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スパイの街でスパイが暗躍 映画「ベルリンファイル」 #140

東西冷戦下に建設された巨大な壁「ベルリンの壁」は、1989年11月9日の夜、破壊されました。東ドイツが発表した西側への旅行規制緩和措置が開放へとつながり、壁をつるはしで壊す人たち、上に登って喜ぶ人たちを当時のニュースで見た記憶があります。 ベルリンは第二次世界大戦の終結後、米英仏ソの共同管理に置かれていたことから対立が激化し、冷戦によって壁が建設されることになりました。 「ベルリンの壁」崩壊によって、地球上に、都市を東西に分けていた壁はなくなりましたが、いまだに国家が分断されているところがあります。 朝鮮半島です。 国家の分断による「南北対立」は、韓国映画においても重要なテーマになっています。 日本で韓国映画ブームの発端となったのは、日本で2000年に公開された「シュリ」でしょう。韓国に潜入した北朝鮮工作員と、韓国諜報部員との許されざる恋と壮絶なアクションは、初めて観た時にびっくりしました。そして、韓国映画ファンになったんですよね。 「シュリ」で韓国の秘密情報部員を演じたハン・ソッキュは、2013年に公開された映画「ベルリンファイル」でも韓国国家情報局員を演じています。良くも悪くもハン・ソッキュは、一生“アカ”の役はできないでしょうね……。 (画像は映画.comより) 「ベルリンファイル」はベルリンを舞台に、世界各国のスパイが暗躍するスパイアクション映画です。舞台がベルリンな理由は、冷戦時代に最もスパイが多かった街だからだそう。スパイを象徴する街になっているのかーと、ちょっと複雑な気分です。 ☆☆☆☆☆ 映画「ベルリンファイル」 DVD Amazonプライム配信 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 北朝鮮諜報員ジョンソンは、アラブ組織との武器取引現場を韓国にかぎつけられ、銃撃されてしまう。情報漏洩を疑っていたところに、妻の二重スパイ疑惑が浮上。彼女の行動を追ううち、自身も巨大な陰謀に巻き込まれていることに気づく。韓国のエージェント、CIA、モサド、ドイツの諜報機関までが事態に介入し、ジョンソンは徐々に追い詰められていく。 北朝鮮の諜報員ジョンソンを演じているのは、「神と共に」のハ・ジョンウです。 重量感のあるアクションで、韓国のエージェントを演じるハン・ソッキュと渡り合っています。 (画像は映画.comより) そのせいか、どうしても思い出してしまうのが「シ

「オーシャンズ」好きならこれ! 映画「10人の泥棒たち」 #139

詐欺師がだまし、だまされ、だまし返す「オーシャンズ」シリーズが好きな方におすすめの韓国映画が、「10人の泥棒たち」です。 10人の国際的プロ集団=泥棒たちが集まって世界に1つしかない幻のダイヤモンドを狙うことになるのですが、チームの信頼感はゼロ、計画を狂わせる昔の恋と現在進行形の恋、復讐と、てんこ盛りの要素を抱えつつ、スタイリッシュなコンゲームが繰り広げられます。 ☆☆☆☆☆ 映画「10人の泥棒たち」 DVD Amazonプライム配信 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 仮釈放された金庫破りの名人ペプシ(キム・ヘス)が向かったのは、韓国を拠点とする窃盗団のボス・ポパイのところ。そこに、かつてのパートナー、マカオ・パクから世界に1つしかない幻のダイヤモンド「太陽の涙」を盗み出す計画が持ち込まれました。6人の韓国泥棒チームは香港に向かい、4人の中国泥棒チームと合流。それぞれの得意技を駆使して「太陽の涙」奪取を目指しますが、お互いがお互いのことを疑い、裏をかく秘密計画も準備。ダイヤを手に入れるのは誰!? あらすじを見てお分かりのように、「オーシャンズ11」からインスピレーションを受けているようですね。監督したのは、チェ・ドンフン。これが長編4作目です。 とにかく大人数が多言語で話している映画です。笑 韓国語、標準中国語、広東語、英語、日本語と、5つも出てくる。俳優は韓国人と中国人(香港俳優)なので、お互い言葉が通じなかったり、セリフがたどたどしかったり、「なんでこんな複雑な設定に?」という気がしちゃいます。  先日ご紹介した「暗殺」がチェ監督の作品です。そして、日本統治下の満州が舞台だった「暗殺」でもやはり、大人数が多言語で話すドラマでした。 https://note.com/33_33/n/n8e49f205a03b こうなると、もう監督が好きなんだなーとしか思えない。笑 出演俳優もかぶっていて、ワイヤー使いのプロを「猟奇的な彼女」のチョン・ジヒョンが、韓国チームのリーダーを「神と共に」のイ・ジョンジェが演じています。チョン・ジヒョンの小生意気な感じがいい! (画像はKMDbより) イ・ジョンジェの悪っぷりはそのまま。 (画像はKMDbより) キム・スヒョンの純朴でひょうきんな青年姿は、愛らしいしかない。 (画像はKMDbより) そんな中で「10人の泥棒たち」

