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行方不明の息子を探す母。その心を殺すもの 映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」 #440


「イ・ヨンエ」という名前を聞いて、思い浮かぶ作品は年代によって違うかもしれないですね。

アラカンの方ならたぶんドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」。2004年にNHK-BS2で放送されたのですが、NHKが初めて放送した韓国時代劇が「チャングム」なんだそうです。うちの父もこれでハマりました。

アラフォー・アラフィフなら映画「JSA」ですかね。美しすぎる将校姿は、いまでも目に焼き付いています。

「春の日は過ぎゆく」などでもみせてくれた、はかなく美しすぎる姿は、「親切なクムジャさん」で見事に打ち破られました。

そして、新たな一面をみせてくれた映画が「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」。「イ・ヨンエ」という俳優の中に隠された仮面。いったいどれくらいあるのだろうと感じた映画でした。

☆☆☆☆☆

映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」

DVD

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☆☆☆☆☆


<あらすじ>
ジョンヨンとミョングク夫婦は、6年前に行方不明となった息子のユンスを探し続けている。寄せられた情報を元に現場に向かう途中、夫ミョングクは事故で亡くなってしまう。憔悴する妻ジョンヨンだが、あらたに情報が寄せられ、漁村へと向かうことにするが……。


イ・ヨンエ14年ぶりのスクリーン復帰!と宣伝にありましたが、ブランクを感じさせない存在感と凄みがありました。まさかの立ち回りまであって、ガラスの扉につっこむイ・ヨンエにびっくりするシーンも。

「子どもの行方が分からなくなる」という事態は、「亡くす」よりも残酷な面があるのかもしれません。アンジェリーナ・ジョリー主演、クリント・イーストウッド監督の映画「チェンジリング」でも、母は息子の無事を決して疑わなかった。それが狂気へ至る道だとしても。

https://note.com/33_33/n/n924c6cf712e0

「チェンジリング」では最初、警察に届けるんですよね。「みつかった」という連絡も警察を通して受け取ることになります。この期間、5か月です。

「ブリング・ミー・ホーム」では6年もの間、夫婦で全国を探して回っています。民間の支援団体の手を借り、広く一般の人からも情報を集める。そのため、ガセネタに振り回されてしまうことも。

愉快犯、お金目当ての接近、いわれのないバッシング。それだけでも疲弊しそうなところに、児童虐待の凄惨な現場を目撃して、ホントーーーに胸がつまりました。

寄せられた情報を頼りにジョンヨンがたどり着いたのは、漁港近くの釣り店でした。この店とズブズブの関係である地元の警察署長を演じたのが、ユ・ジェミョン。「梨泰院クラス」で長家会長を演じた俳優です。ドラマ「秘密の森」でもいい演技をみせてくれていました。彼をみていると、「アリンコを踏むにも全力でいく象」を思い浮かべてしまいます……。

(画像はKMDbより)


釣り店の店主家族はじめ、村人はみな、ことごとくジョンヨンを妨害します。理由は、「めんどうなことになりそうだから」。そのために、どんどんと話がこじれていくのですが。

「チェンジリング」で母が戻ってきた息子の“外見”を見て、「別人」と見破ったように、「ブリング・ミー・ホーム」でも“外見”は、映画のカギになっていきます。

真実が明らかになったとき。……呆然としました。

映画の公開に合わせて行われた『婦人公論』のインタビューで、イ・ヨンエはこんな風に語っています。

“(結婚と出産を機に)「たくさんの人に観てもらうことがすべてではない。それよりも、社会によい影響を与える作品に出たい」と思うようになったことです。”

もっともっと「イ・ヨンエ」の新たな顔がみたくなる映画です。そして、子を持つ親へ、あたたかい関心が高まるといいなと感じました。

人の心を殺すのは、「無関心」なのだから。


映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」108分(2019年)

監督:キム・スンウ

脚本:キム・スンウ

出演:イ・ヨンエ、ユ・ジェミョン、イ・ウォングン、パク・ヘジュン

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