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差別と階級。嫉妬と謀略。苦難のパッケージングは胸を熱くする ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」#441

「悲しんではだめ、泣いてもだめ、簡単に諦めてもいけません」 母の教えを守り、決してへこたれず、身分社会の壁を超えた女性・チャングム。その母の言葉です。 イ・ビョンフン監督の「宮廷女官チャングムの誓い」は、韓国だけでなく、日本でも大ヒット。歴史書にたった一行だけ書かれていた記録をもとに、壮大な歴史ドラマを作り上げる想像力がすごいですよね。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」 DVD (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 幼い頃に母を亡くしたチャングムは、宮廷の調理場である「水剌間」の女官となり、母代わりになってくれる上司と出会います。謀略により、またまた“母”を亡くして、自身も島流しに。母たちの復讐を考えるチャングムは、内医院の医女となり、再び宮廷に戻ることにしますが……。 当初は全50話で放送予定だったものの、ドラマがスタートすると大人気に。そこで話数を伸ばして全54話にしたとのこと。ですが、最後は大慌てで話が畳まれていく、というか、畳みきれずに終わってしまいます。笑 演出家のイ・ビョンフンは、韓国のMBCでドラマ監督として活躍した方です。 時代劇にPOPSの挿入歌を取り入れたり、セリフを現代語にしたりと、現代人が親しみやすいドラマへの改革に取り組みました。 「時代劇の巨匠」とも呼ばれる彼のおかげで、たくさんのドラマに出会うことができたなーと感じます。 「チャングム」の企画が立ち上がったときも、局からは「宮廷の料理なんてマネできるもんでもないし、視聴者がくいつかないんでは?」と、一度ストップがかかったそうです。それでも、「不死鳥のような、彼女のへこたれない人生は、現代人の心を打つはず」と信じて制作。 おまけに、主演女優のキャスティングにも苦労したと著書で語っています。 (画像リンクです) 「チャングム」を演じたイ・ヨンエに声をかけたのは、多くの俳優にフラれた後でしたが、そんなことはおくびにも出さず、「あなたしかいない!!」と口説いたのだとか。 人に何かを依頼するときの礼儀を学べるエピソードだなと感じます。 すでに映画スターだったイ・ヨンエが、いまさらドラマに……?と言われても仕方がない中、不屈の女性を演じきった根性もすごかったなと思います。 初々しい研修生時代から、同僚の嫉妬と謀略、絶望と別れを経験して「大長今」という最高の称号を手に入れるまでの

跡継ぎ候補に“女”が入ってなかった時代のコペルニクス的転換 ドラマ「善徳女王」#427

家を継ぐのは男であるべし。 そんな固定観念を覆し、初の女王となった新羅の「善徳女王」という人物がいます。彼女の波乱の人生を描いたドラマこそ、韓国フェミニズムのはじまりだったのではないかと思います。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「善徳女王」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 韓国で放送されたのが2009年。最高視聴率は40%以上を記録し、話数を延長して放送したほどの人気でした。 7世紀ごろの朝鮮半島は、百済と高句麗、そして新羅の3国に分かれていました。新羅の中でも王位を巡ってゴタゴタがあったのですが、それらを抑えて先王の長女であるトンマンが女王に就任。半島を統一することになります。 家を継ぐのは誰か。 これは韓国ドラマでよく描かれるテーマです。正妻の子か、妾腹の子か。ボンクラの長男か、ずる賢い次男か。チンピラの息子か、マジメな長女か。「我が子推し!」な母たちの戦いも見どころのドラマが多いんですよね。 Netflixで配信されている「愛の不時着」でも、妾腹の子で、おまけに女であるセリが父の後継者に指名されて、息子たちが憤慨するシーンがありました。 韓流ドラマの法則を押さえた韓国版ロミジュリ ドラマ「愛の不時着」 #335   「製パン王キム・タック」の場合はもっと複雑で、露骨です。娘ばかり続けて生まれたことにガッカリした父は、初恋の相手と子をなし、母は秘書と関係を持って息子を産む。父は初恋の人が産んでくれた子=タックをかわいがるけれど、母は絶対受け入れられない。その対立を目にするお姉ちゃんたちがせつないんです。 “正直者が勝つ!”不遇な少年の成長物語 ドラマ「製パン王キム・タック」 #338   朝鮮王朝の建国を描いたドラマ「龍の涙」は、王位を巡る家族の戦いでもありました。「王にされたら、弟に殺される!」と逃げちゃうお兄ちゃんもいたくらいです。 で、結局。 「女」は候補に入ってないんですよね。 ドラマ「善徳女王」の舞台は7世紀の新羅です。「王家に双子が誕生したら、王族の男子が絶える」という言い伝えがある中、誕生した双子の姉妹。 双子であることを隠すため、長女のトンマンは捨てられてしまうのです。 新羅に戻ってきて、自分の出生のヒミツを知ったトンマン。王家の存続をかけて闘うライバルとなるのが、先王の側室だった美室(ミシル)です。 この、美室とトンマンの発想の違いが一番の見どころ。 美室

