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『花を見るように君を見る』#766

詩って、難しいなー。 とおーーーいむかし、受験生だった頃、「著者の言いたいことはなんですか?」みたいな問題にイライラしたものでした。 表面に現われているテキスト以上の寓意や暗喩がこめられているからでしょう。それを読み取るためには、詩自体の文字数の、数百倍の文字を読むことになります。 こんな当たり前のことを実感したのは、韓国に留学中、詩集を読んでみようと思い立ったからでした。 語学堂という学校では、教科書に沿って、文法・読解・リスニング・作文の授業があります。わたしはなぜかリスニング能力が先に伸びたのですが、その分、文字を読むのに苦労しました。 読み上げてくれたら、すぐに分かるのにー!!! そんな状況を打開しようと本を読むことにしたのです。でも、小説は扱われている単語が多すぎて大変すぎました。 で、行き着いたのが、詩。 だって、文字数が少ないから……。 韓国は日本よりも詩の扱いが大きく、大型書店じゃなくても詩のコーナーがちゃんとあるんですよね。ドラマや映画にも詩集が登場するくらい、身近な存在のようです。友人におすすめの詩人を教えてもらい、いざ、挑戦。 「なかなかに風流やん」と思うなかれ。 詩の方が難しいーーー!!! 目に見えている単語以上の広がりと奥行きを感じて、まだその段階ではないのだ……と絶望的な気分になりました。 最近は、日本でも邦訳された詩集が出版されるようになり、うれしい限りです。 BTSのRMや、BLACKPINKのジスの愛読書として知られ、爆発的な人気となった、ナ・テジュさんの『花を見るように君を見る』は、可憐な「花」のイラストが付いています。 ☆☆☆☆☆ 『花を見るように君を見る』 https://amzn.to/2XqORzz ☆☆☆☆☆ 小学校の教師をしていたナ・テジュさんは、1971年にデビューして以来、教壇に立ちながら35冊の詩集を出しておられるのだそう。 『花を見るように君を見る』には、ネットでよく取り上げられた作品115編を収録。その理由は、「詩人の代表作は読者が決めるもの」だから。 読んでみてとても意外だったのは、「日常で使うことば」が使われていることでした。エラそうにしたことばも、難しいことばもない。これは、黒河星子さんの翻訳がすばらしいのかもしれません。 たとえば、「葉っぱになるために」という詩は、静かに静かにかなしみが押し寄せてきま

『サハマンション』#765

「このマンションに住んでる人たちって、おんなじような家族構成で、おんなじくらいの収入で、おんなじような人生を歩むのかと思うと、ちょっとビミョー」 結婚して、大型マンションに住むことになった友人が言っていました。 たしかにそうかも。集合住宅は、同じような“階級”の人が集まっている、といえそうですよね。 チョ・ナムジュさんの小説『サハマンション』も、舞台は集合住宅である「サハマンション」です。そこに暮らしているのは、「サハ」と呼ばれる“階級”の人々。 この国では、階級移動の望みもなければ、一攫千金のドリームもない。 最下層の「サハ」たちの生き様を描いた小説です。 ☆☆☆☆☆ 『サハマンション』 https://amzn.to/2UjQz4N ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ある企業が国家を買収して、都市国家となった「タウン」。最下層の“サハ”が住む「サハマンション」で暮らすジンギョンは、小児科医のスーが殺されたニュースを目にする。スーと一緒に暮らしていた弟のトギョンが容疑者にされるが、ずっと行方不明で……。 2016年10月に韓国で刊行されたチョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』は、120万部を超えるベストセラーとなり、日本やアメリカなど、17か国で翻訳出版されました。 コン・ユとチョン・ユミ主演で映画化もされています。 「82年生まれ、キム・ジヨン」のコン・ユが象徴するものについて考えてみた   もともとテレビの放送作家をされていたそうで、取材をもとに物語を構成するのが得意なのだと思います。『韓国文学ガイドブック』を監修した黒あんずさんは、チョ・ナムジュさんを「記録する作家」と呼んでいました。 『韓国文学ガイドブック』と『韓国文学を旅する60章』#757   『サハマンション』でもその手法は発揮されていて、様々な現実の事件が数多のモチーフとなって登場します。 語ることさえ許されない「蝶々暴動」は、韓国での民主化闘争を思わせますし、「タウン」の歴史を保管する方法は、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』を彷彿させます。 (画像はAmazonより) 「サハマンション」で暮らすひとりひとりに焦点を当てて進むストーリーなので、どちらかというと「キム・ジヨン」より、『彼女の名前は』に印象が近いかもしれません。時間も、場所も、行ったり来たりしますが、短編をつなぎ合わせていくと

