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超能力に目覚めたオッサン大暴れ 映画「サイコキネシス 念力」 #592

隕石のひかりまみれの手で抱けばきみはささやくこれはなんなの (穂村弘『 回転ドアは、順番に』所収) 隕石のひかりに包まれてしまうのも怖いけど、ひかりが含まれたお水を飲んでしまうのも怖い。 映画「サイコキネシス 念力」は、湧き水に浮かんでいた「ひかり」を飲み込んだオッサンが、超能力に目覚めて大暴れしちゃうというお話です。 コワモテからコメディまで乗りこなす怪優リュ・スンリョンと、日本での活躍もめざましいシム・ウンギョンが父娘役を演じています。 ☆☆☆☆☆ 映画「サイコキネシス 念力」 https://www.netflix.com/title/80226424 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 妻子を捨て、警備員の仕事をしながら冴えない生活を送るソッコンは、ある日突然、自分が超能力に目覚めたことに気づく。ソッコンの娘ルミはチキン店の店長として街の人々から愛されていたが、立ち退きを要求する地上げ屋の襲撃に遭い、母を殺されてしまう。ルミの知らせを受けたソッコンは、超能力で立ち向かおうとするが……。 リュ・スンリョンとチキン店は、相性がいいというか、いまさらコメディにしかできないというか。やっぱり「エクストリーム・ジョブ」のイメージが強烈すぎましたよね。 特大級のブラックコメディ 映画「エクストリーム・ジョブ」 #185   今回は娘のルミ(シム・ウンギョン)が店を切り盛りしています。テレビでも紹介されるくらいの人気店だったのに、地上げ屋の標的になってしまうのです。 (画像はKMDbより) 娘の前でかっこつけたい父ですが、せっかくの超能力を披露しても、「手品?」と言われてしまう始末。いや、その表情のせいなんじゃ……。 (画像はKMDbより) 物体を大きく動かす時は身体全体で、微調整する時はお尻や舌を駆使してやりくり。そんなおバカ感爆発なシーンを、てらいもなく演じてしまえるところがリュ・スンリョンのすごいところです。 監督・脚本は、「新 感染 ファイナル・エクスプレス」のヨン・サンホ監督。長年、離れ離れに暮らしていた父と娘の再会に、権力の横暴をかませてくるあたりが、にくらしい。 ゾンビがかわいそう!? 映画「新 感染 ファイナル・エクスプレス」 #161   映画のモチーフとなったのは、龍山電子商店街の再開発工事だそうです。ソウル市が発表した「漢江ルネサンス」計画の一環として、周辺の

BLACKPINK入門編はK-POPってなんだという問い 映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」 #591

「皮むけた唇に血がにじんでも あきらめたくはないやいやい」 17歳のとき、女子高生歌人としてデビューした加藤千恵さんの歌です(『ハッピーアイスクリーム』所収)。 「BLACKPINK」の来し方を追ったドキュメンタリー映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」を観ながら、加藤さんの歌を思い出していました。JKの全能感と焦燥感は、「BLACKPINK」にピタリと合うのです。 “永遠に醒めない夢はそれはもう夢ではなくてべつの何かだ”  (加藤千恵『ハッピーアイスクリーム』所収) 歌手になりたくてオーディションを受けた日から始まった、夢への道。レディー・ガガとコラボした新曲が、世界57ヶ国のiTunesチャートで1位になったり、1stシングルの動画の再生回数が、ギネス世界記録に認定されたり、彼女たちの夢はもうべつの何かになっているのではないかと思っていたのだけれど。 ああ、いまはまだ夢の途中なのだとも思う。 生い立ちから練習生時代のこと、オフタイムやトレーニングしながら、時に涙を流しながら語られる言葉のひとつひとつに、パワーの源泉が感じられました。現在、Netflixで配信されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」  https://www.netflix.com/title/81106901 ☆☆☆☆☆ 「BLACKPINK」とは、2016年8月8日にシングルアルバム『SQUARE ONE』でデビューした4人組のグループです。 現在活躍しているガールズグループのTWICEやNiziUは9人、IZ*ONEなんて12人もいることを考えると、4人という構成は少ないなという気もします。BTSだって7人もいますし。 でもこの4人の音楽は、人数構成を上回るパワーを感じさせます。女優としても活動するオム・ジョンファは、90年代後半に「セクシークイーン」として君臨し、「韓国のマドンナ」と呼ばれていました。「BLACKPINK」は、オム・ジョンファが切り開いた「かっこいい女」路線を受け継いでいるといえます。 初の海外旅行がハイジャック! 映画「ノンストップ」 #590   ジス、ジェニー、ロゼ、リサのメンバー4人は、YGエンターテインメントの練習生として知り合い、激しいトレーニングと厳しい評価に耐え抜いてきた「仲間」でもあるのだそう。グループ

