スキップしてメイン コンテンツに移動

“世間”という名の荒波から抜け出す方法 ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」 #450


「あなたのためを思って言ってるのよ」

よく聞く言葉だけど、なんて空疎なものだったんだろう。

ソン・イェジン×チョン・ヘイン主演の恋愛ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」には、何度もこのセリフが登場します。

交際に反対する母から。

セクハラした上司から。

告発を止めようとする同僚から。

メインのお話はソン・イェジンとチョン・ヘインの恋物語で、ふたりでチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュしています。

(画像はcinemacafeより)


微笑ましい「ふたりだけの世界」を描くのと同時に、アン・パンソク演出、キム・ウン脚本家コンビによる社会問題へのカウンタードラマでもあります。

☆☆☆☆☆

ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」

DVD


Netflix配信
https://www.netflix.com/title/80990935

☆☆☆☆☆


<あらすじ>
35歳のジナは、親には結婚を急かされ、浮気した彼氏に振り回され、職場ではセクハラされ、息が詰まるような毎日を送っていた。ある日、親友のギョンソンの弟で、自分の弟スンホの親友でもあるジュニに再会して恋人関係に。しかし、ジナの母親は交際に大反対。会社でもセクハラの内部調査をすることになり……。


ジナを演じるのは、「愛の不時着」で大人気となったソン・イェジン。ただし、ジナはチョーーーー決められない人です。「Seri's Choice」なんて名前の会社社長で、決断力を売りにしていた姿とは正反対。めちゃくちゃもどかしい。

そんなジナを、「あなたはあなたのままで価値がある」と抱きしめたジュニは、チョン・ヘインが演じています。

ふたりが恋に落ちていくところや、お互いを気遣い、支え合う姿にはすごくトキメキました。

ですが、ジュニと付き合う前のジナは、「タンバリン」とあだ名されるほど、宴会の盛り上げ係だったんです。男性のテーブルに行っては肉を焼き、お酒を注ぎ、カラオケではタンバリンを持って踊る。

「自分がガマンしてその場がおさまるのなら」

そんな気持ちで耐えてきたジナですが、会社の調査に応じることを決めます。ここで、男性陣がとった策が「離間計」です。女性チームを仲たがいさせようとするたくらみは、人事権をちらつかせてのことでした。

「あなたのためを思って言ってるのよ」

この言葉になかなか「No」と言えないジナ。宴会のときだって、イヤそうだったのに「No」と言えなかったんですよね。だから思わず思ってしまった。

「あなたも悪いよ!」

そしてすぐに気がついたんです。これこそ、男性陣の思うつぼだと。


「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」は、2018年上半期のドラマ話題性ランキングで1位になったほか、数々の賞を受賞したそうです。「ふたりだけの世界」と同時並行で進む、「セクハラ問題」。重いテーマでありながらドラマが支持されたということは、それだけ関心の高いテーマだったのだと思います。


韓国社会で長く「暗黙の了解」のように続いてきた女性の苦しみに、一石を投じた小説に、『82年生まれ、キム・ジヨン』があります。この本の編集者は、「キム・ジヨンの前と後で、ジェンダー意識が明らかに変わった」と語っておられます。

(全編韓国語の動画でごめんなさい。いつか翻訳します)


ドラマ自体は、ソン・イェジンとチョン・ヘインのラブラブ感が楽しめます。でも、それだけじゃなく。「セクハラ」や「ジナママ」の価値観に、韓国社会の変化と、変わらなさを大いに感じさせてくれるドラマです。

ちなみに。

「綺麗なお姉さん」は、ぜんぜんおごってくれません……。


ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」全16話(2018年)

監督:アン・パンソク

脚本:キム・ウン

出演:ソン・イェジン、チョン・ヘイン、チャン・ソヨン、ウィ・ハジュン、オ・リュン

コメント

このブログの人気の投稿

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

まったく新しい映画体験に思うこと 4D映画「ハリー・ポッターと賢者の石」 #484

映画の公開20周年を記念して、「ハリー・ポッターと賢者の石」が初の3D化されました。体感型の4DXやMX4Dで上映されています。 映画を「配信」するサービスが増え、パソコンやスマホでも映画が観られるようになったいま、「劇場で観る楽しみ」を、最大限与えてくれる上映方法だと思います。 でも、なぜか、4D映画ってモヤッとしてしまう……。 クィディッチゲームの疾走感や、チェスの駒が破壊されるシーンの緊迫感は倍増されていたので、こうした場面の再現率、体感度は以前に比べてかなり上がってきたように感じます。 (画像はIMDbより) それでも、稲光、爆風や水滴など、ストーリーとのズレを感じてしまう。 むかし観た4D映画では主人公が「GO! GO!」と走り出すシーンで、スポットライトがピカピカと点滅していたんですよね。わたしの頭の中で、「パラリラ パラリラ~」という暴走族のバイクの音が再生されてしまいました。 そうしたストーリーとは関係のない効果は減り、洗練されてきた感じはするものの、やっぱりスッキリしないものは残るのです。 4D映画はなぜモヤるのだろうと考えていて、「誰の目線で映画を観ればいいのか混乱する」からかもしれないと気がつきました。 ここで、あらためて4D映画について説明しておきます。 4D映画とは、映画に合わせて光や風などの演出が施された、アトラクション型の「映画鑑賞設備」のことです。 2D映画でも、4D映画の設備で上映されなら、4D映画になります。今回わたしが観た「ハリー・ポッターと賢者の石」は、3D映画の4D上映でした。 日本で導入されている4Dシアターは2種類。韓国のCJ 4DPLEX社が開発した4DXと、アメリカのMediaMation社が開発したMX4Dです。わたしは今回、TOHOシネマズで観たのですが、導入しているのはMX4Dのほうでした。サイトによると、体感できる環境効果はこちら。 特殊効果 ・シートが上下前後左右に動く ・首元、背後、足元への感触 ・香り ・風 ・水しぶき ・地響き ・霧 ・閃光 なるほど、のっけからシートがジェットコースターのように揺れ、風が吹きつけ、地響きも、ふくらはぎに礫が当たるような感触も体験できました。 人間社会で虐待されながら育ったハリー・ポッターは、ハグリットと出会うことで初めて魔法の世界に触れることになります。 ホグワーツ魔...