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ドラマ「調査官ク・ギョンイ」#888

俳優にとって「未知なる姿」をみせるのは、これほど難しいことなのか。 K-POPの世界では「カムバック=新曲・新アルバムを発表すること」のたびに、新しい姿をみせることが求められます。でも俳優の場合、これまで築いてきたイメージを壊すことはとてもリスキーなのですよね。 清純で、誠実で、勤勉で、マジメな役柄を演じてきたイ・ヨンエさんが、「調査官ク・ギョンイ」では、コメディとアクションに挑戦。 SBSドラマ 「師任堂、色の日記」 以来、約4年ぶりのカムバック作品での姿はというと。 ボサボサ髪に、首の伸びたTシャツ、ジャンクフードをボリボリしながら、お酒が手放せないゲーム廃人です。 元刑事で、推理の腕は一級品なのだけど、夫を亡くしてから引きこもり生活をしていた、という設定。 この、ギャップ。 正直にいって、最初はなかなか受け入れがたいものがありましたが、第3話くらいからようやくコメディ色が強くなり、なんとか完走しました……。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「調査官ク・ギョンイ」 https://www.netflix.com/title/81486374 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 夫の死後、部屋に引きこもってゲームばかりしていた元刑事のク・ギョンイ。警察時代の後輩ナ・ジェヒから保険調査を依頼され、ゲーム仲間のサンタを相棒にして調査を開始する。不審な死亡事故を調べているうちに、夫の教え子が連続殺人鬼ケイではないかと疑うようになり……。 ドラマのオープニングが、ギョンイとケイのアニメーションだったので、てっきりウェブトゥーンが原作なのだと思っていました。けど、どうやら違ったようです。 このドラマの脚本を担当したソン・チョイは、ルーキーたちが集まる共同作家チームのひとりなのだそう。 「独特」すぎたのか、オンライン制作発表会に参加したイ・ヨンエさん自身、「台本を何度読んでも理解できなかった」と語っていました。 高校生時代から変わらず、軽いノリで「だって悪い人なんでしょ?」と、人を抹殺してきたケイ。あまりにも悪びれないので、なんの共感もわかないまま……。そこがつらかった一因かも。演じたキム・ヘジュンさんは、はつらつとしてました。 「キングダム」の王妃を演じていたと知って、びっくりでした。 ケタ違いのスケールで問う。命か、権力か Netflixドラマ「キングダム」 #263   なんだか辛口になってし

ドラマ「地獄が呼んでいる」#887

不安な気持ちとどう向き合えばいいんだろう。 Netflixオリジナルシリーズ「地獄が呼んでいる」は、突然「地獄の使者」が現われ、 「お前は○日の○時に死ぬ」 と告げられる、というストーリー。 なぜ、自分が? そんな疑問からジタバタしたり、逃げ回ったりするわけですが。この「地獄の使者」が容赦ないんです。ムクムクのタイヤマンみたいな外見なのに。 (画像は韓国経済より) 11月19日にNetflixで配信されるや否や、視聴時間全世界ランキング1位を記録。 「イカゲーム」 によって韓国ドラマに視線が集まっていたところに加えて、 「新 感染 ファイナル・エクスプレス」 のヨン・サンホ監督作品ですもん。期待がいかに大きかったかを感じさせますね。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「地獄が呼んでいる」 https://www.netflix.com/title/81256675 ☆☆☆☆☆ 「地獄の使者」の存在を伝え、これは神の裁きだと主張する宗教団体のリーダー、チョン・ジンスを演じるのはユ・アイン。決して偉ぶらず、淡々としているところが、よけいにオソロシイ。その理由は、第3話で明らかになります。 (画像はNetflixより) 妻を亡くし、ひとりで娘を育てている刑事のチン・ギョンフン役は、ヤン・イクジュンが演じています。チョン・ジンスと対立するロングカットは一番のみどころ。実は即興劇として撮影したそうで、ユ・アインのアドリブにヤン・イクジュンが「反応する」演技をしたのだとか。 (画像はNetflixより) チョン・ジンスの主張に反論し、増大していく宗教団体から人々を守ろうと奔走する弁護士を演じるのは、キム・ヒョンジュ。強さと弱さの交差する瞳が印象的でした。 (画像はNetflixより) 第1話から第3話までは、謎の「地獄の使者」と、それを神の啓示として人々の信頼を集めていくユ・アイン中心に話が展開していきます。第4話から第6話は、別のお話といえるくらい、ガラリと雰囲気が変わります。 子どもを虐待していた母の、恐怖と不安と後悔の混ざった表情はとても胸を打ちました。 のらりくらりとのさばる悪党たちを、法律ではなく私的に復讐するドラマや映画のことを韓国では「サイダー」と呼ぶそうです。 ドラマ 「ヴィンチェンツォ」 や、 「ボイス~112の奇跡~」 、 「悪霊狩猟団:カウンターズ」 は、まさに「サイダー

