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日本初の暦作りに命をかける 『天地明察』 #422

暦とカレンダーの違いって、ご存じですか? Calender:月、日付、曜日などが分かるようにしたもの 暦:時間の流れを年、月、週、日に当てはめて体系づけたもの どう違うねん?という気もしますが、「暦」は占い・易に近く、年を通して良い日を見極めるためのデータブックのようなものだそうです。だから農業や商売に携わる人にとってはとても大事なものなんですね。 明治6年に導入された「グレゴリオ暦」が、慣れ親しんでいるカレンダーの「太陽暦」で、地球が太陽の周りを回る周期をベースにしています。 これ以前はずっと、各時代の中国が作った「太陰暦」を輸入して使っていたそうです。月の満ち欠けをベースにして一か月を数える日本独自の「太陰太陽暦」ができたのは江戸時代。17世紀のことです。 冲方丁さんの小説『天地明察』は、囲碁棋士であった渋川春海が、日本初の太陰暦を作り上げる様子を追ったものです。「北極星の位置を確認せよ」という幕府の命を受け、測量と天体観測の旅に出るというプロジェクトXに胸が熱くなりました。 ☆☆☆☆☆ 『天地明察』 https://amzn.to/3hCqaXm ☆☆☆☆☆ 天体観測というビッグなプロジェクトなのに、実際にやるのはてくてく歩いて歩数を数えること。旅に出た渋川春海は、歩いている間、先輩のみなさんが無口だなーと思っていたら、歩数を数えていてビックリという話が出てきます。 いまでこそ難しい計算はコンピューターがやってくれますが、江戸時代は数を数えるのも自分の能力次第。計算も、和算という方式ですべて自分でやらないといけません。 それらをとてもていねいにやる人だったようです。囲碁の達人なので大局観もあり、暦と実際の天候とのズレから緯度に気づく発想も、すべてが超人級です。 むかしの東洋社会には「中国皇帝が世界の中心」という中華思想がありました。そのため、「暦」を作る権限は天命を受けた皇帝だけにあると考えられていたそうです。 つまり、独自の「暦」を作ろうとすることは、中国に対抗するものととらえられる可能性があったのです。 幕府の重鎮たちの反対にも屈せず、実際に日食が起こる日を当てることになった渋川。さて、勝負の行方は……という胸熱な展開です。 こういうプロジェクトXな物語が好きなんですよね。おまけに渋川は、刀を差したとたんに重さによろけてしまうような、チャーミングな人物。そ

命と科学はとても近いところにあるのかもしれない 『月まで三キロ』 #419

9月2日の夜。刺すようだった日射しがなくなって、ようやく外を歩けるようになったころ、近所を散歩していました。いつもとは違う道を曲った時。目の前に大きな月がありました。 アメリカの先住民は、9月の満月のことを「ハーベストムーン」と呼ぶのだそうです。名前のまま、「ハーベスト」のお菓子のような、やわらかい光。まだ周囲には雨に匂いが残っていて、月もしっとりして見えます。 「月の光」というと、青白い銀色を思い浮かべますが、のぼったばかりの満月は、こんがりしたオレンジ色でした。 「あんたも、焦げそうだったの?」 そんな風に声をかければ聞こえるんじゃないかと思うくらい近い。でも、ホントは38万kmもあるんですね。 そのはずなのに。 「月まで3km」という看板があったら? キツネに化かされているのかと思ったら、とんでもなかった。伊与原新さんの短編集『月まで三キロ』は、とても静かな光に満ちた小説でした。 ☆☆☆☆☆ 『月まで三キロ』 https://amzn.to/3hCY6Eq ☆☆☆☆☆ 著者の伊与原新さんは、小説家ですが、理学博士でもあります。専門は地球惑星物理学だそうです。月、火山、結晶、化石など、小説のテーマに専門性が生きていて、でも専門的すぎないのでとても読みやすい。 「折れそうな心に寄り添う」と帯にあるとおり、どの短編も命のあり方を問う、あたたかみのある物語です。 表題作の「月まで三キロ」は、死に場所を探している男が主人公。最後の晩餐にとうなぎ屋さんに行くのですが、ぜんぜん食べられない。食事を残した男に、お店の人がかけた言葉がつらい。 さまよっている理由を察しているタクシー運転手と、踏ん切りのつかない男。そこで運転手が提案します。 「世界で一番月に近い場所があるんです。行ってみます?」 あの世の入り口じゃないのか?とドキドキしてしまう展開。タクシーが止まった先で男が目にしたものに、思わずウルッときました。 「科学の知識」というと、とても冷たい、とっつきにくいイメージがありました。人間に役立つもの、役に立たないものに仕分けされ、不要なものは、ためらいもなくバッサリ切り捨ててしまうような気がしていたんです。 でも、この小説の中で使われている「科学の知識」は、とても人間的で、ぬくもりのあるものでした。こんなに身近に感じられるなんて、とても意外で、ちょっとうれしい。地球にも、ち

