ミステリー小説好きにとって、翻訳家の田口俊樹さんは神さまのような存在なのではないでしょうか。
ローレンス・ブロックの「マット・スカダー」シリーズ、レイモンド・チャンドラーやアガサ・クリスティーといった大御所の作品も、田口さんの訳が出ています。
200冊近い訳書を刊行された大御所ですが、駆け出しの頃の訳を見ると、トホホ……となることもあるのだとか。
そんな、40年に及ぶ翻訳生活を振り返った本が『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』です。
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『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』
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小学生の頃、アガサ・クリスティにのめりこんでミステリーにハマったという田口さん。大学を卒業後、英語の先生になります。
さすが~!
英語教師になるくらい語学に堪能だから、翻訳とかできるんですよね!?
なーんて思ってしまいますが、実際はその逆。生徒に質問されても答えられないもどかしさから、英語力を身につけようと翻訳をやってみた。そしたら仕事になってしまった、というミラクルな経歴をお持ちです。
通訳や翻訳など、企業に就職して仕事を得るタイプではない業種って、人の縁でデビューが決まったというパターンが多いようです。
日本のトップ通訳者である田中慶子さんも、「人生無計画」な生活から通訳デビューをされています。
韓国語翻訳家のたなともこさんは、友人から送ってもらったホン・ソンスさんの著書『ヘイトをとめるレッスン』を読んで、翻訳出版したいと決めたのだとか。ホントに動いて実現させちゃう行動力がすごいな。
『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』の著者・宮崎伸治さんも、出版社に持ち込み企画をしていたそう。ただ、デビュー作は「名前が出ない」予定で進んでいました(ある大物文筆家が翻訳家としてクレジットされる予定だった)。
デビューの形はいろいろあれど、自分の名前で本が出せるのはうれしいことですよね。でも、過去の翻訳を見直すことほど、つらい作業はないと思います。『日々翻訳ざんげ』に綴られているのは、勘違いや誤訳へのざんげと、新人だった頃の自分への激励半々。
校正者も、あんまり自分が担当した本を読まないと聞いたことがあります。“なにか”発見してしまった時に、心臓に悪いからでしょうね……。わたしなんて、赤くなったり、青くなったりで忙しいな、きっと。
「ティッシュペーパー」というモノが日本になかった頃、「Kleenex」という言葉が何を指しているのか不明で、「宝箱」となっていたと聞いたことがあります。海外文化の入り口である翻訳本。「和臭か、無臭か、洋臭か!?」と帯にあるとおり、翻訳の手法の歴史をたどる旅でもあります。
翻訳の舞台裏や、仕事の特性を楽しめるのはもちろん、ミステリーの裏側に仕込まれた作家の意図といったネタばらし情報に触れることもできる一冊です。
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