話すとは“聞く”ことなのだ 『本日は、お日柄もよく』 #116

朝から快晴の東京です。「お日柄もよく」という言葉にぴったりの空だったので、原田マハさんの小説『本日は、お日柄もよく』について書こうと思います。 ☆☆☆☆☆ 『本日は、お日柄もよく』 https://amzn.to/2UczBoW ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 老舗お菓子会社に勤める二ノ宮こと葉は、幼なじみの結婚式で感動的なスピーチをする女性に出会います。彼女は伝説のスピーチライター久遠久美。空気を一変させる言葉に魅せられ、弟子入りすることを決意します。久美の教えを受けながら、初めて抜擢された仕事は、「政権交代」を叫ぶ野党候補者のスピーチライター。こと葉は、有権者の心を動かすスピーチを書くことができるのか!? スピーチライターという仕事は、ジョン・F・ケネディ大統領の就任演説を書いたセオドア・C・ソレンセンの活躍で有名になったそう。近年、注目された人としては、オバマの大統領就任演説を執筆したジョン・ファブローがいます。 (スパイダーマンやアベンジャーズシリーズで俳優としても監督としても活躍しているファブローおじさんとは別人) 古くからヨーロッパでは、政治家には、スピーチが必須の教養と考えられていました。さまざまな立場、人種、そして不満を抱えている人たちを前に、自分の考えを話す必要があるからです。 でも苦手な王だっています。 スピーチに苦しんだ王を描いた映画が「英国王のスピーチ」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「英国王のスピーチ」 https://amzn.to/3lT0cTb ☆☆☆☆☆ お兄ちゃんが王位より恋を選んでしまったために、英国王になってしまったジョージ6世の物語。彼は吃音に悩んでいて、スピーチが大の苦手。 この映画のいいところは、吃音を「治す」のではなく、「付き合い方」を身につけるところなんですよね。 映画は「話し方」に焦点をあてていますが、『本日は、お日柄もよく』の方は、これに加えて「言葉の選び方」を描いています。 けっこうお気楽なOL生活から一転、スピーチライターの修業をすることになったこと葉のライバルとなるのが、大手広告代理店のコピーライター・ワダカマです。 「言葉は操るものだ」が信条の男。 彼が「師匠」と仰ぐ人物は、「リスニングボランティア」をしている北原正子という人物です。 書く人でもなく、話す人でもなく、「聞く」人なんです。 黙って人の話を聞く、という行為

