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図解でクリアに、判断基準が明確に 『漢字の使い分けときあかし辞典』 #480

この世に、こんな便利な辞典があるのか。 手に取って、思わず震えたのが『漢字の使い分けときあかし辞典』です。辞典ごときで大袈裟なと思われるかもしれませんが、この本ほどクリアに「同訓異字」を説明してくれているものに出会ったことがなかったです。 ☆☆☆☆☆ 『漢字の使い分けときあかし辞典』 https://amzn.to/3zKpoju ☆☆☆☆☆ 日本語のよいところは、文字としての表現が豊かなところだと思います。漢字とひらがなとカタカナによって構成されているから、幅が広いんですよね。でもその分、「同訓異字」に迷うことも増えます。 たとえば、「はかる」という言葉は、こんな名詞とくっついて使われます。 気温 重さ タイム 悪巧み 逃亡 これ、全部漢字が違うんです。 『漢字の使い分けときあかし辞典』は、「ときあかし」というだけあって、判断基準(見分け方)を教えてくれる本です。 長さや広さ、体積や重さ、時間、何かをしようとするとき、といった基本形と発展形に分けて解説が載っています。おまけにイラスト図解も。 上の例でいくと、正解はこうなります。 気温を測る 重さを量る/測る タイムを計る 悪巧みを謀る 逃亡を図る こんな複雑な用例を使いこなしている人って、ホントにすごい……。 「かげ」についての説明なんて、イラストだととてもよく分かります。 『漢字の使い分けときあかし辞典』がわたしにとってありがたかったのは、考え方と事例が豊富なので、若手のライターに説明するときに活用できた点です。 校正の仕事をする際、一番大切なことは「根拠」を持つことです。赤字の指摘を出すときにも「なんとなく」では、絶対に書きません。とはいえ、こちらも神ではないので、判断に迷うことなんて山ほどあります。 「辞書的な説明だとこうなるけど、どう思う?」 そう話しながら、一緒に原稿を練り上げていくこともありました。著者の円満字二郎さんも、「これって不思議な書き方ですよね」なんて、本の中で迷っておられます。笑 わたしは、表現力豊かな日本語の可能性とおおらかさが好きです。でも、使いこなすのは、まだまだ。だからこそ、面倒くさがらずに辞書を引こうと決めています。 書くときは手元に辞書を!

表現をサポートしてくれる心強い相棒 『てにをは辞典』 #479

文章を書いていて、混乱してしまう慣用句や助詞がありませんか? あと、「なんていうんだっけ~」と思い出せなくなる時。そんな時に重宝するのがコロケーション辞典です。コロケーションとは、言葉同士のつながりのこと。 効果「が」→上がる 効果「を」→上げる といった助詞のつながりや、形容詞や副詞など修飾語との相性を確認できる辞典です。その名も『てにをは辞典』。まとまった文章を書く人に超おすすめです。 ☆☆☆☆☆ 『てにをは辞典』 https://amzn.to/2TPjU6h ☆☆☆☆☆ たとえば「愛する」という文章を書いていて、同じ言葉が連続しちゃうなーというとき、類語辞典を引く人は多いと思います。『てにをは辞典』も同じように使えますが、より表現に即した事例が載っているんです。 愛する 心から。本気で。永遠に。極端に。真剣に。素直に。熱烈に。人波に。一方的に。こよなく。掌中の玉と。激しく。ひたすら。…… 編者の小内一さんは校正者だそうで、独力で250人の作家の作品から「結合語」を採集したとのこと。その中から60万語の事例を掲載しています。 誠に「ごいすー!」としか言いようのないお仕事です。 校正者らしいなと思ったのが、表現に違和感を覚えたときや、否定形で使うのか肯定形で使うのか、相性の合う言葉を確認するためにも使える点です。 たとえば「気配」という言葉は、後に続く助詞によって相性のいい言葉があります。 気配「が」:あふれる。色濃く残る。動く。薄れる。伝わる。 気配「を」:うかがう。受け止める。帯びる。探る。振りまく。 気配「に」:脅える。気づく。耳を澄ます。異常な~口もきけない。 ~気配:怪しげな。忙しそうな。恐ろしげな。静謐な。ひそやかな。 こんな感じで、『てにをは辞典』というタイトル通り、「てにをは」の助詞を中心に編成されています。語句から探したいよというときは、兄弟版に『てにをは連想表現辞典』というのもあります。 ☆☆☆☆☆ 『てにをは連想表現辞典』 https://amzn.to/3xvIcRy ☆☆☆☆☆ こちらは慣れないと探し方がちょっと難しいかもしれません。大分類(見出し)と用例(引き出し)に分かれています。索引を使うと便利。 見出し:繰り返す 引き出し:くどくど(文句を言う。言わずに引き退る)/何度(言ったか知れない。見ても飽きない)/蒸し返す(前のことを。

