョンス
脚本:キム・ヨンヒョン、パク・サンヨン
出演:ハン・ソッキュ、チャン・ヒョク、シン・セギョン、ソン・ジュンギ
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