人生の主人公は自分! なつかしの洋楽満載の青春ストーリー 映画「サニー 永遠の仲間たち」 #404

小説家や脚本家のタイプとして、物語世界を起ち上げるのがうまい人と、話の展開がうまい人がありますよね。 「ハリー・ポッター」シリーズを書いたJ・K・ローリングは前者の代表だと思います。映画「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」を観て、(ローリングは原作を書くことに集中した方がよいのでは……)と思ったのはここだけのヒミツ。 一方の筋立てや運びのおもしろさで読者をひきつける作家は「ストーリーテラー」と呼ばれます。 小説家ならイギリスのジェフリー・アーチャーが有名。彼は“物語を語る”ことにこだわっていて、読者を飽きさせないことを常に念頭に置いているそうです。 モダン・ホラーの第一人者で、多くの作品の映像化されているスティーブン・キングも「ストーリーテラー」でしょう。 「ストーリーテラー」は本来、小説家に使われる言葉のようですが、映画を観ていても「この脚本家は“ものがたリスト”だなー」と感じることがあります。 たぶん「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノがこのタイプ。デビュー作の「ほえる犬は噛まない」は、日常を舞台にした話ながら批評家から絶賛されました。 そんな“ポン・ジュノの再来”と言われたのが、「サニー 永遠の仲間たち」のカン・ヒョンチョル監督です。 ☆☆☆☆☆ 映画「サニー 永遠の仲間たち」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 専業主婦のナミは、母の見舞いに行った病院で、かつての親友・チュナと再会する。久しぶりの出会いを喜ぶものの、チュナは末期がんに冒されていた。「死ぬ前にもう一度だけみんなに会いたい」というチュナの願いを叶えるため、かつての仲間たちを探すことにするが……。 デビュー作の「過速スキャンダル」は、韓国で観客動員数824万人を記録。2作目の「サニー」もヒットし、ベトナムやインドネシアでリメイクされました。 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) 日本版リメイクとして公開されたのが、大根仁監督の「SUNNY 強い気持ち・強い愛」です。シンクロ率90%超え!な日本版は、脚本も大根監督が担当しています。カメラ位置や衣装まで寄せているにも関わらず、いくつかの点は「日本向け」になっていました。 その変更が、映画の印象を大きく変えたような気がするんですよね

90年代トレンド満載!一番輝いていた時代の明と暗 映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」 #403