目指すは理想の国家!信念をかけて共闘する6人の運命 ドラマ「六龍が飛ぶ」 #425

「魚は頭から腐る」という、ロシアのことわざがあります。ホントに魚がそうなのかは分かりませんが、意味するところは、「組織はトップから駄目になっていく」ということ。 もうコイツらダメやん。いっそのこと、一からやり直したい! いま、そんな声があちこちから聞こえてくるような気がしますが、ここでお話しするのは14世紀の出来事。 高官の堕落ぶりに絶望した青年が出会ったのは、世紀の策士・鄭道伝(チョン・ドジョン)でした。理想の国家を目指して立ち上がった、6人の英雄。彼らが、朝鮮王朝建国のために奮闘する姿を描いたドラマが「六龍が飛ぶ」です。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「六龍が飛ぶ」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ ドラマ「根の深い木」の前日譚で、映画「世宗大王 星を追う者たち」につながっていく物語なんです。 ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424   夢か、友か。絶対的な孤独を癒やした男の究極の選択 映画「世宗大王 星を追う者たち」 #423   ここでちょっと、朝鮮半島の王朝の歴史を振り返ってみます。 まず、918年に王建(太祖)が建国した高麗という王朝国家がありました。半島を統一し、鴨緑江まで勢力を広げていたほどの強国で、英語の「KOREA」のもとになっている国です。1392年に高麗を倒し、朝鮮王朝を築いたのが李成桂でした。 その李成桂をはじめ、6人の「龍」を集めた中心人物が、五男の李芳遠。後の第3代国王で、第4代国王となった「世宗大王」のお父さんです。 ドラマでは李芳遠をユ・アインが演じているのですが、彼の“やんちゃ”な感じが李芳遠の横暴さにつながっていて、とてもかっこよかったです。 李芳遠が心酔する策士・鄭道伝はキム・ミョンミンが演じています。「韓国のロバート・デ・ニーロ」といわれるほど、ストイックな役作りをする俳優で、これまた大好きな役者なんです。 鄭道伝の甥っ子が「根の深い木」の鄭基準で、ふたつのドラマは深くつながっています。 ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424   衝撃なのは、鄭道伝の用心棒であるイ・バンジです。 朝鮮建国後、他のメンバーが功臣として取り立てられる中、イ・バンジはある事件に絶望して在野することにします。 「六龍が飛ぶ」でイ・バンジを演じたのはピョン・ヨハン。甘い系のイケメンです。 (画像はSBSより) それが

ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424

「朝鮮時代、最高の名君」と称される「世宗大王」は、次々と事業を起ち上げ、民衆のよりよい暮らしのために尽くした人物です。そのため、身分を問わずに秀才や科学者を集めました。 ただ、そのほとんどが覇権国である明を刺激するものだったんです。 むかしの東洋社会には「中国皇帝が世界の中心」という中華思想があって、「暦」や「天文学」などは、天命を受けた皇帝だけに権限があると考えられていたからです。 その戒めに反して、日本初の暦作りに取り組んだのが渋川春海。冲方丁さんの『天地明察』は、彼の人生を追った小説です。 日本初の暦作りに命をかける 『天地明察』 #422   韓国では先に紹介した「世宗大王」が、天体観測機器などを発明したチャン・ヨンシルと共に、朝鮮独自の暦を制作しました。映画「世宗大王 星を追う者たち」は、ふたりの絆を描いた時代劇です。 夢か、友か。絶対的な孤独を癒やした男の究極の選択 映画「世宗大王 星を追う者たち」 #423   『天地明察』と「世宗大王 星を追う者たち」は、「暦」をめぐる物語でした。「世宗大王」の時代にはもうひとつ、中国を刺激する材料がありました。それが、朝鮮独自の文字である「ハングル」です。 中国から伝わった「漢字」を使っていた朝鮮ですが、発音と合わない、覚えるべき文字が多すぎるという問題を抱えていました。専門的に学問をするつもりでないと覚えきれないですよね、漢字って。なので、女性や子どもは自身の考えを表したりすることはできなかったんです。 学問は男性だけがするもの。科挙を受けて官僚となり、国のために尽くして大成することこそ、親孝行と考えられていたようです。 そんな状況に疑問を感じた第4代朝鮮国王「世宗大王」は、朝鮮独自の文字を作ろうと決めます。ですが、明の意向を忖度する勢力、官僚の力を守りたい勢力によって、公布はことごとく邪魔されてしまう。 「世宗大王」の若き頃から、ハングルの創製を民衆に伝えた『訓民正音』の発表までを舞台にしたドラマが「根の深い木」です。イ・ジョンミョンのミステリー小説を原作に、ハン・ソッキュが「世宗大王」を演じています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「根の深い木」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ ある日、王の住まいである景福宮で殺人事件が発生します。捜査を担当することになったカン・チェ