日本語を使いこなすために 『助詞・助動詞の辞典』 #478

「校正・校閲」は、「間違い探し」と思っている方が多いようで、とても残念に感じています。「間違い探し」ゲームのようなものなら、どれだけ気楽なことか! わたしが校正を教わった師匠は、「情報を正しくすること」と説明していました。資料をあたったり、日付と曜日を確認したりといった「情報」を確認し、「正しく」整えること。 その中にはもちろん、日本語の文法に合っているかどうかも含まれます。ただ、根拠のない指摘はできないんです。「なんとなく、感覚的に」とか、「わたしならこうは書かない」と思うことがあっても、根拠がなければ単なる揚げ足取りに思われてしまうから。 今の会社でわたしが校正を担当しているのは、主に企業のリリースとweb記事です。以前はインターンの学生に書いてもらった記事も読んでいたのですが、その時いちばん感じたことは。 「日本語の文法を知らない人が多すぎる!!!」 でした。 主語と述語が合わない、いわゆる「ねじれ文」を見たとき。「名詞がね~」や「受け身はね……」なんて説明をしても、「受け身ってなんですか?」から話が始まるのです。道は遠い……。というわけで、自分の勉強のために買った日本語の辞書が『助詞・助動詞の辞典』と『動詞・形容詞・副詞の事典』です。 ☆☆☆☆☆ 『助詞・助動詞の辞典』 https://amzn.to/2U7PWL1 『動詞・形容詞・副詞の事典』 https://amzn.to/3q8Nn7z ☆☆☆☆☆ (なんかビックリする値段になってるからご注意を……。定価は2800円です) この本、どちらも早稲田大学日本語研究教育センター所長の森田良行さんがまとめたものなのですが、「辞典」と「事典」なことにお気づきでしょうか。 『助詞・助動詞の辞典』の方は、「は」と「が」の違いといった解説を載せたもの。 一方の『動詞・形容詞・副詞の事典』はというと、各品詞ごとに文型や用法、類義語を集めた事例の本だからです。 特に重宝しているのは、『助詞・助動詞の辞典』にある「ので」と「から」の違いや、「に」と「へ」の違いです。ざっくり説明すると、こうなります。 「に」:場所→ 駅に行く(駅自体に用事がある) 「へ」:方向→ 駅へ行く(駅の方向に向かう) 一文字違うだけで、ニュアンスがちょっと違うんですよね。はぁ、日本語って奥深い。 日本語学者の方なら、古典の○○の頃には「を」で受けて