言葉は“魂のかけら” 『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』 #113

川越にある小さな活版印刷所「三日月堂」を舞台に、記憶とは、言葉とは、ご縁とは何かを考えさせられる小説「活版印刷三日月堂」シリーズの4冊目、これが完結編です。 1巻から読みたい場合、読む順番はこちら。 第1巻:星たちの栞 第2巻:海からの手紙 第3巻:庭のアルバム 第4巻:雲の日記帳 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『雲の日記帳』に収録されているのは4編です。 ・星をつなぐ線 ・街の木の地図 ・雲の日記帳 ・三日月堂の夢 星、木、雲と、古代から人間の興味の対象だった「自然」がそれぞれの短編のタイトルになっていて、日々を生きる人たちの悩み、迷いが綴られています。時代が変わっても、人間の悩みなんて変わらないのかも。 古いもの・変わらないもの:新しいもの・変わっていくもの この二軸が、小説全体を貫いているテーマです。おまけに印刷技術についての解説も入っていて、どれも「へーっ!」があって興味深い。 「浮世絵は板目(いため)木版。木口木版は西洋木版とも呼ばれていて、イギリスで十八世紀末に発明されて、ヨーロッパで書籍の挿絵によく使われた。ちがいは、木の幹を縦に切るか、横に切るか」 縦に切ったのが板目木版で、横に切ったのが木口木版。木口木版は堅くて目の詰まった木を使うので細かい描写が可能なんですね。その代わり、版が「切り株」サイズになるので大きなものは作れなかったのだとか。 「星をつなぐ線」で紹介される話です。この短編は、プラネタリウムの施設で星座早見盤の木口木版が見つかり、復刻版ができないだろうかと奔走する印刷会社の青年が主人公。 三日月堂の弓子のことを知り、版を複製して印刷する案が浮上します。が、「版」という、刷られるために作られたものをめぐって対立。 使われないけれど、「貴重なもの」だから残すのであれば、それはただの「資料」になってしまいます。「使ってこそ」のものではないのか。いまは使われなくなったものや技術を、「展示」して「保管」することに意味はあるのか。 これは、大きな問いだと思います。現場に遠い人ほど、珍しい「工芸品」や「資料」として扱ってしまいそう。でも、ものを“活かす”ためには、もっと違う視点が必要なのです。 実は弓子自身、活版印刷を受注しながら、時代遅れのものを使い続けることに意味があるのかと迷っていたんですね。でも星

自分の選択を正解にする覚悟 『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』 #112

川越の活版印刷所「三日月堂」を舞台にした物語の第3弾。 物語の最初のころ、運送店のハルさんがハブとなっていた印刷依頼は、徐々に、制作した印刷物がきっかけになっていきます。今回は、いまの境遇がコンプレックスという男性から始まって、弓子の母の友人、そして盛岡の印刷所との出会いのお話です。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 収録されているのは4編。 ・チケットと昆布巻き ・カナコの歌 ・庭のアルバム ・川の合流する場所で 「チケットと昆布巻き」は、小さな出版社で旅行雑誌を作っている竹野が主人公。同級生の結婚式に出席して、大企業の会社員である友人と自分を比較して落ち込む……という、あるあるな悩みを抱えています。 2巻の最終話「我らの西部劇 」で制作された本をきっかけに、「三日月堂」と弓子を知ることに。活版印刷の味わいや、それに引かれる人たちの気持ちは分かると言いつつ、なんだかもやもやしちゃうわけです。 現実にも、活版印刷はちょっとしたブームになっていますが、ビジネスとして成り立つのかは別の問題ですよね。オフセット印刷よりも手間も値も張るので、ショップカードや結婚式の招待状など、「特別な逸品」に使われているという状況を踏まえて、「もっと儲けたい」という思いはないのかと悩むのです。 竹野の実家はかまぼこ屋さんで、兄が継いでいます。結婚のお祝いに渡したのも、実家で作っている昆布巻き。こんな古くさいものを作り続けるなんて……という、兄への不満、友人への嫉妬、コンプレックスでぐちゃぐちゃ。 そんなこともあって、弓子の“活版印刷への”熱意に違和感をもってしまうのです。そこに、先輩がひと言。 「全然もがかない人は嘘っぽいよね。そんなんでおもしろいのか、って思う。けど、一生自分の人生を受け入れられなかったら、それはそれで貧しいと思うんだ」 自分の生き方はこれでいいのか。 この選択は間違っていないのか。 ふとした瞬間に自分を飲み込もうとする黒い塊は、わたしの中にもあります。もがいて、あがいて、迷って、悩んで、いまの自分の役目を受け入れるしかないとも思う。でも。 わたしは、こちらでよかったのかな、と悩むより、「自分の選択を正解にする」生き方をしたいと思うのです。 それを選んだ時の自分を否定したくはないから。 この巻では、学校生活になじめないイラスト

