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ドキュメンタリー映画「あなた、その川を渡らないで」#863

今日11月22日は、「いい夫婦の日」です。 この日には必ず、「あなた、その川を渡らないで」という韓国のドキュメンタリー映画を思い出します。 結婚76年目の老夫婦の日常を追った映像で、98歳のおじいちゃんと89歳のおばあちゃんのラブラブぶりに、すっかりあてられてしまうのですけれど。 生きとしいけるものには寿命がある。 最高のパートナーといえども、いつか別れの時がくる。 激動の時代を生き抜いたふたりの、穏やかな愛の形に涙が止まりませんでした。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー映画「あなた、その川を渡らないで」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ おふたりが住んでいるのは、雪深い江原道の山奥。子どもたちは皆、都会に出て仕事をしていて、お互いだけが頼りです。というと、寂しい侘しい貧しい暮らしが思い浮かぶと思うのですが、印象はまったく逆です。 ♪ ふ~たりのため~ せ~かいはあるの~ ホントにこんな風に暮らしている夫婦がいるんだ……と思うくらいのラブラブ生活。 春は野花を摘んでお互いの髪に飾り、夏は水遊び、秋は落ち葉でいたずら、冬は雪合戦。これがドラマなら、「いまどき、10代でもこんなベタな恋愛しないよ」なんてレビューが付いてしまいそうなくらい微笑ましい光景です。 これは撮影用の「演出」なのかという疑問も上がったそうですが、ガチでずーーーっと一緒なんだそう。 お茶目でロマンチストで、気遣いにあふれているおじいちゃんは、おばあちゃんのことが大好き。この家のトイレは外にあるため、夜に用を足す時は、おばあちゃんが怖くないように歌をうたってあげたりなんかもしてます。 落ち着けない気もする……。 老夫婦はずっとおそろいの韓服を着ていて、これは子どもたちが誕生日ごとに贈ってくれたものだそう。いっぱいあるので、日々着ることにしたとのこと。これもかわいいしかない。 (画像は映画.comより) 映画は、雪の中で泣き続けるおばあちゃんの姿から始まります。大きな土まんじゅうには草も生えておらず、雪も積もっていない。つまり、作られたばかりの「お墓」の前なんです。 人生最高で最愛のパートナーといえる人に出会うことは、幸せなことだといえるでしょう。でも、出会ったご縁を育てることこそ、人生の一大事業といえるのかも。 「いい夫婦」について、「心地よい関係」につい

『どうしても欲しい! 美術品蒐集家たちの執念とあやまちに関する研究』#862

オタクの欲は黒くて、深い。 権力を手にした人たちの虚栄心を満足させてきた美術品。普通にほしがり、普通に手に入れるなら、なんの問題もないのですけれど。 古代ローマの時代から、美術品のために盗む、嘘をつく、手を加えるといった行為はあったのだそう。 『どうしても欲しい!』に登場するコレクターたちの、愛すべきワガママさに、オタクの熱意は時代を超えて変わらないのだなと感じました。 ☆☆☆☆☆ 『どうしても欲しい! 美術品蒐集家たちの執念とあやまちに関する研究』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 美術品には、古代から多くのコレクターが存在しています。なんていうか、お上品で“ちゃんとした”人たちばかりなら、ギィ・リブのような天才贋作作家は生まれなかったのでしょうね。 『ピカソになりきった男』#861   西岡文彦さんの『ビジネス戦略から読む美術史』には、ナポレオンやヒトラーのように権力をつかんだ者は、軍装や建築物をローマ帝国風の威圧的デザインで統一していたことが指摘されています。 『ビジネス戦略から読む美術史』#859   でも、陰気な皇帝として知られるローマのティベリウスは、身の回りをせっせとギリシャの美術品で固めたそうなので、ローマに続く道はギリシャに続いているのかも。 “権力や権威を夢見る者にとっては、やはりすべての道はローマに通じているらしい。” 『ビジネス戦略から読む美術史』より ガキか!?と言いたくなるようなコレクターたちのワガママ振り。それを叶える業者たちの奮闘振り。 現代でいうなら、上司やクライアントの無茶振りに耐えながら悪態をつくようなもんでしょうか。テキトーなことを言って丸め込む業者たちは、やり手の営業マンのようです。 まったく知らなかった美術コレクターの“裏側”の世界。クスクスと呆れる展開ですよ。