言葉を巡る冒険 『三省堂国語辞典のひみつ』 #477

中華といえば幸楽苑。三大庭園といえば後楽園。国語辞典といえば『広辞苑』。というわけで、校閲の仕事をするとき、一番使っているのは『広辞苑』かもしれません。 ただ辞書って不思議なもので、「あと一歩、かゆいところに手が届かない」と感じることが多いんです。 普段はCASIOの電子辞書「XD-SX20000」を使っています。収録されている国語系の辞書は、『広辞苑』『明鏡』『新明解』『日本国語大辞典』です。探し物をしながら、解説の違いを読み比べるのもおもしろいもの。 電子辞書 - 生活・ビジネス | CASIO   これには入っていませんが、ユニークだと有名な辞書が三省堂の国語辞典です。飯間浩明さんの『三省堂国語辞典のひみつ』は、その編集の裏側を綴った本。リアルに『舟を編む』の世界です。 ☆☆☆☆☆ 『三省堂国語辞典のひみつ』 https://amzn.to/2TKMHt0 ☆☆☆☆☆ 『新明解』と三省堂の国語辞典、通称『三国』は、ひとつの辞書から分かれたものなのだとか。原形を作ったのは見坊豪紀さんという方で、ほぼ独りで145万枚もの用例カードを作り、言葉の収集にあたったそうです。 ☆☆☆☆☆ 『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』 https://amzn.to/3zxF6hP ☆☆☆☆☆ 「w」を辞書に載せたことでも話題になった『三国』。『新明解』との違いは、にやりとさせる『新明解』か、すとんと理解できる『三国』かとのこと。『三国』は「要するに何か」が分かる説明に振り切っているため、百科事典的な要素は、あえて省いているそうです。 辞書作りの背景だけでなく、言葉の「揺れ」についての話も興味深く読みました。 たとえば、「的を射る」か、「的を得る」か。これまで校閲の際に「的を得る」を見かけたら、 一般的には「的を射る」と使います。 と青字(著者への注意喚起や確認事項を書くときは青いペンを使います。エンピツを使う人も)で書いていました。赤字にしないのは、なんぞ「思惑」があるのかもしれないと思うからです。 が、飯間さん曰く、「あながち間違いとはいえない」とのこと。例として引用されているのが新井素子さんの小説『結婚物語』で、まさしくこの小説でわたしも「あぁ、そうなのか!」と覚えたんですよね。 「的を射る」と似たような言葉に、「正鵠を得る」という表現があります。正鵠=的と考えれば、「

誠実な教師が出会った悪のるつぼ 映画「トガニ 幼き瞳の告発」 #459

2007年に韓国で放送されたドラマ「コーヒープリンス1号店」で爆発的な人気を得た俳優コン・ユ。このドラマに出演する前は「引退」を考えていたそうで、そっからブイブイいわせてもらうぜー!となったわけですが。 ドラマが終了した2008年1月。入隊を決めます。 韓国の男性にとって避けては通れない徴兵は、キャリアプランに大きな影響を与えるものだと思います。コン・ユは、兵役中に一冊の小説と出会うのです。 俳優としての彼に、チャレンジを促した本。「トガニ」という小説を読んで、ぜひ映画化したいと考えたコン・ユ。自身がアプローチして叶えた映画が「トガニ 幼き瞳の告発」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「トガニ 幼き瞳の告発」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 聴覚障害者の学校に赴任した美術教師のイノは、寮の指導教員が女子生徒に体罰を加えている現場を目撃する。やがて、その女子生徒が校長を含む複数の教員から性的虐待を受けていることを知ったイノは、その事実を告発し、子どもたちとともに法廷に立つ決意を固めるが……。 韓国で実際に起きた事件をもとに、コン・ジヨンが小説化。それを読んだコン・ユが、ファン・ドンヒョク監督と共に映画化するという、なんとも映画のようなストーリーです。 「No」を“発声”することができず、意志が尊重されない環境で暮らす子どもたち。学校という“密室”で起きた虐待事件は、社会に衝撃を与えました。 「トガニ」は日本語で「るつぼ」という意味。 見通しの悪い、深い霧に包まれた町を舞台に、「悪のるつぼ」が明るみになっていく。さて、裁判の行方は……という展開に、何度も胸がつまりました。 これまでラブコメ中心に活動してきたコン・ユは、正反対なキャラクターを演じること、重いテーマの映画であることから「ヒットは難しいかも……」と考えていたそうですが。 ふたを開けてみたら、400万人を超える大ヒット。加害者の処罰と事件の再捜査を望む署名活動まで始まり、これがきっかけとなって「トガニ法」と呼ばれる法律までできました。 映画が、社会をよくするきっかけになる。 さすが騎士(ナイト)!と言いたくなるほどの、理想的な展開といえます。 この映画が公開されたとき、わたしは映画館で観たのですが、字幕に違和感を持ったんですよね。 虐待している

