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『ヘイトをとめるレッスン』#741


「あの人たちはなんなの!? 人間じゃないでしょ……」

いまから10年近く前のこと。東新宿に住んでいた友人は、新大久保へと買い物に出かけ、在特会(在日特権を許さない市民の会)のデモ、というか、集団に出会ってしまったのでした。

あり得ないような言葉で、外国人を罵る集団。

この数日前、池袋で同じような光景を目にして、熱を出してしまったわたしのことを、友人は「繊細だねー」と笑っていたのですけど。いざ、自分が会った時には、吐いてしまったのだとか。

なにより怖かったのは、そんな光景が自分のすぐ近くに、日常の中にあることでした。


2011年8月ごろから、フジテレビに対して反韓デモが行われるようになり、9月には規模が拡大。ちょうど番組の改編期だったせいか、秋クールからはどの局も韓流ドラマの放送を中止にしました。当時わたしが仕事を請けていた字幕制作会社は、仕事の6割が消滅し、社長はいろいろな整理に追われていたっけな。

すっかりヒマ人となってしまったわたしは、池袋の映画館に行く途中で、在特会の集団に出くわしたのでした。

書くのもためらわれるほどの、侮辱と侮蔑の言葉。憎悪という感情を、これほどまでに“堂々と”まき散らしている人を初めて見ました。

3日ほど寝込んでいるうちに、どんどんと気持ち悪さが増していきました。知性とか、気品とか、恥じらいとか、わたしが今まで大事にしていたものが全部吹っ飛んだ。

こうしたマイノリティに対する“攻撃”を、韓国の淑明女子大学法学部教授のホン・ソンスさんは、「ヘイト」と定義しています。

“ヘイト表現とは「マイノリティに対する偏見、または差別を拡散させたり、助長する行為、あるいは個人、集団に対して彼らがマイノリティとしての属性をもっているという理由で蔑視・侮辱・威嚇したり、彼らに対する差別、敵意、暴力を扇動する表現」と、その概念を定義することができる。”

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『ヘイトをとめるレッスン』

(画像リンクです)

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この本自体は、韓国での状況を書いたものですが、読みながら日本のことなんでは!?と、感じる内容です。

韓国では、2004 年に「外国人勤労者雇用許可法」、そして2007年に移民受入の基本法である「在韓外国人処遇基本法」が施行され、移民国家へと舵を切りました。

でも、外国人労働者と移民を隣人とみなしたくないと考えている人は、なんと31.8%もいるのだそう。また、障がい者への侮蔑、ミソジニー(女性嫌悪)、そしてクリスチャンの多い韓国では、性的マイノリティへのヘイトも問題になっているんですよね。


最近では、韓国ドラマにも、LGBTQの話が当たり前に出てくるようになりました。

「梨泰院クラス」ではまだ取り上げ方が雑な気がしたけど、「mine」では、ハッキリと勘違いを描いていて、進化を感じます。



「自分の周囲にはいないから分からない」と言った政治家も日本にはいましたが、たしかに想像だけでは分からないことはたくさんあるはずです。

だからこそ、ドラマの中でマイノリティに向けられる言葉の、どれが侮蔑と“本人が”感じるのか、“周囲は”どう対応するのがいいのか、といったことを見られるのは、とてもいいことなんじゃないかと思うのです。

本では何度も、「マイノリティ側がどう感じるか」が重要だと指摘されています。

ところで。

女性がガラスの天井について語ると、男だって……という人がいますよね。表現の自由ってものがあるじゃないかという人も。

でも、「ヘイト」ってそんなレベルの問題じゃない。命の問題なんですよ。

冒頭に書いた在特会に対し、立ち上がった市民団体のことは、本では「カウンター」として紹介されています。おそらく「レイシストをしばき隊」のことだと思われますが、当時、わたしは迷った末に、活動に参加するのを止めました。

どうにも名前が……受け入れられなくて。実際に「しばく」活動ではなかったようですけれど、それでもこのチョイスは誤解を生むでしょう。

そうして、わたしは「傍観者」となったのでした。

ここで傍観することは、差別に加担するのと同じだなと思いながら……。


あの時、この本があったらよかったのにと思わずにいられません。

ヘイトのピラミッドを知る、拡散する背景など、ひとつずつレッスンを受けながら自分の軸を作れたのに。

これからでも遅くない。マイノリティが感じる恐怖をどう取り除くのか。ひとつずつ学んでいきたいと思います。

ドシッと重い内容ですが、韓国の事件や法律、海外の出来事などにはていねいな解説がついていて、翻訳もとても読みやすいです。

もし、これは韓国の話であって、日本は違うと考える方は、安田浩一さんのルポルタージュ『ネットと愛国』を読んでみてください。在特会のメンバーに取材した力作です。


今日、2021年7月23日20時から、東京オリンピックの開会式が行われる予定です。最後の最後で、「命を守る」ことを優先する決断が下されるんでは……なんて、期待してたけど。

やるのかな。ホントに。

日本がブエノスアイレスで披露した「お・も・て・な・し」は、あくまで「日本仕様」であって、世界標準ではなかったことが明らかになったのが、いまなのではないでしょうか。マイノリティへの暴力が明らかになったり、スポンサーへの忖度はがんばるけど、アスリートや観客にはやさしくなかったり。

つまり、日本の人権意識って、まったくイケテナイのですよね。女性、障がい者、そしてホロコースト。世界を知らないのもほどがあるでしょう。

大会関係者のみなさん、いまからでも、この『ヘイトをとめるレッスン』読んでみませんか?

これまでに起きた数々の問題は「ヘイト」ではないけれど、「足を踏んでいること」に気が付かない、無神経さが原因になっているように思うから。そして、人権意識や歴史感覚、国際感覚は、意識しないと身についていかないものだから。

これ以上、恥の上塗りをしないためにも、『ヘイトをとめるレッスン』は、最高のガイドになってくれるはずです。


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