子どものころから慣れ親しんできた昔話。いまではCMキャラクターにもなっている昔話の世界。 それが、ミステリーになってしまったら? 青柳碧人さんの『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった昔話を、ミステリーの定型にあてはめて再解釈した小説です。 いやー、こわいおもしろいだわ。この世界。 ☆☆☆☆☆ 『むかしむかしあるところに、死体がありました。』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』には、「三種の神器」について紹介されています。 ・謎 ・伏線 ・論理的解決 書きたい人も、読みたい人も手に取りたい超一級のブックガイド 『書きたい人のためのミステリ入門』 #536 この「三種の神器」を駆使して、フーダニット(犯人は誰か)、ハウダニット(どうして・どうやって)、ホワイダニット(なぜそんなことをしたのか)の小説が紡がれていくわけです。 これを踏襲している『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、ほのぼのした昔話の世界を、ゾワッと血の臭いがする舞台に変えてしまう。 たとえば、「鶴の恩返し」。本では「つるの倒叙がえし」というタイトルになっています。 この「倒叙」とは、物語の出だしで犯人や犯行の様子が明かされ、時間的な流れをさかのぼって記述すること。 「つるの倒叙がえし」の場合、冒頭で“庄屋さん殺人事件”が発生します。その裏側が明かされていくのですが、途中までは「鶴の恩返し」とほぼ同様。モラハラでDVな弥兵衛と、つうの生活が描かれます。 機を織っているときは、決してのぞかないでくださいと言う、つう。 これに対して機織り部屋の奥にある襖を、決して開けてはいけないと言う、弥兵衛。 この先がまさかの展開で、ミステリーらしい復讐劇になっています。 ちなみに、石原健次さんによる『10歳からの 考える力が育つ20の物語』でも、童話探偵ブルースが「鶴の恩返し」の読み解きをしています。 ブルースによると、「鶴の恩返し」はハッピーエンドなのだそう! 『10歳からの 考える力が育つ20の物語 童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方』#949 “みんな知ってる”世界だからこそ、こうしていろいろ遊べるのかも。それを受け入れる昔話って、奥が深いですね。