与えられるものはすべて与えているはずなのに、なぜみんな去ってしまうのか……。
日本神話をモチーフにした『空色勾玉』は、命の不思議を感じさせるファンタジーなのですが、恋愛小説の要素もたっぷり。
考えてみれば日本って、イザナキとイザナミのきょうだいが結ばれて誕生した国土。現代の人間なら「許されない恋」ですよね。韓国ドラマなら、あるあるな設定だけど。
タブーに惹かれ、運命の扉を開き、世界を変えてしまう。
神話的ファンタジーが描く少女の運命に、調和と共生の意義を感じました。
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『空色勾玉』
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輝(かぐ)の大御神が治める地で少女・狭也(さや)はある日、祭りの楽人に出会う。彼らの正体は輝に敵対する闇(くら)の一族で、狭也は闇の巫女姫・狭由良(さゆら)だと告げる。そこへ、狭也の憧れだった輝の大御神の御子である月代王(つきしろのおおきみ)が現れ、狭也は輝の宮に行くことに。輝の宮で幽閉されている美少年・稚羽矢(ちはや)と出会い……。
輝の一族は不変性、闇の一族は変化の性質を持っているため、両者が相容れることはないのですが。
家族を失い、輝の神を崇める村で育ったため、狭也は「月代王=輝一族」への憧れを持ってしまうんです。知らなかったとはいえ、闇の一族なのに。月代王に見初められたものの、月代王が見ているのは転生する前の自分。
どこまでもすれ違い、分かり合うことのない関係が、めちゃくちゃせつない。
月代王って、今風にいうと「勘違い男」なんですよ。
女の子たちがドンドン寄ってきて、よしよしーってかわいがってあげてたのに、いつの間にかみんないなくなっちゃう。
なんで!?
って感じで、さっぱり理由を分かってない。
いや、だって。
きみが、いま、そこにいる、その人を見ていないからだよ!!
って感じで、ツッコみたくなるところもいっぱいです。
光・闇・剣といったモチーフが日本神話を彷彿させるので、『空色勾玉』を読んでから『古事記』を読んだ方が、すんなり頭に入ってくるかもしれません。漢字が多くてこんがらがっちゃうけど、わたしの場合、この本が入り口となって日本の神話に関する本を読みました。
そして、あっけらかーーーんとした性の描写にビックリした……。
国造りの神話が、開放的な性描写なのは世界でもまれなのだそうです。神話好きと、ファンタジー好きをつないでくれる本だと思います。
荻原規子さんは、この『空色勾玉』でデビューされています。幼い頃に『古事記』を読み、大学では児童文学を専攻されていたのだそう。ご自身の中で『指輪物語』や『ナルニア国物語』の存在が大きくて、なぜこんなにおもしろく感じるんだろうという疑問が出発点だったと、『三人寄れば、物語のことを』で語っておられました。
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『三人寄れば、物語のことを』
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『空色勾玉』は勾玉シリーズの第1巻で、『白鳥異伝』『薄紅天女』と合わせて勾玉三部作になっています。壮大で華麗。重厚で可憐。神話世界の調和がみどころの物語です。
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