「あなたが一番輝いていた時はいつですか?」 子どもの頃に思い描いていた未来はあったけれど、ノストラダムスの大予言は現実にならなかったし、2001年になっても宇宙の旅は現実にならなかったし、2003年4月7日になってもアトムは誕生しなかった。少なくとも、夏はここまで地獄のように暑くはなかった。 “未来”ってもっとキラキラしてたんじゃなかったっけ? 現在の自分を思うと、無邪気にそう思っていた自分がうらやましくなります。 「一番輝いていたのは高校時代!」という主人公が、20年以上という歳月を経て親友と再会する映画を観ました。 明るく無邪気で、そして残酷だった仲良し女子高校生グループの、いまと過去を描いた映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」は、90年代のトレンドを詰め込んだストーリーです。「一番輝いていた時」がキラキラしてまぶしいくらい。 ☆☆☆☆☆ 「SUNNY 強い気持ち・強い愛」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 専業主婦の奈美は、母の見舞いに行った病院で、かつての親友・芹香と再会する。久しぶりの出会いを喜ぶものの、芹香は末期がんに冒されていた。「死ぬ前にもう一度だけみんなに会いたい」という芹香の願いを叶えるため、かつての仲間たちを探すことにするが……。 韓国でスマッシュヒットとなった映画「サニー 永遠の仲間たち」の、日本版リメイクです。 人生の主人公は自分! なつかしの洋楽満載の青春ストーリー 映画「サニー 永遠の仲間たち」 #404   監督と脚本は大根仁。「モテキ」や「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」同様、ポップカルチャー満載。 しかも時代は90年代半ば。 小室サウンド全盛期のコギャルブーム真っ盛りー! サブタイトルにも使われている小沢健二「強い気持ち・強い愛 Metropolitan Love Affair」をはじめ、安室奈美恵「SWEET 19 BLUES」、TRF「survival dAnce 〜no no cry more〜」、JUDY AND MARY「そばかす」、PUFFY「これが私の生きる道」など、懐かしのサウンドもいっぱいです。 現代のオトナ時代と女子高生時代を行ったり来たりして進むストーリー。出演している俳優がとにかく豪華です。 主人公の奈美を演じるのは、現代編が篠原涼子、JK編は広瀬すず。とりあえず、一定

格闘技のチャンピオンがエクソシストに!? 異色のバディ誕生 映画「ディヴァイン・フューリー/使者」 #400

「愛の反対は憎しみではない。無関心だ」 マザー・テレサはそう言って、 無関心であること、傍観者であることを批判しました。 「でも、神様は僕に関心持ってくれてるのかよぉぉぉ! 母さんのことも、父さんのことも、助けてって祈ったのに聞いてくれなかったじゃないかよぉぉぉぉ!」 そんな心の傷を負った男は、ひとり孤独な戦いを続ける男に対して“傍観者”でいられるのか? 映画「ディヴァイン・フューリー/使者」は、格闘技のチャンピオンがエクソシスト(悪魔祓い)と出会うという異色のバディものです。 ☆☆☆☆☆ 映画「ディヴァイン・フューリー/使者」 https://amzn.to/3qGpAft 公式サイト http://klockworx-asia.com/divinefury/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 子どもの頃に事故で父を亡くし、神への信仰を失ったヨンフ。総合格闘技の世界チャンピオンになった彼は、ある日、右手に見覚えのない傷ができていることに気づく。傷について調べるうち、バチカンから派遣されたエクソシストのアン神父と出会ったヨンフは、傷が聖痕だと知らされ……。 ムキムキの肉体美を誇りつつ、内面では神を恨み、悪魔に攻め込まれて消耗するチャンピオン・ヨンフを演じているのはパク・ソジュン。インタビューでは「もう少し身体を作り込めばよかった」と語っていましたが、いやいや、どうして、もう十分。でも、ちょっと細身なのかな。 (画像はKMDbより) 今年は「梨泰院クラス」の大ヒットで、日本でも顔を知られるようになりましたね。特にあの髪型。印象に残ります。 新時代の働き方とリーダー像を満喫 ドラマ「梨泰院クラス」 #339   パク・ソジュンはドラマで人気となり、映画にも進出した俳優です。実は「パラサイト 半地下の家族」にも出演していたんですが、気づきましたか? (画像はKMDbより) チェ・ウシク演じる半地下家族の長男に、家庭教師をしないかと持ちかけた友人です。水石を持ってきた先輩! 思えば、あの家族の運命を変えた人物ともいえますね。 そのチェ・ウシクも、「ディヴァイン・フューリー」に出演していますが、今回はちょい役。とはいえ、とても重要な役どころなのですが。 主演とちょい役が交代してるやん!!! (画像はKMDbより) チェ・ウシクを助手に、悪魔祓いのアン神父を演じているのが、超ベテラン俳