『愛を描いたひと イ・ジュンソプと山本方子の百年』#764

「会えない時間が愛 育てるのさ~♪」 と、郷ひろみは言うけれど。 やっぱり毎日会って、おしゃべりをして、散歩をして、一緒にご飯を食べたい。 外食ができなくなったため、最近ではテレビの時代劇を見ながら夕飯を食べるのが、我が家の日課です。ケンカをしていても、イラッとすることがあっても、ダンナとなら一緒にご飯を食べているうちに、まぁなんとかなってしまう。 わたしにとっては、これが「普通の生活」なんですよね。 そんなささやかな当たり前を崩してしまうのが、戦争です。 今日、8月15日は76回目の「終戦の日」です。 韓国では、“光”が“復活”した日という意味の「光復節」と呼ばれています。 やっと植民地支配から解放され、ボロボロになった故国を立て直そうと喜ぶ人たちは、とにかく命が脅かされることはなくなった……と、思っていたのに。 1950年6月25日、再び戦争が始まります。 日本と韓国、そして38度線の向こう側にある北朝鮮。複雑な国家間の駆け引きに翻弄された、韓国人の画家がいました。 大貫智子さんの『愛を描いたひと』は、イ・ジュンソプという韓国人画家と、その妻・山本方子さんの「愛」を追ったノンフィクションです。 ☆☆☆☆☆ 『愛を描いたひと イ・ジュンソプと山本方子の百年』 https://amzn.to/3fY7xNJ ☆☆☆☆☆ 1916年に現在の北朝鮮の町で生まれ、1956年にソウルで亡くなった画家イ・ジュンソプ。 知らなかったけど、2014年に「ふたつの祖国、ひとつの愛-イ・ジュンソプの妻-」として映画化されていました。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー映画「ふたつの祖国、ひとつの愛-イ・ジュンソプの妻-」 https://amzn.to/2UhQoqF ☆☆☆☆☆ 予告編には方子さんの姿もあります。 著者の大貫智子さんは、毎日新聞の記者をされている方です。ソウル特派員時代、国立現代美術館で行われた展覧会で絵を見たことをきっかけに、イ・ジュンソプの生涯を追いかけるように。 大貫さんが見たのは、タバコの包み紙に描いた、家族の姿でした。そして、日本で暮らす妻と息子に当てた膨大な手紙。 (画像はAmazonより) 戦時中は、紙を手に入れるのも、絵の具を手に入れるのも、簡単なことではありません。そのため、愛煙家のイ・ジュンソプは、タバコを包んでいる銀紙に傷をつける方法で絵を描いていま

