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『お金のむこうに人がいる』#823


「なぜ、紙幣をコピーしてはいけないのか?」

めちゃくちゃ基本的な質問な気がするけど、なんでなんだろう。法律で禁止されているから、なんて答えでは、おもしろくもなんともないので、もうちょっと考えてみます。

ホンモノの紙幣には「ユーリオン」という小さな円形模様があって、コピー機はそのマークを見分けているのだそう。

YouTuberの「水溜りボンド」さんが試しにおもちゃのお札をコンビニで印刷したら、警報が鳴ったとのことでした……。


1998年に公開された映画「踊る大捜査線 THE MOVIE」には、身代金として準備したお札の番号をせっせとメモするシーンがありました。

「コピーしちゃえばいいのに」

新人ちゃんの素朴なひと言に、みんなで気まずそうに目を見合わせるんです。

“使用する”目的じゃなければ、コピーしてもいいんじゃないのかしら。いやいや、そんな作業に意味はない。

そして、そういう意味の質問じゃない!

(画像リンクです)


「お金は流れる水のようなもの」

そう語るのは、ゴールドマン・サックスで金利トレーディングの仕事をしていた田内学さんです。

え!? ゴールドマン・サックスって、あのゴールドマン・サックス!?

と思いませんか? 超ゴリゴリの、資本主義の権化みたいな企業でしょ?

そんなエリート階級で仕事をされていた方が書いた、経済の“入門”書。いやいや、悪いけど、そんな本はいっぱい見たことがあります。そして結局はつまずくんです。

専門用語に。

よく分からない数字の羅列に。

なんだか壮大なロジックに。

でも、田内さんの著書『お金のむこうに人がいる』には、<専門用語も計算式も出てこない、誰でも最後まで読み通せる「やさしい経済の入門書」です>という帯が付いていました。

読んでみて、思いました。

こういう本が読みたかった!!!

「やさしい経済」って、

・やさしい=難しくない

・やさしい=人に対して

という、両方の意味が含まれているように感じました。

☆☆☆☆☆

『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

田内さんがゴールドマン・サックス社を辞めたのは、2年前のこと。理由は「エネルギーが切れた」せいだと語っておられます。


その後、佐渡島庸平さんと知り合い、三田紀房さんの漫画『ドラゴン桜』の制作に協力。ダイヤモンド社の編集者である今野さんとの出会いを経て、書きためた話を書籍化することになったそう。

『お金のむこうに人がいる』で解説されている経済の話は、とてもシンプルです。

わたし(個人)が持っているお財布の内と外。国が持っているお財布の内と外。

これを前提に、銀行ってどういうビジネスをしているところなのか、貿易黒字とはどういうことなのかが語られていきます。

日本では「お金」に対する教育がされないし、わたしが以前仕事をしていた制作の現場では、着手前にギャランティの話をするのは、「なんとなくタブー」な雰囲気がありました。

だからなんとなく口に出せないまま、分からないまま、オトナの時間を長く過ごしてきてしまったのですけれど。

そもそも「お金」ってなんなんでしょうか。

「お金儲けして、何が悪いんですか?」とぶちまけた村上世彰さんは、「お金はしょせん道具」と語っています。


そしてホリエモンこと堀江貴文さんは、「お金とは信用のひとつの表現形態に過ぎない」と書いています。


わたしにとって「お金」とは、なんなんだろう?

あるとうれしい。しかも、いっぱいあった方がうれしい気がする。値段を気にしないで欲しいものが買えるし、行きたい場所にいけるし、おいしいものだって食べられる。

でも、田内さんはキッパリと仰います。

“あなたが消費しているのは、お金ではなく、誰かの労働だ。”

「お金があれば、モノが手に入る」と思ってしまう。でも、その向こうには必ず「人」がいるのです。このたとえは、すごく分かる!!!


各章にはクイズがついていて、第4話のテーマがまさにな問いでした。

“お金が偉いのか、働く人が偉いのか?”


お金の価値について考えることと、コンマリ・メソッドが実はとても近いところにあるのだと気付いたり、お金を使う時に「誰が働いて、誰が幸せになるのか」を考えたり。

いままでとは違う形で「お金」について、「経済」について、自分の「生き方」について考える指針になりそうな一冊。

経済の“入門”書といっても、結局難しい話でしょ、と思っている方に、ぜひおすすめしたい。

「もっと早く言ってよ~」って言いたくなりました。


実は、何度か読んだけれど未消化で、もうちょっと考えてみたいと思った章がありました。貿易黒字の話です。

国の財布には「労働の貸し借り」が入っていて、それが貿易の収支を表すのだそう。

読みながらどうしても、韓国コンテンツに切っても切れない歴史的出来事である、1997年の通貨危機を思い浮かべてしまいました。


この時の韓国は「もらい事故で大けがを負った」ともいわれていますが、結果的に国内経済はガタガタになり、ヘッジファンドに食い荒らされ、多くの痛みを残しました。新自由主義を推進し、格差は拡大。OECDの中で、20年連続労災死亡率1位、高齢者自殺率1位という不名誉な記録をつくるほどになっています。

なぜ、韓国経済はこれほど食いちぎられ、社会は壊れていったのか。

いま世界中で話題になっているドラマ「イカゲーム」も、資本主義における勝者と敗者をグロテスクに描いた物語です。


経済が分かれば、人や社会が、なぜこんなにも傷ついたのか、もっと理解できそう。ドラマをもっと深く理解できるかもしれない。

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