“既存の要素”を組み合わせればこうなる!短編集 『主な登場人物』 #391

「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせである」 アメリカの実業家ジェームス・ヤングはそう言ったそうですが、何と何を組み合わせるか、組み合わせた後にどう見せるかを考えると、ちょっと果てしなく気が遠くなってしまう。 天才・清水義範さんの試した創作方法は、名作小説の扉に書かれている「登場人物」の紹介からストーリーを想像してみることでした。チャンドラー好きの夫が悶絶した短編集『主な登場人物』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『主な登場人物』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ チャンドラーの作品をひとつも読んだことがないという清水さん。フィリップ・マーロウの物語が「ハードボイルド・ミステリーである」という程度の知識で、名作『さらば愛しき女よ』の清水版を書き上げています。 (画像リンクです) フィリップ・マーロウ。ご存じでしょうか? 「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」 という決めセリフが有名な、ひたすらかっこつけている私立探偵です(こんな書き方したら、ファンに怒られるな)。 『さらば愛しき女よ』は、マーロウシリーズの長編2作目にあたる作品。我が家にあるハヤカワ文庫の1976年初版 1988年32刷の本にある「登場人物」はこんな感じです。 これだけをヒントに物語を組み立てていくわけですが。 清水さんが一番ツッコんでいるのは、下から2行目の「ゾンダボーグ」の説明です。「怪しい医師」なんて書いちゃったら台無しじゃん! でも、「怪しい」と見られている人物が犯人なことはあり得ない。ということは、コイツは事件解明のヒントをくれる人間なのではないかと推理するのです。 “「いや、私もそりゃ、少々の遊びくらいはするさ。ギャンブルを楽しむことだってある。でも、だから私が殺人犯ということにはならんだろう。違うかね、タフな探偵さん」 とかなんとか言うのである。” こんな感じで推理小説を推理しつつ、想像でのストーリーが展開していきます。 これがまぁ、近いというか、遠いというか、そもそもが……というか。原作を知らなくても、ちゃんと楽しめるようになっているところがいいんですよね。 もうひとつ、「註釈物語」という短編を紹介すると、こちらは一冊の「註釈集」を手に入れた清水さんが中身を紹介してくれるというお話。 “一〇三11[例のあの、回転ですよ]何のことを言っているのか不

J.Y.Parkが俳優として初出演。恋と嫉妬は芸に活きる!? ドラマ「ドリームハイ」 #385

いま話題の9人組ガールズグループ「NiziU」。日本各地でのオーディションから東京合宿、韓国合宿の模様を追った「Nizi Project」は一気に見てしまいました。 NiziU Official Website 日本から世界へ!ソニーミュージック×JYPの合同オーディション・プロジェクト「Nizi Project」より、1万人から選び抜かれた9人組グローバル・ガールズグループ “NiziU” 誕生!!   まだ10代や20歳そこそこで過酷な競争の世界に飛び込んだ参加者の姿に、何度もウルッ。そしてプロデューサーであるJ.Y.Parkの言葉に、わたしも励まされました。 「ここで26位になっても、脱落したとしても、皆さんが特別ではないということではありません。1人1人が特別でなかったら生まれて来なかったはずです」 「見えない精神、心を見えるようにすることが芸術です」 「僕が君たちに期待することは歌とダンスの実力が全部ではありません。それに劣らず持ってほしいものは立派な人柄です」 「“真実”は、隠すものがない人になれという話です。カメラの前でできない言葉や行動は、カメラのない場所でも絶対にしないでください。気をつけようと考えないで、気をつける必要のない立派な人になってください」 「“誠実”は、自分との戦いです。毎日するべきことをすることです。自分自身に鞭を打って、歌の練習、ダンスの練習、語学勉強などをずっとしていたら、それが積み重なって、君たちの夢を叶えてくれます」 「“謙虚”は言葉や行動だけの謙虚ではなく、“心の謙虚”を意味します。自分自身が本当に足りないと思って、隣にいるみんなの短所ではなく長所だけを見て心から感謝すること。それが謙虚です」 「才能がある人が夢を叶えられるわけではありません。自分自身に毎日ムチを打って、自分自身と戦って、毎日自分に勝てる人が夢を叶えられます」 数々の名言が生まれていますが、日本での「いい人」戦略に対して韓国では、「イメージチェンジを図っているのでは?」なんて声も聞こえているそう。 なぜなら、アーティストとしてのJ.Y.Parkは、かなり奇抜なファッションで活動していたからです。 (画像はWho Isより) そんなJ.Y.Parkが初出演したドラマが「ドリームハイ」。英語教師だけどデビューを狙っているという役でした。学校の理事長を務めたのは