川越の活版印刷所「三日月堂」を舞台にした物語の第3弾。 物語の最初のころ、運送店のハルさんがハブとなっていた印刷依頼は、徐々に、制作した印刷物がきっかけになっていきます。今回は、いまの境遇がコンプレックスという男性から始まって、弓子の母の友人、そして盛岡の印刷所との出会いのお話です。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 収録されているのは4編。 ・チケットと昆布巻き ・カナコの歌 ・庭のアルバム ・川の合流する場所で 「チケットと昆布巻き」は、小さな出版社で旅行雑誌を作っている竹野が主人公。同級生の結婚式に出席して、大企業の会社員である友人と自分を比較して落ち込む……という、あるあるな悩みを抱えています。 2巻の最終話「我らの西部劇 」で制作された本をきっかけに、「三日月堂」と弓子を知ることに。活版印刷の味わいや、それに引かれる人たちの気持ちは分かると言いつつ、なんだかもやもやしちゃうわけです。 現実にも、活版印刷はちょっとしたブームになっていますが、ビジネスとして成り立つのかは別の問題ですよね。オフセット印刷よりも手間も値も張るので、ショップカードや結婚式の招待状など、「特別な逸品」に使われているという状況を踏まえて、「もっと儲けたい」という思いはないのかと悩むのです。 竹野の実家はかまぼこ屋さんで、兄が継いでいます。結婚のお祝いに渡したのも、実家で作っている昆布巻き。こんな古くさいものを作り続けるなんて……という、兄への不満、友人への嫉妬、コンプレックスでぐちゃぐちゃ。 そんなこともあって、弓子の“活版印刷への”熱意に違和感をもってしまうのです。そこに、先輩がひと言。 「全然もがかない人は嘘っぽいよね。そんなんでおもしろいのか、って思う。けど、一生自分の人生を受け入れられなかったら、それはそれで貧しいと思うんだ」 自分の生き方はこれでいいのか。 この選択は間違っていないのか。 ふとした瞬間に自分を飲み込もうとする黒い塊は、わたしの中にもあります。もがいて、あがいて、迷って、悩んで、いまの自分の役目を受け入れるしかないとも思う。でも。 わたしは、こちらでよかったのかな、と悩むより、「自分の選択を正解にする」生き方をしたいと思うのです。 それを選んだ時の自分を否定したくはないから。 この巻では、学校生活になじめないイラスト