『こいぬのうんち』#886

「自分はここにいても、いいのかな」 コミュニケーション不全が続くと、人はイライラしたり、焦ったりするのだそうです。その段階を過ぎると、襲われるのが不安な気持ち。 誰にも相手にされていないような不安な状態が続くと、自分の存在価値を自分で認められなくなってしまう。 コミュニケーションによる孤立を防ぐことができないかなと勉強する中で、「話を聞いてもらえない」ことによるストレスについて知りました。 「○○ができるから」 「○○が得意だから」 そんなスキル面ではなく、ただ存在を認めてもらうことができれば、もっと心は自由になれるんじゃないか。 韓国の童話作家クォン・ジョンセンさんの『こいぬのうんち』は、まさにそんな疑問に答えてくれる本です。 ☆☆☆☆☆ 『こいぬのうんち』  (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『こいぬのうんち』は、第1回キリスト教児童文学賞を受賞した作品で、絵本として出版されているのは、1996年に子ども用として書き直されたものなのだとか。 主人公はもちろん、子犬の「うんち」です。 土やニワトリから、「役に立たない」とか「汚い」とか言われてしまう「うんち」。自分なんて誰からも必要とされないんだ……と落ち込んでしまいます。 季節が過ぎ、「うんち」に変化が訪れる瞬間。 大人が読んでもウルウルきちゃうのです。 コミュニケーションの不全とは、そこにいるけどもそこにいないことにされてしまうことです。こんな淋しいことはないでしょう。 生きるとは、人とつながるとは、どういうことなのか。 やわらかい絵と一緒に、心で感じることができる絵本です。 「書店で誰でもサンタになれる」プロジェクト「ブックサンタ」に参加した際、この本を贈りたかったのですが、店頭になかったのであきらめました。 版元には在庫があるようなので、子どもに読み聞かせをしている人に、ぜひ読んでみてほしいです。 こいぬのうんち - 平凡社   「ブックサンタ」は、「厳しい状況に置かれている子どもたちに本を届ける」ことを目標に活動されているそう。子どもたちに贈りたい本を選んで購入し、そのままレジで「寄付します」と言うだけです。 最終受付は、12月24日なので、気になる方はサイトをチェックしてみてください。参加書店のリストもありますよ。 あなたの選んだ本をサンタクロースが全国の子どもたちに届ける「ブックサンタ」〜書店で誰でも

