今度のコン・ユが守るのは、人類初のクローン人間!
余命わずかな元情報局員と、永遠の命をもつクローンの青年による逃避行。ド派手なカーチェイスに、作り込まれた実験室。
素材はハイテクなんだけれど、いつもの韓流メロドラマ感あふれる展開が待っているのですが。“永遠の命”を持つことは、はたして幸せなことなのかと、メーテルみたいなことを考えてしまいました。
コン・ユとパク・ボゴム主演の映画「SEOBOK ソボク」は、命を巡る哲学的な物語です。
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映画「SEOBOK ソボク」
http://seobok.jp/
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余命宣告を受けた元情報局員の男ギホンは、人類初のクローン、ソボクの護衛を命じられる。任務早々、何者かの襲撃を受け、逃げ惑うふたり。衝突を繰り返しながら、徐々に心を通わせていくが……。
「ソボク」は漢字で書くと「徐福」となります。史上初の中国統一を果たしたのが、秦の始皇帝。彼に仕えた学者の名前です。始皇帝は、あらゆる権力と富を手にしたものの、死だけは避けては通れません。そこで徐福は不老不死の霊薬を探して東方に船出し、そのまま戻らなかったのだそう。
徐福は日本に渡来していたそうで、佐賀県には徐福を祀る「金立神社」という神社もありました。
秦の始皇帝が車椅子を使っていた、という事実があれば、映画のストーリー的におもしろいなーと思ったのですが、そんなことはなかったようで、残念。
現代の科学をもって誕生した「ソボク」は、不老不死の能力を持つことに。でも中身は10歳の少年で、パク・ボゴムが純粋さと残酷さを併せ持つクローンを演じています。
ビオトープのような場所で純粋培養されていたソボク。
(画像は映画.comより)
謎の襲撃者から逃げるため、より目立たない格好をと、ギホンに服を買ってもらいます。でも、なんでそれを選ぶ!?というセンス!!
(画像は映画.comより)
初めて外に出て、普通の人間と接して、インスタントラーメンを食べて。ソボクが求めていたのは、人のぬくもりだったのではと思わせるチョイスです。「僕には行くところがない」とつぶやく姿は、とても愛らしくて、思わず抱きしめたくなりました。
そんなソボクを“守る”役割を担うギホンは、常に全力投球のコン・ユが演じています。
(画像は映画.comより)
「なんで僕を守るんですか? どうせ僕は死なないのに」
ソボクの本質を突いた質問に、答えられないギホン。なぜなら……、脳腫瘍のため余命宣告を受けている彼は、自分の病気を治せるかどうかがソボクにかかっているからです。
生きる価値はないけど、死にたくない。矛盾を抱えるギホンは、ソボクを守ることができるのか。そして襲撃者はだれか……、というストーリー。
韓国は「SF映画の不毛地」と呼ばれているそうで、そもそもテーマとして扱われることが少なかったなと思います。宇宙船が登場するSF映画なんて、2021年に公開された「スペース・スウィーパーズ」が初ですからね。
そんな状況の中、満を持して「クローン人間」というガッツリSFぽさ満載の素材に取り組んだのは、イ・ヨンジュ監督。画像の右側の方です。左は、またまた“イヤな男”役をみせてくれたチョ・ウジン。
(画像はKMDbより)
前作の「建築学概論」は非常に韓国らしい初恋のメロドラマでした。「ソボク」の脚本を書いていた時、ソボクを女性にするアイディアもあったのだそう。でも、“守る男”コン・ユとの逃避行だと、恋愛モードが発動してしまうかも……というわけで、ソボクは男の子になったと明かしています。
ま、この選択は正解だったのではないかという気がしますが、SF映画だったかといわれると、“ぽさ”はあまり感じません。どこまでも“守る男”の命を賭けた闘いに見えてしまうから。
皮肉なのは、“守る男”コン・ユが、ソボクを守る理由です。「自分のために」という利己的な理由で闘うことになったのは、コン・ユ史上初めてではないかと思います。
利己的なファンドマネージャーがゾンビに襲われ、娘のために自己犠牲を図った「新 感染 ファイナル・エクスプレス」とは、正反対なんですよね。
自分の存在意義を感じられず、眠りを体験してみたいと願うソボク。彼の願いを叶えれば、自分の病を治すことはできません。
ふたりの友情の行き着く先は、「永遠に生きることは、はたして幸せなことなのか?」という問いを、突きつけてきます。
アニメ「銀河鉄道999」の最終回で、鉄郎はあれほど焦がれた夢を手放すことにしました。欲が生む人間の醜さを知ったから。
鉄郎も、ソボクも知っていたのです。限りある命だからこそ、人は一日一日を生きていけるのだと。
映画情報「SEOBOK ソボク」114分(2021年)
監督:イ・ヨンジュ
脚本:イ・ヨンジュ
出演:コン・ユ、パク・ボゴム、チョ・ウジン、チャン・ヨンナム
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