『隣の国のことばですもの ――茨木のり子と韓国』#763

作家の田辺聖子さんが、終戦前後に執筆した日記が見つかったというニュース。昨日はテレビで特集されていました。 田辺聖子さんの日記が発見されたそうで、「ワイド!スクランブル」で特集している。工場で働かされる軍国少女の日常に、ランチの手も止まった…。 これ出版してほしい。 pic.twitter.com/re8CMRZ3iL — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) August 13, 2021 軍国少女だった田辺さん。学びたい、小説家になりたいという夢を抱えつつ、工場で働かされていました。空襲で家を失い、書きためたノートも失いました。 そして終戦。 「何事ぞ! 悲憤慷慨(こうがい)その極(きわみ)を知らず、痛恨の涙滂沱(ぼうだ)として流れ肺腑(はいふ)はえぐらるるばかりである」 他の日づけの日記とは、文字のサイズも違い、字体も乱れるほど、憤りを綴っていたそうです。 情報統制がされる中、すべてのものを我慢してきたのに、信じるしかなかったものに裏切られた衝撃の大きさが感じられます。 田辺さんと同世代の詩人・茨木のり子さんもまた、軍国少女として終戦を迎え、すべての価値が崩れ落ちる衝撃を味わった人です。 田辺聖子:1928年3月27日 - 2019年6月6日 茨木のり子:1926年6月12日 - 2006年2月17日 晩年、茨木のり子さんは韓国語を学び、韓国の詩を日本語に訳す活動をされていました。 なにが彼女をそうさせたのか。 金智英さんの『隣の国のことばですもの』を通して、茨木のり子さんの新たな側面を見ました。 ☆☆☆☆☆ 『隣の国のことばですもの ――茨木のり子と韓国』 https://amzn.to/3jTsjyX ☆☆☆☆☆ 韓国でとても有名な詩人に、尹東柱(ユン・ドンジュ)という人がいます。日本の植民地時代に朝鮮語で詩を創作し、朝鮮語で出版することを目指します。が、治安維持法違反容疑で逮捕され、福岡の刑務所で27歳の若さで獄死しました。 1948年に詩や散文を集めた『空と風と星と詩』され、一気に人々に知られるように。韓国語の教材などにも載っています。 茨木のり子さんの詩「韓国語の森」や、エッセイ集『ハングルへの旅』でも紹介されていました。 で、これらを読んだ当時、わたしはとても不思議だったのです。なぜ、これほどまでに「懺悔」の気持ちが強いんだろう、と

『彼岸花が咲く島』#762

わたしは「ことば」としての日本語が好きです。文字も好き。音感も好き。 だけど、日本語を学ぶ人にとっては、いろいろ難しいと思います。 「なんで日本語って、こんなに文字が多いの?」 日本語を勉強していた韓国人の友人が、こう言っていたことがありました。ひらがなとカタカナが46個ずつ、数限りない漢字、日本語化して使われている外国語。たしかに、24個の文字を組み合わせるハングルに比べて、日本語の文字は豊かですよね。 第165回芥川賞の受賞作となった、李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』は、そんな日本語の特徴を活かした小説で、「ことば」を使った実験的な作品といえると思います。 ☆☆☆☆☆ 『彼岸花が咲く島』 https://amzn.to/3k4NwX9 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 彼岸花が咲き乱れる島に暮らす少女・游娜(ヨナ)はある日、砂浜に一人の少女が倒れているのを発見する。記憶を失っていた少女は、游娜によって宇実(ウミ)と名付けられる。島に置いてもらう条件として、島の指導者で歴史の担い手でもある〈ノロ〉を目指すことになる宇実。男性でありながら密かに〈ノロ〉になりたいと願う拓慈(タツ)の助けも借りながら、島での生活が始まる……。 宇実が流れ着いた「島」では、男女で使う言葉が違います。 ・島の言葉:ニホン語 ・女性だけが使う言葉:女語(じょご) そして、島の人の言葉が半分くらいしか分からない……という宇実の話す言葉は「ひのもとことば」と呼ばれています。 疑問形の語尾が「マー?」だったり、がんばれという状況で使われることばが「加油」だったり。「ニホン語」は、古典に出てくるような漢字交じり文に、中国語を混ぜたような言葉です。中国語と日本語、台湾語、琉球語を混ぜ合わせて創作したとのこと。 「非常に餓(アー)したマー?」(お腹が空いたでしょう) 「リーの名字、書くを欲すラー」(あなたの名前が書きたい) こんな感じで会話が進んでいくので、最初は(おお!?)と思ってしまうのですが、だいたいの意味が分かってしまうんですよね。これが“表意文字”である漢字の優れたところだと思います。 李琴峰さんは台湾生まれ、台湾育ち、15歳の時から日本語を勉強していたのだそう。中国語と日本語の両方で作品を発表しているというのだから、すごいですよね。 日本語を学ぼうと思ったきっかけが、またすごい。 「平仮名の海に漢字の