『ピカソになりきった男』#861

「その朝、俺はピカソだった」 ギィ・リブというフランス人のおじさん画家は、その界隈では有名な方なのだそう。 その界隈とは……贋作業界です! ピカソやシャガールら巨匠たちの名画の複製だけではなく、作風をコピーして新作を描いていたというんですから驚き。30年にわたって贋作を描き続けたギィ・リブの自伝もまた、ワクワクするくらいに刺激的でした。 ☆☆☆☆☆ 『ピカソになりきった男』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 1948年生まれのギィ・リブは、幼少期を娼館で暮らしており、学校で学ぶという環境にはなかったようです。 8歳の頃から絵を描き始め、30代半ばで贋作作家へと踏み出します。でも、せっせと描き続けたことで、ある日、気が付くんです。 作品に、魂がないことに。 そこから、偉大な先人たちの画風を完璧にコピーし、「新作」に取り組むように。フランス警察でさえ、「偽物」だと結論付けることができないくらいの腕前(?)になってしまう。 ギィ・リブの場合、正当な画壇との縁は遠く、食べていくために底辺の世界に手を染めるしかなかった。まともなアーティストの代わりに、集まってくるのは、邪な計画を持つ画商だけ。本物以上の偽物を作り上げ、買い手を騙そうとする。 どんだけ!?と思うんですけど、実際にピカソの子どもたちが「本物」と認めた作品もあるのだそう。 アート市場の欺瞞も感じることができる自伝ですが、とても心に残った言葉がありました。 「いい盗みとは、いいものだけを盗むことである」 うう。 その天才的な審美眼が、ギィ・リブを犯罪世界に引きずり込んだともいえそうです。 独善的で、利己的だけど、根は(たぶん)善人なギィ・リブの半生。これはおもしろかった!

『たゆたえども沈まず』#860

人を信じて待つ、ということは、これほど勇気のいることなのか。 ゴッホの生涯を、史実と想像力で描いた小説、原田マハさんの『たゆたえども沈まず』を読んで、人を信じる心について考え込んでしまいました。 ☆☆☆☆☆ 『たゆたえども沈まず』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。その奇跡の出会いが"世界を変える一枚"を生んだ。 今でこそ大人気の印象派の絵画ですが、最初に開かれた展示会は酷評の嵐だったそうです。 「印象派」という名前自体も、「描かれているのが“印象”やん」というツッコミからきたもの。そんな異端の絵画だった作品を、金縁の華やかな額縁に入れ、猫足家具の並んだサロンで鑑賞する、という手法で売ったのがポール・デュラン=リュエルという画商です。 『美術史に学ぶビジネス戦略』で詳しく紹介されていて、へー!となりました。 『ビジネス戦略から読む美術史』#859   1874年4月15日から開催された第1回美術展に参加したのは、モネやルノワール、シスレーら、日本でも有名な画家たちです。 このひとつ下の世代で、ポスト印象派と呼ばれたのが、ゴッホやゴーギャン。この辺りの人になると、自身の芸術性と生活がリンクしているので、作品に狂気が感じられるようになってしまうのかもしれません。 『たゆたえども沈まず』の主人公であるゴッホは、不遇の時代を過ごし、わずか10年ほどの作家活動で多くの作品を残しました。 若い頃は、働いては解雇され、なんかやりだしては放り投げを繰り返していて、こんな人、現代にもいるよなーという感じがあります。 そんなゴッホを信じて支え続けたのが、弟のテオ。このテオが画商に勤めていたことから、浮世絵に触れたり、いまの流行を知ったりするのですが、ゴッホ自身は、描きたいものしか描けないんですよね。 というか、描くことから逃げるために別のことを始めているようにも思えます。 そんな腰の据わらないゴッホに、真実の言葉を伝えたのが、日本人の画商だった……という展開です。 人物描写も関係性も、ジリジリするくらい暗くて熱い。 人を信じて待つとは、どれほどの覚悟が必要なのか

『ビジネス戦略から読む美術史』#859

西岡文彦さんの『ビジネス戦略から読む美術史』を読んで、もう一度、歴史を勉強し直したいなーとワクワクが止まりません。 歴史って、ホントにおもしろいなと思いませんか? プラトンの『国家』には「最近の若者は……」という言葉があって、ジェネレーションギャップは二千年前からあったんだなーと、なんだか笑ってしまいます。わたしごときが悩んでもムダムダと思えるような感じで。 『ビジネス戦略から読む美術史』では、技術の進化と社会の変化が、美術という芸術のあり方も変えていったことが、よく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『ビジネス戦略から読む美術史』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 西洋美術は、聖書の物語をビジュアルで伝える役割を担っていました。そのため、描かれる場所は、教会や宮殿でした。フレスコという技法で壁や天井に直接描く「不動産絵画」だったんですね。 そこから油彩の技術が発達し、キャンバスに描かれるようになり「動産絵画」へと変化。 これは、現代でいえば、オフィスに出勤しなければ仕事ができない人と、リモートワークで十分仕事ができちゃう人との、境遇の差とのこと。 そんな「へー!」がいっぱいです。 印象派の販売戦略を立てた人物として紹介されているポール・デュラン=リュエルは、原田マハさんの小説『ジヴェルニーの食卓』にも登場します。『たゆたえども沈まず』のドイツ系ユダヤ人の画商とも接点があったのだそう。 (画像リンクです) (画像リンクです) こうしたひとつひとつの歴史の流れが、一大絵巻のように繰り広げられていくので、飽きずに一気に読むことができます。 あのダ・ビンチが、「ちくしょー! オレだって自宅で仕事してー!」と思っていたかもしれないと想像するだけで楽しい。 カシコク生きるヒントは、歴史の中にありそうですね。