初の海外旅行がハイジャック! 映画「ノンストップ」 #590

韓国にも「マドンナ」と呼ばれる歌姫がいます。 1993年に歌手としてデビューし、90年代後半に「セクシークイーン」として君臨したオム・ジョンファです。ファッションリーダーとしても注目され、「美容整形に失敗しちゃった~」なんてことも開けっぴろげに話す、かっこいいアネゴなイメージも。1998年に発表した4集「Invitation」のおかっぱヘアは一大ブームになりました。 ドラマや映画にも出演し、女優としても活動しています。中でもファン・ジョンミンと夫婦役を演じた「ダンシング・クィーン」は、コメディの才能を開花させた作品といえるかも。 でも、この時はまだ、「ポップスターのオム・ジョンファ」という印象が強かったと思います。映画の役柄も、そんなキャラクターを活かしたものでしたし。 それが、この2月に公開された「ノンストップ」では、コメディエンヌとして一皮むけた姿を見せてくれました。飛行機の乗員・乗客を巻き込んだ、ドタバタコメディです。 ☆☆☆☆☆ 映画「ノンストップ」  https://amzn.to/3vgJyOB ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 揚げパン屋を営むミヨンは、パソコン修理工の夫ソクファンと娘と家族3人、つつましくも幸せな生活を送っていた。ある日、ハワイ旅行に当選した一家は人生初の海外旅行に旅立つが、搭乗した旅客機には北朝鮮のテロリストが乗り合わせていた。旅客機はテロリストにハイジャックされて危機に陥るが……。 市場の“おばちゃん”として、たくましくも、愛らしくもあるミヨンを演じるオム・ジョンファ。夫のソクファンを演じるパク・ソンウンが身長187cmとめちゃくちゃデカイ俳優なので、ふたり並ぶととてもかわいらしく見えます。 (画像はKMDbより) ミヨンにも、ソクファンにも、秘めた過去があり、それがハイジャックという危機的状況を切り抜ける切り札になります。 というと、シュワちゃんの「トゥルーライズ」を思い浮かべてしまうのですが、狭い飛行機の中でのアクションや、飛行機から飛び降りるシーンなどなど、いろんな映画のいいとこ取りをしたような感じはありました。いい意味で。 ちなみにこの映画は、韓国初の「ハイジャックもの」なのだそう。美術スタッフは、約2週間にわたってパズルのような部品を組み合わせて飛行機のセットを完成させたそうで、チェックに来たボーイング社の担当者も褒めてくれたら

前だけを見て走ってきたふたりのディスコミュニケーション ドラマ「それでも僕らは走り続ける」 #584

「君の瞳に乾杯」 映画「カサブランカ」の名セリフですが、ハンフリー・ボガートは「Here's looking at you, kid.」と言っているんですね。キザで、不器用で、深い愛を感じるセリフ。歴史に残る「意訳」です。 映像の字幕翻訳は、 正しい翻訳<<<文字数 の世界です。以前、テレビ番組の字幕翻訳をしていた経験からいうと、長セリフなんてあった日には絶望的な気分になります……。『指輪物語』が「ロード・オブ・ザ・リング」として映画化されたとき、字幕がかなりカットされていることが問題になりました。ファンの心理として許せないのは分かる。 でも、入らないんだよー! “全部”訳すためには、画面全体に字幕を表示してもいいのか!?ということになります。そのため、字幕翻訳家の方は、「意味を読む」ことに長けているのではないかと思います(わたしは三流なのでそのレベルに達してないです)。 ドラマ「それでも僕らは走り続ける」では、そんな字幕翻訳家の仕事をしているオ・ミジュが、陸上短距離選手のキ・ソンギョムと出会います。 「翻訳するより難しいな」 と言ってしまうくらい、言葉の通じないふたり。はたして心を通わせることができるのか、というドラマです。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「それでも僕らは走り続ける」 https://www.netflix.com/title/81318872 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 字幕翻訳家のオ・ミジュは、女性蔑視発言をしたファン教授を怒らせてしまい、陸上選手の通訳を無料ですることに。ネット取引でだまされ、品物を持ち逃げされそうになったところを助けてくれたのが、通訳することになっていたソンギョム選手と美大生のイ・ヨンファだった。ミジュはソンギョムに好印象を持つが、マネジメントをするソ・ダナ代表からはイヤミを言われ、国会議員の父からは監視料を渡されてしまう……。 若さのドラマという感じですが、映画好きの人にとってはニヤニヤポイントがいっぱいです。冒頭に書いた「君の瞳に乾杯」はもちろん、ジェームズ・ボンドのマネが出てきたり、浴室の扉に「サイコ」のポスターが貼ってあったり。何度か見て発見するたびにちょこっとうれしい。一度で何粒もおいしいドラマといえます。 驚いたのは、オ・ミジュ(“オマージュ”のもじり)を演じるシン・セギョンの英語力です。子どものころから字幕なしで映画