自分の人生を生きよう 『活版印刷三日月堂: 海からの手紙』 #111

むかーしの本、活版印刷で刷られていた本をみると、活字がちょっとななめを向いていたり、行間がそろっていなかったりということがよくあります。 その点、いまのオフセット印刷はきれいですよね。何かがずれている時は、自分が何かをやらかした時だというのも、すぐ分かって。笑 川越にある小さな活版印刷所「三日月堂」の店主・弓子は、こんな風に語っています。 “オフセット印刷はほんとにきれいで、透明です。でも、文字がほんとうにすべて均一になってしまうと、なんだか物足りなくなる。” いま、活版印刷に新鮮さを感じ、見直されているのは、「写ルンです」と同じ、こんな理由なのかもしれません。 昨日に引き続き、「活版印刷三日月堂」シリーズの2冊目『海からの手紙』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂: 海からの手紙』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 1巻と同じく、連作の短編集で4編が収められています。 ・ちょうちょうの朗読会 ・あわゆきのあと ・海からの手紙 ・我らの西部劇 「ちょうちょうの朗読会」は、カルチャーセンターの朗読教室に通う女性たちが初めて朗読会に出演することになり、そのプログラムを制作するお話です。 小さな子どもでも飽きずに聞いてもらえるようにと、選ばれた本は、あまんきみこの 『車のいろは空のいろ』。 (画像リンクです) 空いろのタクシーに乗った松井さんとお客さんが、いろんな失くしものを探しながら不思議な冒険をする、というお話。「活版印刷三日月堂」シリーズとテーマが同じなんですよね。 この他の短編にも、詩や俳句、和歌が紹介されていて、自然とそちらも読みたくなってしまいました。 第2巻の話はどれもおすすめなのですが、涙なしには読めないのが「あわゆきのあと」と「我らの西部劇」です。 「我らの西部劇」は、病のために、会社を退職せざるを得なくなったおじさんが主人公。彼は、新美南吉の詩「貝殻」が銅版画と並んで刷られた豆本が、「三日月堂」で製作されたことを知り、お店を訪ねることにします。実は前店主である弓子のおじいさんと、自分の父親が懇意だったのです。 わだかまりを残したまま亡くなってしまった父の職業は、映画を専門としたフリーライターでした。父が寄稿していた雑誌「ウェスタン」の、創刊15周年記念号の版を組んでたいたはずということを思い出し、父の最後の原稿を探すことにします。 思いがけな

偶然性が生むエモさが主役 『活版印刷三日月堂』 #110

校閲の仕事では、「文字サイズ」のことを「Q数」、もしくは「Qサイズ」と呼んでいます。WordをはじめとするPCの表示は「ポイント数」ですよね。ですが、印刷現場では昔ながらの呼び方なんです。 これは、写植で使用されていた単位「1Q= 0.25mm」を「Qサイズ」と呼んでいたことの名残りだそうです。校正の7つ道具である「級数表」は、文字のサイズを確認するためのものですが、この「級」という漢字も「Q=キュー」の当て字です。 といっても、いまでは「写植」さえ、知らない人の方が多いと思います。写植=写真植字とは、文字などを印画紙やフィルムに印字して、版下(印刷用の原稿)を作るためのもの。テレビのテロップやマンガのセリフなどにも使われていました。 写植は1個の文字を使いまわすことができますが、1文字:1個の活字を組み合わせて印刷するのが「活版印刷」です。ひらがな、カタカナ、数字、ローマ字、膨大な数の漢字。それを各サイズ取り揃えるので、活版印刷には大量の「活字」が必要になります。 (出典:Wikipedia) 昔の本は、この活字を一文字ずつ組んで印刷していたのです。そのため校正赤字を修正する際は、行がずれないように文字数を変えない工夫をしてくれた作家もいたそうです(行がずれると、活字を組み直さないといけなくなるので)。 活字は写植に押され、写植はDTPに押されて、いまではコンピューターソフトでページが組まれることが多くなりました。 「活版印刷」は“趣味”のものになりつつあるのでしょうか……。 めっちゃ前置きが長くなってしまいましたが、今日からご紹介しようと思っている小説が、活版印刷所「三日月堂」を舞台としたシリーズなんです。川越の小さな印刷所を継いだ弓子と、活版印刷がつなぐご縁の物語です。 全4巻のシリーズで、順番はこちら。 第1巻:星たちの栞 第2巻:海からの手紙 第3巻:庭のアルバム 第4巻:雲の日記帳 今日は物語の導入にあたる「第1巻:星たちの栞」を紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 話は、まもなく高校を卒業し、独立しようとしている息子の母である運送店スタッフ・ハルさんの話から始まります。女手一つで息子を育ててきて、大学生になる息子が誇らしくもあり、淋しくもあり。 なにか、“ぴったり”な贈り物をしたいと思いつつ、何がいいのか思いつ