夢か、友か。絶対的な孤独を癒やした男の究極の選択 映画「世宗大王 星を追う者たち」 #423

新規事業を任された時、なによりも支えになるのは事業を支持してくれるトップなのではないでしょうか。でも、もしトップの考えが変ってしまったら? 朝鮮時代の王様「世宗大王」は、さまざまな新規事業を起ち上げて、民衆の生活基盤を整えた人物です。王のバックアップがあるとはいえ、前代未聞の事業に取り組んだメンバーたちは、さぞ苦労したことでしょうね……。 科学的な発明を積極的に取り入れた他にも、韓国で現在も使われている文字「ハングル」の制作と公布に尽力しました。「朝鮮時代を通して、最高の名君」と称され、お札の顔にもなっています。 裏面には「世宗大王」の時代に発明された天球儀と天体望遠鏡が。 (画像はどちらも「文鉄・お札とコインの資料館」より) これらの機械をつくったのがチャン・ヨンシル。お役所付きの奴婢から武官にまで上りつめたというミラクルな技術者です。 彼と、「世宗大王」との絆を描いた映画「世宗大王 星を追う者たち」は、夢か、友かの究極の選択を迫られる物語。韓国映画界が誇る名優ふたりの演技対決は、しびれるくらいの迫力でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「世宗大王 星を追う者たち」 https://amzn.to/3whjqUn ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗は、奴婢の身分ながら科学者として才能にあふれたチャン・ヨンシルを武官に任命。ヨンシルは、豊富な科学知識と高い技術力で水時計や天体観測機器を次々と発明し、庶民の生活向上に大いに貢献する。また、朝鮮の自立を成し遂げたい世宗は、朝鮮独自の文字であるハングルを作ろうと考えていた。2人は身分の差を超え、特別な絆を結んでいくが、朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、秘密裏に2人を引き離そうとする。 「世宗大王」を演じたのはハン・ソッキュ。技術者「チャン・ヨンシル」はチェ・ミンシクが演じています。日本でも大ヒットした映画「シュリ」以来、20年振りの共演です。大学の先輩後輩でもあるというふたり。監督から脚本を渡された際、「どちらがどちらの役をやるか、ふたりで決めて欲しい」と言われたそう。 かつては北朝鮮のスパイと韓国の情報員として熾烈な対決をしたふたりですが、今回は生涯の友として、ひとつの夢を実現するために格闘することになります。 ふたりの共演だけを決めて制作にとりかかったというホ・ジノ監督は

