「ペンは剣よりも強し」というけれど、現実は「ご飯はペンより強し」なのではないでしょうか。
食べていくために、ガマンしたり、見逃したり。言いたいことがあっても、黙らざるを得ないこともある。
でも、そんな誇りのない仕事に未来はあるだろうか?
8年ぶりにテレビドラマに復帰したファン・ジョンミンを拝みたくて、現在、Amazonプライムで配信されている「ハッシュ~沈黙注意報~」をクリックしました。
ですが……。
序盤に描かれる「若者の現在」が、あまりにもあまりにもな状況で、涙なしには観られませんでした。
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ドラマの舞台は新聞社です。ある事件をきっかけに、情熱を失い、記事を書かなくなったベテラン記者ハン・ジュンヒョクを演じる、ファン・ジョンミン。
愛嬌と泥臭さを兼ね備えた人物を演じることが多い彼が、今回は心の傷を抱えながら新人記者の教育担当となるところから始まります。
そのインターン記者に選ばれたイ・ジスは、少女時代のユナが演じています。
ふてぶてしく、ジュンヒョクをにらみつけるジス。意外なつながりが明らかになって……と話が展開していきます。
ある日、同期で入社したインターンのひとりが、オフィスから飛び降りて自殺。新聞社本体にも、そこで働く人々にも衝撃が走ります。
ところが。
「コピペ」でPVを稼ぐ部署であるデジタルニュース部は、同僚の死をも、お金稼ぎのネタとしてしまうんです。
なんてこったいな展開ですが、若者の就職難が続く韓国では、せっかく得たインターンの機会を手放すことができません。同時に、上層部の決定に憤りを感じるベテラン記者たちにも生活があり、それぞれに家庭の事情を抱えています。
こうやって、人は気概を失い、あきらめ、沈黙してしまうのか。
超学歴社会として知られる韓国社会は、「名門大学に入って、大企業に入ることが成功」と教え込まれるそうです。教育ママと、勉強に追い詰められる子どもたちを描いているのが、Netflixで配信されている「SKYキャッスル ~上流階級の妻たち~」です。
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「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」にも、主人公の孫がインターン先でパワハラされるシーンがあります。
そんな韓国での就業をあきらめて、海外を目指す人も増えているのだとか。
最近、「競争から下りて、自分を大事にして生きたい」といったテーマの韓国のエッセイが、日本でも出版されていますが、これだけの競争にさらされていたら、そりゃー自分を見失うよ……。若者の力を吸い取る社会に未来はないよ。
「高学歴」で「ハイスペック」。なのに就職できない若者の痛みに対して、ソウル大学のキム・ナンド教授がエールを贈る本も出版されています。
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『つらいから青春だ』
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「シーーーーッ」
ドラマの中で何度も繰り返される、指を唇にあてるポーズ。英語で「シーーーーッ」を表すタイトルの「H.U.S.H.」には、別の意味もあって、それが希望へとつながっていきます。ちょっと青くさいけど。
ソン・ジュンギとチョン・ヨビン主演の「ヴィンチェンツォ」や、webマンガ原作の「悪霊狩猟団:カウンターズ」など、権力の横暴や癒着に庶民が対抗するドラマはこれまでにも多くありました。でも、これらはどれも個人的な復讐なんですよね。
「ヴィンチェンツォ」
「悪霊狩猟団:カウンターズ」
ところが「ハッシュ」では、どこまでも「ペンの力」で復讐を図ろうとしています。「ペンは剣よりも強し」、されど「ご飯はペンより強し」。でも、言葉の力を信じる人たちによる、権力にひと泡吹かせる姿がさわやかです。
だから、わたし的には「最後の一発」が気になった……。
ドラマ情報「ハッシュ~沈黙注意報~」JTBC 全16話(2020年)
演出:キム・ギョンミン
脚本:チェ・ギュシク
出演:ファン・ジョンミン、イム・ユナ(少女時代)、ソン・ビョンホ、ユン・セン、キム・ウォネ
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