「世界的巨匠」なんて呼ばれることを、たぶん宮崎駿監督はお嫌いなんでは……と思ったことがあります。
何者かになりたくてアニメをつくってきたわけではないだろうから。
情熱のまま、子どものように無邪気に、ガンコに物語を紡いできた姿は、鈴木敏夫さんの『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』に綴られていました。
そんな宮崎監督にも“若かりし頃”はあったわけで、堀田善衛さん、司馬遼太郎さんという知の巨人に挟まれて、20世紀を語りつくす鼎談『時代の風音』では、「書生役」というか、「小僧役」のような扱いをうけています。
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『時代の風音』
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ロシアや中国、イスラームに日本、近代から現代へと時代が移る中で、日本人が得たものと、失ったもの。世界が向かう方向についてなどなど、話題がとても広い。
もともと別の出版社から刊行されていた本の再版なのですけど、最初に刊行されたのが1992年。
ソ連が崩壊したのは1991年12月25日なので、まだ生々しい興奮が感じられます。堀田善衛さん曰く、ソ連は「難治の国」なのだとか。
イスラムとモンゴル族に気を使わざるを得なかったイワン雷帝。イデオロギー独裁政治から、強行着陸を目指すしかなかったゴルバチョフ。
合議制という発想がなかったのだから、そうなりますよね……。
なーんて、分かったようなことを書いていますけれど。
この鼎談、堀田さんと司馬さんの知識量が豊富すぎて、しかも怒濤なので、まったく理解できない……。笑
たとえていうなら、空中戦のドッジボールのコートにいるような感じです。ぜったい自分にボールがヒットする可能性はない。
そんな中、宮崎さんが何か言うと、かるく司馬さんにいなされてしまうシーンも。
ちょうどこの頃、映画を準備されていた宮崎さん。司馬さんからこんな質問を受けます。
宮崎「ヤケクソみたいな名前なんですけど『紅の豚』」
司馬「紅か。おもしろそうですね。また飛んでいくんでしょう」
ピンク……。飛んでいく……。
門前の小僧のように、何度も読めば、少しはヒットするところが出てくるのかしら。と、思いつつ、自分がふだん、いかに「分かりやすい」ものに触れているのか感じました。
難しいことを分かりやすく言えるって、すごい知性なのですけど。
難しいことをガリガリとかみしめる意気も必要だなと思ったのでした。
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