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『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』#824


社会人デビューをした時は、習得しないといけないスキルが山ほどありますよね。

パソコンや敬語といった基礎的なものから、SNSの使い方、営業トーク、コミュニケーションなどなど。その上、データを読み解く力や、論理的思考といった、より高次な思考力も求められるように。

中には器用にこうしたスキルを身につけてステップアップしていく方もいますが、いったい何が違うんだろう?

「学ぶ(まなぶ)」の語源は、「真似ぶ(まねぶ)」といわれていますが、ほぼ同じ時代に登場するそうで、どちらが先だったのかははっきり分かっていないそう。

ただ、「真似る」のが「学ぶ」近道であることは、確かだろうと思います。

佐渡島庸平さんの著書『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』は、まさに「真似て学ぶ様子=観察力」を「観察」した本です。

タイトルには「鍛え方」とありますが、「こうすれば鍛えられる!」というハウツー本ではないところがおもしろいところ。佐渡島さん自身が、ああだろうか、こう思うんだけど、という思考の過程を開示されていて、その道のりを追っていくことができます。

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『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』

(画像リンクです)

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佐渡島さんは、編集者として三田紀房さんの『ドラゴン桜』や小山宙哉の『宇宙兄弟』などの人気マンガを作り出した方です。

元ゴールドマン・サックスの金融マンだった田内学さんが、初めての著書『お金のむこうに人がいる』を書くきっかけを作った方でもあります。


アートディレクターである水野学さんは「センスのよさとは、数値化できない、事象のよし悪しを判断し、最適化する能力」のこと、と語っています。

能力ということは、誰でも磨いて伸ばすことができる“はず”なんですよね。


たぶん「観察力」もこれと同じで、誰でも磨いて伸ばすことができる“はず”なんです。

佐渡島さんは新人マンガ家を育成する際、いいクリエイターの条件として「観察力」に優れていることを挙げておられます。

“インプットの質が良ければ、最終的にアウトプットの質も良くなる。インプットの質を高めるのが「観察力」だ。”


こうした考えをお持ちの佐渡島さんが、新人マンガ家さんたちに次々にお題を出す。これに応えて、マンガ家さんたちが自身の思考の過程を描いたマンガも掲載されています。

むかしは「背中を見て学べ」なんて言われていましたが、いまのビジネスパーソンにとっても「観察力」の違いは大きな差になるかも。

わたし自身は「観察力」って、物事を見る時の「編み目を細かくする」イメージを持っていました。

でも、ちょうど砥上裕將さんの『7.5グラムの奇跡』という小説を読んでいて、観察したものを受け止める心を育てることが、さらに重要なのかもと感じました。

(画像リンクです)


佐渡島さんの本でも、3章から4章へと話が進むにつれ、内面の話になっていきます。観察はいかに歪んでいくのか、感情と関係性についてなどは、とても哲学的な問いでもあります。

簡単に正解はでないし、こうすればできるというハウツーもない。

そんな道なき道を歩くのは楽しいこと。ゆっくり歩くからこそ見える世界を、「観察」してみませんか?


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