『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』#761

ぐうたらでも、めんどくさがりでも、「整理」って可能なのでしょうか? 年末あたりで実施しようと思っている研修テーマに合わせて、「整理術」の本をいろいろ読んでいます。 川喜田二郎さんの『発想法』とか、外山滋比古さんの『思考の整理学』とか、「すげー!!」と思うけれど実践・継続できる気がしない……。 なぜなら、わたしがぐうたらだからです。 自分ができないことを、人に紹介するのもなんなので、忙しくても、めんどくさがりでも、「これならできそう!」と思える方法を探していました。 そして、心引かれたのが、phaさんの『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』です。なんといっても帯の言葉がいい!! 「超めんどくさがりやが編み出した 効率的な学び方 全部のせ!」 ☆☆☆☆☆ 『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』 https://amzn.to/2VLi5bV ☆☆☆☆☆ 小さい頃から、何かをがんばったことがほとんどないというphaさん。「京大卒・日本一の元ニート」というお方です。 京都大学に現役で合格したり、シェアハウスを長年運営したりできたのは、phaさんが「勉強を楽しむやり方を身につけることができた」から。 とことん、「がんばる」不要なんですね。 「知の整理術」4大メソッドとして紹介されているのは、こちら。 「知の整理術」4大メソッド 1. デジタルよりアナログ:五感を利用しよう 2. 書くと進む:言語化しよう 3. 情報よりメタ情報:余談が大事 4. 制限は力:工夫のしどころ おもしろいのが、「モチベーションとスケジュールの技術」です。 だるい。めんどくさい。やる気がしない。 よくあるそんな時は、「だるい」「やる気がしない」と言語化することが、問題解決の第一歩なのだそう。そして、自分のダメさを計算してスケジューリングする。 本当に、「がんばる」不要なんですね。 本でも紹介されている「ポモドーロ・テクニック」は、集中が必要な作業の時にわたしもよく使っています。 ポモドーロ・テクニック:25分作業×5分休む×4回繰り返したら15分休む これだけです。夕方になると疲れて集中力も落ちてくるので、「20分作業×5分休む」にすることも。 休みのタイミングでチャットの連絡に返事をしたり、背中を伸ばしたり。で、作業に戻るのですが。 休みに入るタイミングで気を付けたいのは、「キリのいいところで止めな

『お姫様と名建築』#760

ヴェルサイユ宮殿にトイレがないのは有名な話ですが、実は全くなかったわけではないそうです。 王族や大貴族たち専用のトイレはあったものの、それよりはるかに数の多い使用人たちは「おまる」で用を足していました。 で、思い出したのです。 2024年に開催される予定のパリオリンピックでは、ヴェルサイユ宮殿で馬術の競技が行われると発表されました。 ヴェルサイユ宮殿で馬術!!! うっとりしちゃいますよね……。 でも。 その庭園は、「おまる」の中身を捨てる場所でもあったのです……。 夢のない話をしてしまいました。嶽本野ばらさんのキラキラあふれる『お姫様と名建築』を紹介しようと思っていたのに。 さぞかしきらびやかな世界が繰り広げられるのだろうと思いきや、最初に登場するのは「法隆寺」です。 え? 「法隆寺」のすごさは知ってます。広いし、世界遺産だし。 聖徳宗総本山 法隆寺   だけど、寺って「お城」なの? そんな疑問をもつわたしに、艶やかに(イメージです)、厳かに(イメージです)、嶽本野ばらさんが宣言されました。 お城に住むからお姫さまなのではなく、お姫さまが住んでいるからお城なのです。 マリー・アントワネットが言いそうなセリフを皮切りに、世界各地の「お城」と、そこで暮らした「お姫さま」が紹介されていきます。 楊貴妃や西太后らアジアのお姫さま。マリー・アントワネット、アン・ブーリンといったヨーロッパのお姫さま。そして、人魚姫やラプンツェルなど、物語の中のお姫さま。 「お城」を舞台にした、お姫さまの生涯やファッション、政治などの解説は、歴史のお勉強にもなりますよ。 わたしは20代の始めに交通事故に遭って長期入院をしていました。左手と右足を骨折したので本を読むのも一苦労。そこで、ベッドの上でできるリハビリ兼暇つぶしにしていたのが、ジグソーパズルでした。 この頃、めちゃくちゃ憧れて、一所懸命に作り上げたパズルが「ノイシュバンシュタイン城」。ディズニーランドのシンデレラ城のモデルになったお城です。それが、こんな悲恋のお城だったなんて。 (画像はAmazonより) バイエルン王だったルートヴィヒ2世によって建築されました。コンセプトは、「ヴェルサイユ宮殿より豪華で、ヴァルトブルグ城よりかっこよく」。幼き日に愛する人と交わした約束の象徴だったのではないか、とのこと。 ロリータの夢と愛が炸裂する一冊で