王位をかけた壮大な親子ゲンカ 映画「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」 #302

映画「スター・ウォーズ」を評して「全宇宙を巻き込んだ壮大な親子ゲンカ」という言葉があります。いや、ホント、その通りですよね。 父と息子の葛藤は多くの物語のテーマになっています。韓国ドラマでよく扱われるのは「英祖」とその息子「思悼世子」の対立です。 「英祖」は朝鮮王朝時代の名君として知られ、在位期間も52年と同王朝でもっとも長い。でも、母が側室だったということもあり、家臣には軽んじられる、対立する派閥からは命を狙われる、ということもあったようです。 彼が生まれる前、父と母の出会いと恋を描いたドラマが「トンイ」です。 自らの手で運命を切り開いた国母の生涯 ドラマ「トンイ」 #565   「英祖」と、孫の「正祖」の恋を描いたドラマが「イ・サン」。 王の生涯を貫くのは、友情と陰謀 ドラマ「イ・サン」 #560   英祖ー思悼世子ー正祖の悲劇に切り込んだ映画が「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」。ほとんど時代劇に出演していないソン・ガンホが「英祖」を、ユ・アインが「思悼世子」を演じています。 ☆☆☆☆☆ 映画「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」 https://amzn.to/35fasM9 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 朝鮮第21代国王・英祖(ヨンジョ)は、息子・思悼(サド)を王位継承者にし、王の代理を務めるように命令する。しかし、自分のつくった制度を改革しようとする息子に憤りをつのらせる。期待を裏切られたと感じた英祖は、思悼を米びつに閉じ込めてしまう。 「スター・ウォーズ」は「全宇宙を巻き込んだ壮大な親子ゲンカ」でしたが、こちらは「王位をかけた壮大な親子ゲンカ」。とにかく息子を全否定する父なんです。 英祖自身、出自のこともあって努力に努力を重ねた人ではあるし、実際に頭がよかったそうです。100点のテストしかとったことない人が、95点のテストを見てガッカリしちゃうようなもんでしょうか。 十分がんばってるやん!!! という言葉は届かず、息子へのガッカリだけがつのる父。父を失望させていることに気づいてグレる息子。 なぜ、ここまでの対立になったのか。 なぜ、謀反を疑うことになったのか。 あまりにも有名な歴史エピソードを、ていねいに追っています。父子対立の話ではありますが、仕事を「任せる」のダメな見本のようでもあります。 「パラサイト 半地下の家族」で、世界的に有名になった

緊張の連続が歴史の悲劇を映し出す 映画「暗殺」 #106

韓国の映画を観ていると、「日本人役は、日本人の役者に!!」と思うことがあります。まぁ、せっかく日本人をキャスティングしているのに、棒読みすぎてほとんど聞き取れないということもありましたが。 なかなか「共同制作」は難しそうですが、2002年にはウォンビンと深田恭子主演の恋愛ドラマ「friends」が両国で放送されています。 このドラマは現代劇でしたが、日本統治時代の韓国を舞台にした映画だと、当然、日本人も日本語を話す韓国人も登場することになります。この辺りのキャスティングは難しそう……。 そう感じてしまった映画がチェ・ドンフン監督の「暗殺」でした。「猟奇的な彼女」で一世を風靡したチョン・ジヒョン、「神と共に」シリーズのイ・ジョンジェ、ハ・ジョンウ主演の歴史サスペンス映画です。 ☆☆☆☆☆ 映画「暗殺」 DVD ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 独立運動に身を投じた青年ヨム・ソクチンは、要人の暗殺に失敗。かくまってもらった夫人と双子の姉妹と共に、満州へ逃れます。そして1933年、韓国臨時政府は、日本政府の要人と親日派を暗殺するため、独立軍最高のスナイパーを含むメンバーを京城(ソウル)へと送ることに。 暗殺団を招集したのは、かつての熱血青年ヨム隊長。しかし彼は、日本政府の密偵でもありました。ヨム隊長に疑いの目を向ける臨時政府のメンバー、「ハワイ・ピストル」と呼ばれる殺し屋、そして暗殺団が上海から京城へと集まり……。 まずもって、脚本が複雑すぎるので歴史を知らないとついていけないかもしれません。簡単に人物関係をまとめてみました。 <人物関係> ・独立運動軍 狙撃手 アン・オギュン:チョン・ジヒョン 速射砲 チュ・サンオク:チョ・ジヌン 爆弾職人 ファン・ドクサム:チェ・ドクムン 運動家 キム・ウォンボン:チョ・スンウ アネモネカフェ マダム:キム・ヘスク ・韓国臨時政府 隊長 ヨム・ソクチン:イ・ジョンジェ ・暗殺請負人 ハワイ・ピストル:ハ・ジョンウ 爺や:オ・ダルス ・実業家 カン・イングク:イ・ギョンヨン 主要な登場人物だけでも十分多いですね。笑 ですが、「10人の泥棒たち」など、娯楽性映画を作り続けてきたチェ・ドンフン監督なので、ちょっとした遊び心も隠れています。出演者のギャグやトリビアを探る“まとめ映画”として観るのがいいかも。 「オーシャンズ」好きな