『戦国ベンチャーズ』#858

年功序列の弊害や、45歳定年制が話題になるなど、日本の「働き方」は大きく変わろうとしています。 「働かないおじさん」と呼ばれる世代としては、ニュースを見るたび暗い気分になるのですよね。 そんなにジャマですか!? そう言いたくなってしまうところもあるけれど。 歴史上、ゼロからのし上がった名将で「年功序列」の人事制度を採用していた人物はいなかったと聞くと、ああ、やっぱりという気もします。 人事と戦略のプロである北野唯我さんの『戦国ベンチャーズ』は、歴代の戦国武将の特性を人事の視点で分析した本です。 ☆☆☆☆☆ 『戦国ベンチャーズ』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ わたしは高校時代に歴史が好きになりました。これは、おもしろい授業をしてくれた高校2年生の先生のおかげです。 通常の、年表丸覚え式のテストもあるのですが、これに加えてレポートの宿題が出るんです。人物について、事件について、風俗についてなどなど、自分の好きなテーマで書くことができて、先生に「おもしろいね」と言ってもらえれば加算されます。 だから、テストの結果が「100点満点」じゃなくなってしまう。 たしか「曹操にはなぜ友だちがいないのか」みたいなテーマでレポートを書いて、10点の加点をもらいました。授業は日本史だったんですけどね……。 いま思えば、先生はどうやって成績を付けていたんだろうと心配になってきました。 閑話休題。 北野さんはというと、一番嫌いな科目が「歴史」で、この本をつくるにあたって、歴史を研究したのだそう。 徳川家康や織田信長といった戦国時代の武将たちをはじめ、『三国志』の曹操らを、“人事”目線で分析。その能力の特徴から、強みの活かし方と、パートナーとなる人物の組み合わせが紹介されています。 ・創造性系 ・再現性系 ・共感性系 という区分けは、『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』と合わせて読むと、より理解できるかも。 (画像リンクです) 『戦国ベンチャーズ』はKindle版しかありません。紙の本に慣れている人にはとっつきにくいかもしれませんが、これなら読めますよ!! だって、おもしろいんだもん!! 自分のキャリアを棚おろししたい人、マネジメントをしている方におすすめです。 人事戦略があたった時ほど、人と働く醍醐味を感じられることはないと思います。「働かないおばさん」と呼ばれる日まで。

『「利他」とは何か』#857

新型コロナウイルスの流行によって、仕事の仕方が変わった、という方は多いのではないでしょうか。 リモートワークになった。リアルでの商談がなくなった。仕事後の飲み会がなくなった。などなど。 リアルでの距離感はもちろん、交互に話さないといけないオンラインミーティングなど、他者とのコミュニケーションの取り方にも、大きな影響を受けましたよね。 こうした、いかに他者と関わるのかという問題を正面からとらえた本が『「利他」とは何か』です。 伊藤亜紗さん、中島岳志さん、若松英輔さんら、東京工業大学にある「未来の人類研究センター」の方々による考察が紹介されています。 ☆☆☆☆☆ 『「利他」とは何か』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ そもそも「利他」とは仏教の言葉だそうです。そして「利」という言葉は、肯定的な意味合いを指すことが多いのだそう。 とはいえ、「他人を利する」ことは、自然な心の動きなのか? そこに合理性は必要なのか? 見返りを求める気持ちは、あってはいけないものなのか? といった、考えれば考えるほど、「うーん……」となってしまいそうな問いが並んでいます。 なかでも伊藤亜紗さんは、「利他」に対する不信感から研究を始めたそうで、障がい者との交流や、資本主義経済の中で「利他」がどのように現われるのかという事例は、とても興味深かったです。 “利他の大原則は、「自分の行為の結果はコントロールできない」ということなのではないかと思います。” 哲学的な問いを、「わらしべ長者」の物語で読み解いたり、柳宗悦の美学からみてみたり、自分の中にも、さまざまな疑問が湧き上がってきます。 こういう正解のない問いを、武器としての思考にすることが、現代のリベラルアーツなのかもしれませんね。 著者のみなさんが所属されている東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院は、「理工系専門知識」という縦糸と、「リベラルアーツ研究教育院」が提供する「教養」という横糸で未来を拓く人材を育成することがモットーだそう。 その中で動き出したのが、「利他プロジェクト」。 https://www.fhrc.ila.titech.ac.jp/ これはウォッチしていきたい!