「あの人たちはなんなの!? 人間じゃないでしょ……」
いまから10年近く前のこと。東新宿に住んでいた友人は、新大久保へと買い物に出かけ、在特会(在日特権を許さない市民の会)のデモ、というか、集団に出会ってしまったのでした。
あり得ないような言葉で、外国人を罵る集団。
この数日前、池袋で同じような光景を目にして、熱を出してしまったわたしのことを、友人は「繊細だねー」と笑っていたのですけど。いざ、自分が会った時には、吐いてしまったのだとか。
なにより怖かったのは、そんな光景が自分のすぐ近くに、日常の中にあることでした。
2011年8月ごろから、フジテレビに対して反韓デモが行われるようになり、9月には規模が拡大。ちょうど番組の改編期だったせいか、秋クールからはどの局も韓流ドラマの放送を中止にしました。当時わたしが仕事を請けていた字幕制作会社は、仕事の6割が消滅し、社長はいろいろな整理に追われていたっけな。
すっかりヒマ人となってしまったわたしは、池袋の映画館に行く途中で、在特会の集団に出くわしたのでした。
書くのもためらわれるほどの、侮辱と侮蔑の言葉。憎悪という感情を、これほどまでに“堂々と”まき散らしている人を初めて見ました。
3日ほど寝込んでいるうちに、どんどんと気持ち悪さが増していきました。知性とか、気品とか、恥じらいとか、わたしが今まで大事にしていたものが全部吹っ飛んだ。
こうしたマイノリティに対する“攻撃”を、韓国の淑明女子大学法学部教授のホン・ソンスさんは、「ヘイト」と定義しています。
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『ヘイトをとめるレッスン』
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この本自体は、韓国での状況を書いたものですが、読みながら日本のことなんでは!?と、感じる内容です。
韓国では、2004 年に「外国人勤労者雇用許可法」、そして2007年に移民受入の基本法である「在韓外国人処遇基本法」が施行され、移民国家へと舵を切りました。
でも、外国人労働者と移民を隣人とみなしたくないと考えている人は、なんと31.8%もいるのだそう。また、障がい者への侮蔑、ミソジニー(女性嫌悪)、そしてクリスチャンの多い韓国では、性的マイノリティへのヘイトも問題になっているんですよね。
最近では、韓国ドラマにも、LGBTQの話が当たり前に出てくるようになりました。
「梨泰院クラス」ではまだ取り上げ方が雑な気がしたけど、「mine」では、ハッキリと勘違いを描いていて、進化を感じます。
「自分の周囲にはいないから分からない」と言った政治家も日本にはいましたが、たしかに想像だけでは分からないことはたくさんあるはずです。
だからこそ、ドラマの中でマイノリティに向けられる言葉の、どれが侮蔑と“本人が”感じるのか、“周囲は”どう対応するのがいいのか、といったことを見られるのは、とてもいいことなんじゃないかと思うのです。
本では何度も、「マイノリティ側がどう感じるか」が重要だと指摘されています。
ところで。
女性がガラスの天井について語ると、男だって……という人がいますよね。表現の自由ってものがあるじゃないかという人も。
でも、「ヘイト」ってそんなレベルの問題じゃない。命の問題なんですよ。
冒頭に書いた在特会に対し、立ち上がった市民団体のことは、本では「カウンター」として紹介されています。おそらく「レイシストをしばき隊」のことだと思われますが、当時、わたしは迷った末に、活動に参加するのを止めました。
どうにも名前が……受け入れられなくて。実際に「しばく」活動ではなかったようですけれど、それでもこのチョイスは誤解を生むでしょう。
そうして、わたしは「傍観者」となったのでした。
ここで傍観することは、差別に加担するのと同じだなと思いながら……。
あの時、この本があったらよかったのにと思わずにいられません。
ヘイトのピラミッドを知る、拡散する背景など、ひとつずつレッスンを受けながら自分の軸を作れたのに。
これからでも遅くない。マイノリティが感じる恐怖をどう取り除くのか。ひとつずつ学んでいきたいと思います。
ドシッと重い内容ですが、韓国の事件や法律、海外の出来事などにはていねいな解説がついていて、翻訳もとても読みやすいです。
もし、これは韓国の話であって、日本は違うと考える方は、安田浩一さんのルポルタージュ『ネットと愛国』を読んでみてください。在特会のメンバーに取材した力作です。
今日、2021年7月23日20時から、東京オリンピックの開会式が行われる予定です。最後の最後で、「命を守る」ことを優先する決断が下されるんでは……なんて、期待してたけど。
やるのかな。ホントに。
日本がブエノスアイレスで披露した「お・も・て・な・し」は、あくまで「日本仕様」であって、世界標準ではなかったことが明らかになったのが、いまなのではないでしょうか。マイノリティへの暴力が明らかになったり、スポンサーへの忖度はがんばるけど、アスリートや観客にはやさしくなかったり。
つまり、日本の人権意識って、まったくイケテナイのですよね。女性、障がい者、そしてホロコースト。世界を知らないのもほどがあるでしょう。
大会関係者のみなさん、いまからでも、この『ヘイトをとめるレッスン』読んでみませんか?
これまでに起きた数々の問題は「ヘイト」ではないけれど、「足を踏んでいること」に気が付かない、無神経さが原因になっているように思うから。そして、人権意識や歴史感覚、国際感覚は、意識しないと身についていかないものだから。
これ以上、恥の上塗りをしないためにも、『ヘイトをとめるレッスン』は、最高のガイドになってくれるはずです。
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