『チョコレート工場の秘密』#885

「書店で誰でもサンタになれる」プロジェクト「ブックサンタ」に今年も参加しました。 あなたの選んだ本をサンタクロースが全国の子どもたちに届ける「ブックサンタ」〜書店で誰でもサンタクロースに〜   「ブックサンタ」は、「厳しい状況に置かれている子どもたちに本を届ける」プロジェクトです。子どもたちに贈りたい本を選んで購入し、そのままレジで「寄付します」と言うだけ。NPO法人チャリティーサンタからプレゼントとして贈ってもらえるそう。 わたしは本との出会い方は、いっぱいあった方がいいと思います。新聞や雑誌に掲載されているプロの書評で興味を持つこともあるし、SNSで目にする書店員さんからのおすすめで購入することもある。 本屋さんのない町で育ったわたしにとって、「本との出会い方」や「本の買い方」が増えたいまの時代は、夢のようだと感じることも。 今年のプレゼントとして選んだロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』も、たしか小学校の図書館で読んだのだったと思います。 ☆☆☆☆☆ 『チョコレート工場の秘密』  (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 世界一のチョコレート工場がある町に住んでいるチャーリー。貧しいけれど、家族みんな仲良しです。ある日、ゴールデンチケットを手に入れて、チョコレート工場に招待されたチャーリーとおじいちゃん。工場主のウィリー・ウォンカが作り上げた世界を体験することになりますが……。 2005年にはティム・バートン監督×ジョニー・デップで映画化もされています。 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) 実はこれとは別に贈りたい絵本があったのですが、店頭になく、版元にもあるかどうか分からないとのこと。じゃあ、どうしよう……と、店内の棚をグルグル回りながら選んだのでした。 これが、ですね。 すごく楽しかったのです!! 自分が贈りたい本を選んでいい。でも、相手がどんな子どもなのかは分からない。そうなると、無難なアレとかコレとか選びたくなっちゃうのですよね。 そんな誘惑を乗り越えて、『チョコレート工場の秘密』 を選んだ理由はただひとつ。 小説を読む ↓ 映画を観る ↓ ジョニー・デップのファンに ってなったら、本を受け取った子どもと、いつか語り合えるかもしれない。そんな未来があるとなると、ちょっと楽しくなりますよね。 『チョコレ

『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』#884

空海(弘法大師)は、日本で一番名前を知られているお坊さんかもしれません。 803年に、遣唐使のひとりとして唐に渡りますが、この時の空海は、まだまったく無名の僧侶だったのだとか。 恵果和尚に師事し、密教の奥義を伝授されたと伝えられています。 行きも帰りも嵐に遭っている空海。 そこでは何が起きていたのか。 夢枕獏さんの『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は、史実を基に想像力の羽を大きく広げた小説です。 ☆☆☆☆☆ 『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『陰陽師』 や 『JAGAE 織田信長伝奇行』 など、史実がベースとなっている小説の中でも、この『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は特別でした。 なんというか、空海がかっこいい! まだまだ「小坊主」クラスであるにも関わらず、密教の真髄を「盗みにきた」と豪語する空海。現代なら「ビッグマウス」と揶揄されてしまいそうなんですが、彼の内から湧き出る自信に圧倒されてしまうんですよね。 当時の長安は世界最大の都市だったそうで、人種的にも文化的にもグローバルな町でした。そんな異国の町で翻弄されつつ、空海は信心を崩さない。 長安の町を襲った怪異に立ち向かう空海&橘逸勢コンビは、さながら安倍晴明&源博雅コンビのようなもの。ナイスな掛け合いも楽しめます。 空海は曼荼羅や密教法具、経典などを日本に持ち帰りました。これを整理して学校をつくり、真言宗を開きます。 高野山総本山のホームページ によると、真言宗の特徴はこちら。 真言宗とは、仏と法界が衆生(しゅじょう)に加えている不可思議な力(加持力・かじりき)を前提とする修法を基本とし、それによって仏(本尊)の智慧をさとり、自分に功徳を積み、衆生を救済し幸せにすること(利他行・りたぎょう)を考える実践的な宗派と言えます。 空海の行動は利己的にも見えるけれど、その奥には彼なりの計算があったのかもしれない。そんな深読みをしながら読むと、さらに楽しめると思います。