韓国初のSF大作はやっぱりあの味 映画「スペース・スウィーパーズ」 #583

韓国初の宇宙SF映画として注目されていた「スペース・スウィーパーズ」ですが、2度の公開延期の結果、2021年2月5日にNetflixで配信されることになりました。全世界に同時公開され、人気映画ワールド1位を記録しています。 感想をひと言でいうと、成城石井と紀伊国屋で高級食材を買ってきて「高級レストランのハンバーグを作るぞー」と思ってたのに、いつもの「お家のハンバーグ」だったような感じでした。どんなや。 ☆☆☆☆☆ 映画「スペース・スウィーパーズ」 https://www.netflix.com/title/81094067 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 2092年、砂漠化や土壌の酸素化が進んだ地球は、人間がほとんど住めなくなっていた。宇宙開発企業UTSは宇宙空間に新しい居住地を建設するが、優秀な遺伝子を持つ一部の人間だけを選別することに。宇宙ゴミを集める賞金稼ぎの「勝利号」メンバーは、ある日、行方不明の子ども型ロボット爆弾「ドロシー」を発見。金目当てに取り引きをしようとするが……。 宇宙空間、賞金稼ぎ、宇宙船での戦闘ときたらもう、「スター・ウォーズ」ですよね。 (画像は映画.comより) その「スター・ウォーズ」でルークを演じたマーク・ハミルは、自身の役どころについて「オズの魔法使いのドロシーだと思った」と語っています。 「スター・ウォーズの主人公はハン・ソロだと思ってた」ルーク役マーク・ハミル、40年越しの告白 | THE RIVER   で、この韓国初の宇宙SF映画「スペース・スウィーパーズ」はですね。 「スター・ウォーズ」×「オズの魔法使い」×韓国映画 という、最強の組み合わせでできているといえます。 まず、子ども型ロボット爆弾の名前が「ドロシー」ですもん。めちゃくちゃ愛くるしいんですが、水素爆弾規模のパワーを持つとされています。 (画像はKMDbより) 賞金稼ぎのメンバーも、心臓を手に入れたいブリキの木こりや、勇気が欲しいライオンたちになぞらえることができます。そして、やっかいなものを見つけてしまって、頼まれるままに“届ける”ことになってしまう展開は、「スター・ウォーズ」のエピソード4そのもの(最初に公開されたやつね)。 おまけに 「神と共に」シリーズ や 「新 感染半島 ファイナル・ステージ」 などで高い技術力をみせたデクスター・スタジオがVFXを担当。今回も

