「子どもたちに尊敬されないパパのほうこそ失敗作じゃない!」
「あなたが言う幸せって何?」
「そんなに医学部っていうんなら、おばあちゃんがいけばいいじゃん」
超加熱した韓国の受験戦争をベースに、“我が子のために”必死になる母の闘いを描いたドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」は、名言の宝庫でした。
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ドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」Netflixで配信中https://www.netflix.com/title/81030062
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韓国の学校制度は日本と同じで、小・中・高の6・3・3年制です。大学への進学率は2006年で82.1%。同じ年の日本は52.3%で、世界的に見ても進学率が高い方だそう。
ただ、大学なら「どこでもOK」というわけではないのが現実。
以前、通っていた韓国語学校の先生に、韓国の就職事情について話を聞いたことがありました。
まずはSKY出身者の履歴書だけをチェック
↓
合う人がいなければ、ソウル市内にある他の大学出身者をチェック
↓
それでも合う人がいなければ、地方の大学出身者をチェック
という形でふるいに掛けられていくそうです。
ドラマのタイトルにもなっている「SKY」とは、韓国の名門大学の頭文字で、
S:ソウル大学(国立大学)
K:高麗(コリョ)大学(私立大学)
Y:延世(ヨンセ)大学(私立大学)
のことです。SKYに入学できた=優秀な人なので、上のふるいに掛けられた時、地方出身者の出番なんてほとんどないとのこと……。
だからこそ、必死になってSKYへ、せめてソウルの大学へと、受験生たちは駆り立てられてしまう。「名門大学に入って大企業に入ることが成功」といわれる社会で、競争から落ちこぼれることは、人間失格並みのことなのです。
ファン・ジョンミン主演のドラマ「ハッシュ~沈黙注意報~」では、優秀なのに正社員採用されない、地方大学出身の女性の悲劇が。
「SKYキャッスル」は、そんな「名門大学を卒業して、立派な仕事をしている男」の一家が住む高級住宅地のこと。三大大学を指す「SKY」と、「雲の上の人」の意味がありそうです。
夫の仕事は医師や法律家で、妻のステイタスを決めるのは、子どもの学歴。
第1話、見事ソウル大学の医学部に合格した息子の、「母」をねぎらうパーティーが開かれます。彼女に取り入って、受験の秘訣を聞き出そうと必死になる母たち。そして数日後、その「母」は自殺してしまうのです。
衝撃的なスタートから、嘘や裏切り、見栄と家族の秘密、マウンティングに夫の出世争いまで絡んできて、ドロドロ満開で展開していきます。
ところで。
脳科学者の中野信子さんと、マンガ家のヤマザキマリさんの対談本『生贄探し 暴走する脳』に、ローマの皇帝ネロと、その母アグリッピナの話が出てきます。
ネロが皇帝になったとき、鋳造したコインは「母親の肖像付き」だったそうで、いまでいう「毒親」だったのでは、とヤマザキさんは指摘しています。
いやー、まんま、「SKYキャッスル」の世界。有形無形のプレッシャーを受ける母たちも苦しいのだと思いますが、子どもだってもちろん苦しい。
塾に通う子どもたちが、大量のお菓子を買い出しに行き、その袋をグッシャグッシャに踏みつけて遊ぶシーンがあります。
遊ぶことも、旅することも、息を抜くこともなく、ただただただただ勉強だけをしてきた子どもたち。そして、「我が子のために」奔走してきた母たち。
その姿は、滑稽でもあり、哀れでもあります。
「毒親」たちが、本来の幸せを取り戻す物語でもあるのですが、その背景には世代間ギャップがあると、帝塚山学院大学の稲川右樹准教授は指摘されています。
不安と焦りしかない親子の心情につけ込んで、子どもをコントロールしていく受験コーディネーター役のキム・ソヒョンは、現在Netflixで配信中の「Mine」でも、すばらしい演技をみせています。
絢爛豪華な「キャッスル」の住人たちを襲った悲劇と、本来の幸せを目指す旅。他人が決めた夢を手放した瞬間、なんて晴れやかな表情になるんだろう。どれだけの痛みがあっても、そうすることでようやく地に足をつけることができる。自分の人生を生きられる。
長いけど、見応えのあるドラマです。
ドラマ情報「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」JTBC 全20話(2018年)
演出:チョ・ヒョンタク
脚本:ユ・ヒョンミ
出演:ヨム・ジョンア、イ・テラン、ユン・セア、オ・ナラ、キム・ソヒョン
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