『天海の秘宝』#883

伝奇ものの小説を書き継いでいる夢枕獏さん。 『陰陽師』 はじめ、どれもおもしろいんですが、ひとつだけ言いたいことがあるのです。 話を完結させてください!!! 「キマイラ」シリーズなんて、1982年に始まって、まだ終わってないんだもん。まぁ、楽しみは続く、ともいえますがね。 そんな中で、『天海の秘宝』は大長編だけれど、ちゃんと完結している!!!という点で、超おすすめです。 ☆☆☆☆☆ 『天海の秘宝』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 異能のからくり師・堀河吉右衛門と、天才剣士・病葉十三がコンビを組んで、江戸の町に起きる怪異を推理するというストーリー。 初めは小さな事件だったものが、だんだんと大きくなり、ついには一連の出来事が、天海僧正の秘宝に関連していることが分かってきます。 天海僧正とは、徳川家康の側近だった大僧正で、神号や葬儀に関する遺言を預かった人でもあります。あの「あずみ」を導いたお坊さんですね。 (画像リンクです) 江戸の町づくりにも大いに力を発揮し、陰陽道や風水に基づいた都市計画を行ったといわれています。 そんな天海僧正が江戸の町に埋め込んだ秘宝とは……という展開は、ワックワク~なんですが、いかんせん長編なのでおもしろくなるのは下巻からです。 たとえるなら、中村吉右衛門さん演じる「鬼平」に、「ターミネーター」がツッコんできて大暴れ!みたいなお話。こういう奇想天外なものがお好きな方にはたまらん読み物です。 その分、現実主義な方には、わけ分かんないかもしれない。 すべてが理路整然と、ロジカルにできあがっているわけではないんですよね。人間って。

『大江戸火龍改』#882

先月お亡くなりになった中村吉右衛門さんといえば、わたしにとっては「鬼の平蔵」こと長谷川平蔵です。27年もの間、ドラマ「鬼平犯科帳」で長谷川平蔵を演じてこられました。 凜々しい立ち回りに、「火付け盗賊改方、長谷川平蔵である」という一喝の声。しびれるほどのかっこよさでした。 (画像リンクです) わたしはドラマより前に池波正太郎さんの小説で「鬼平」を知りましたが、すっかり吉右衛門さん節のイメージになりました。 理想の上司とは『鬼平犯科帳』#205   火附盗賊改は、いまでいう「警視庁・捜査1課」みたいなお役所です。その裏組織「火龍改」が存在していた……という設定の小説が夢枕獏さんの『大江戸火龍改』。 江戸時代版の晴明か!?と思いきや、もっとどす黒い人間の欲を描いた物語でした。 ☆☆☆☆☆ 『大江戸火龍改』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 主人公の遊斎は、ロン毛の白髪を赤い紐で結んでおり、道服のようなものを着ています。夢枕獏さんの小説では、異界とつながる役目を負った人物は、異形の姿で描かれることが多く、遊斎もそんな妖しさを感じさせます。 お友だちはなんと平賀源内! 部屋には、角のある頭蓋骨とか、西洋から持ち込まれた謎の物体とかがあふれていて、それだけでもワクワクしてしまう。 与力(いまでいう刑事かな)の間宮林太郎や、飴売りで噂好きの土平の力を借りて、「普通ではない」事件を解決していきます。 3本の短編と、1本の長編が収録されているんですが、この長編の「桜怪談」がゾゾッとくるおもしろさでした。 シリーズ化してもおもしろそうな、濃いキャラクター揃い。でも、どちらかというとアニメ化されるといいなと感じます。 そしてこの本には、珍しく政治への憤りを綴ったあとがきが収められているのです。 “静かに、しかし強く、なお強くこみあげてくるもの” 2020年4月時点で69歳の夢枕獏さん。40年以上も小説を書いてきて、いまようやくスタートラインに立てたような気がする、と語っておられます。 この言葉、重く受け止めたい。