“世間”という名の荒波から抜け出す方法 ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」 #450

「あなたのためを思って言ってるのよ」 よく聞く言葉だけど、なんて空疎なものだったんだろう。 ソン・イェジン×チョン・ヘイン主演の恋愛ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」には、何度もこのセリフが登場します。 交際に反対する母から。 セクハラした上司から。 告発を止めようとする同僚から。 メインのお話はソン・イェジンとチョン・ヘインの恋物語で、ふたりでチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュしています。 (画像はcinemacafeより) 微笑ましい「ふたりだけの世界」を描くのと同時に、アン・パンソク演出、キム・ウン脚本家コンビによる社会問題へのカウンタードラマでもあります。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」 DVD Netflix配信 https://www.netflix.com/title/80990935 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 35歳のジナは、親には結婚を急かされ、浮気した彼氏に振り回され、職場ではセクハラされ、息が詰まるような毎日を送っていた。ある日、親友のギョンソンの弟で、自分の弟スンホの親友でもあるジュニに再会して恋人関係に。しかし、ジナの母親は交際に大反対。会社でもセクハラの内部調査をすることになり……。 ジナを演じるのは、「愛の不時着」で大人気となったソン・イェジン。ただし、ジナはチョーーーー決められない人です。「Seri's Choice」なんて名前の会社社長で、決断力を売りにしていた姿とは正反対。めちゃくちゃもどかしい。 そんなジナを、「あなたはあなたのままで価値がある」と抱きしめたジュニは、チョン・ヘインが演じています。 ふたりが恋に落ちていくところや、お互いを気遣い、支え合う姿にはすごくトキメキました。 ですが、ジュニと付き合う前のジナは、「タンバリン」とあだ名されるほど、宴会の盛り上げ係だったんです。男性のテーブルに行っては肉を焼き、お酒を注ぎ、カラオケではタンバリンを持って踊る。 「自分がガマンしてその場がおさまるのなら」 そんな気持ちで耐えてきたジナですが、会社の調査に応じることを決めます。ここで、男性陣がとった策が「離間計」です。女性チームを仲たがいさせようとするたくら

悪意の芽はゼリー状!? 養護教師のぶっとんだもうひとつの顔 『保健室のアン・ウニョン先生』 #444

韓国文学というと重厚な歴史小説のイメージがありましたが、最近ではファンタジーやミステリーも邦訳されるようになってきました。 ほのぼのファンタジーがお好きなら、『保健室のアン・ウニョン先生』をおすすめします。タイトルからは想像もできない、ちょっとぶっ飛んだ楽しさのある小説です。 ☆☆☆☆☆ 『保健室のアン・ウニョン先生』 https://amzn.to/3r5UlL1 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> “ゼリー”状になった人の欲望が見えてしまうアン・ウニョン。養護教諭となり、私立M高校に赴任してきます。この学校には、原因不明の怪奇現象や不思議な出来事が次々と起きているのです。BB弾の銃とレインボーカラーの剣を手に、同僚の漢文教師ホン・インピョとさまざまな謎や邪悪なものたちに立ち向かっていく。はたしてM高校にはどんな秘密が隠されているのか……。 霊が見える、というとおどろおどろしい感じがしますが、アン・ウニョン先生の目に映っているのは「カタツムリが這った後の粘液」のようなゼリーです。それをオモチャの剣でピシパシ切り捨てていく、という描写が、とにかくコミカルです。 ちょうど9月25日から、Netflixでドラマの配信も始まりました。主演はチョン・ユミ。もうすぐ映画「82年生まれ、キム・ジヨン」が公開されるので、そちらも楽しみです。 「82年生まれ、キム・ジヨン」のコン・ユが象徴するものについて考えてみた 「82年生まれ、キム・ジヨン」は、「なんか言いたくなる」小説であり、映画でした。心が反応しちゃうんです。キム・ジヨンというひとりの女性が生きていく中で、「ただ女性であるがゆえに」経験した差別と不合理の物語。できれば小中学校の授業はもちろん、企業の人事の方や、女性商材を扱う部署の人には必須で観てほしいくらいです。   学校に起きる奇異の原因は、どうやら地下室にあるらしい。ということで、アン・ウニョン先生は勇敢にも、武器を手に地下に降りていくのですが。 はたからみたら、オモチャの剣を振り回して遊んでるようにしか見えない!!! アン・ウニョン先生の怪しい言動を受け入れ、協力することになるのがホン・インピョ先生。学校の創立者の孫にあたります。そのせいか、強力な守護霊に守られているそうで、アン・ウニョン先生はパワーが落ちるとホン・インピョ先生の手を握って「充電」します。 このふたりが意外に