縁切り神社に祈りを捧げる人たちの光と影 『わたしの美しい庭』 #578

「この人、すごぉぉぉいっ!!」 一度そう思うと、追っかけ生活が始まりますよね。わたしはアイドルにはぜんぜん詳しくないけれど、映画監督や俳優を一途に追いかけていくタイプです。 現在、どハマリしている小説家は、凪良ゆうさんです。 『流浪の月』と『滅びの前のシャングリラ』を読んで、「もっと……凪良節をください……」と本屋さんに行き、見つけたのが『わたしの美しい庭』でした。順番としては、『流浪の月』の後に発表されたようです。 ☆☆☆☆☆ 『わたしの美しい庭』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 小学生の百音は、「縁切りマンション」と呼ばれるマンションで暮らしている。マンションの屋上に「縁切り神社」があるせいだ。翻訳家の統理とふたり暮らしだが、隣室のバーテンダー路有とも毎日一緒に食事をする。屋上ガーデンにある神社には、悪癖、気鬱となる悪いご縁を断ち切りたい人がやってくるが……。 凪良ゆうさんは、BL作家として10年以上のキャリアを持つ小説家です。 2017年に初の非BL作品『神さまのビオトープ』を刊行していますが、単行本として発行されたのは『流浪の月』が初めてだったそう。 特徴として感じるのは、世間の一般的なモノサシだと「規格外」にされてしまう人物が登場することでしょうか。でも、決して自分を哀れむことはないし、できるだけ楽しく、こころ豊かに生きている。その姿に、ホロリとしてしまうんです。 『わたしの美しい庭』に登場する、百音ちゃんもやはり、世間から見ると「かわいそう」と思われてしまう小学生です。 5歳の時に両親を亡くし、母の元ダンナだった統理に引き取られることになります。統理は、古いマンションの屋上にある「縁切り神社」の宮司でもあります。 血のつながらないふたりの生活に、近所はコショコショ言うんですよ。同じマンションに住む桃子さんも、「いい年なんだから、早くお嫁にいかないと」と言われたりしてます。 よけいなお世話や! ほっといてよ!! と言えれば、どれだけスッキリすることか。空気を読んで言い返せなかったり、モヤッとする原因がすぐに分からなかったり。そんなことを繰り返す中で、心は小さく小さく傷ついていくのだと思います。 路有の失恋話、桃子さんの恋バナなど、傷を抱えながらも、人は生きていくのですけれど。「踏ん張る」とか、「努力する」とか、そういう力の入った感じがないんで

パニックより怖い、狂気と正気が交錯する世界 『ひとめあなたに…』 #577

「人類滅亡の危機」をテーマにした映画や小説は、そのパニックぶりが見どころです。 映画なら「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」など。小説なら小松左京の『こちらニッポン…』『日本沈没』もありましたね。 昨日ご紹介した凪良ゆうさんの『滅びの前のシャングリラ』を読んで、新井素子さんの『ひとめあなたに…』にも似た光景が出てきたことを思い出しました。 クソみたいな世界に鳴り響く愛の歌 『滅びの前のシャングリラ』 #576   このふたつの小説には派手な(?)パニックシーンがありません。それよりも、もっと普遍的な、人としてのあり方を描いています。 なのに、読ませる。 パニックより怖い。凪良さん自身、「新井素子さんの『ひとめあなたに…』からも影響を受けたと思います」と語っています。 「Web版 有鄰」の凪良さんインタビュー: https://www.yurindo.co.jp/yurin/23907/4 「新井素子さん」といっても、もしかしたら知らない人もいるかもしれませんね。日本SF作家クラブ元会長で、ライトノベルの草分け的存在です。 1981年に出版された『ひとめあなたに…』は、「一週間後、地球に隕石が激突する。人類に逃げ延びる道はない」と知らされた主人公が、歩いて恋人に会いに行く、というお話です。 ☆☆☆☆☆ 『ひとめあなたに…』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 女子大生の圭子は、恋人・朗から突然の別れを告げられた。自分は癌にかかって余命いくばくもない、と言うのだ。翌日、「一週間後、地球に隕石が激突する。人類に逃げ延びる道はない」というニュースが届く。圭子は最後にもう一度、朗に会いに行こうと決意。練馬の家から、彼の住む鎌倉を目指し、徒歩で旅をはじめるが……。 テクテクテクという徒歩の旅で、携帯電話もネットもない時代なので、情報も入らない。話の展開も「徒歩のリズム」な感じです。 鎌倉に向かう途中、圭子はイタかったり、ホラーだったりな4人の女性に出会います。死を前にした人びとの、最後の時間の過ごし方は、「突然別れを告げてきた、めっちゃムカつく恋人」への想いにも影響していきます。 『滅びの前のシャングリラ』では、人類滅亡のニュースが流れた翌日も、通常通り学校に行ったり、会社に行ったりする人びとが登場。「日本的やな……」と笑ってしまった。 役所もちゃんとやっていて