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ドラマ「地獄が呼んでいる」#887


不安な気持ちとどう向き合えばいいんだろう。

Netflixオリジナルシリーズ「地獄が呼んでいる」は、突然「地獄の使者」が現われ、

「お前は○日の○時に死ぬ」

と告げられる、というストーリー。

なぜ、自分が?

そんな疑問からジタバタしたり、逃げ回ったりするわけですが。この「地獄の使者」が容赦ないんです。ムクムクのタイヤマンみたいな外見なのに。

(画像は韓国経済より)

11月19日にNetflixで配信されるや否や、視聴時間全世界ランキング1位を記録。「イカゲーム」によって韓国ドラマに視線が集まっていたところに加えて、「新 感染 ファイナル・エクスプレス」のヨン・サンホ監督作品ですもん。期待がいかに大きかったかを感じさせますね。

☆☆☆☆☆

ドラマ「地獄が呼んでいる」

https://www.netflix.com/title/81256675

☆☆☆☆☆

「地獄の使者」の存在を伝え、これは神の裁きだと主張する宗教団体のリーダー、チョン・ジンスを演じるのはユ・アイン。決して偉ぶらず、淡々としているところが、よけいにオソロシイ。その理由は、第3話で明らかになります。

(画像はNetflixより)

妻を亡くし、ひとりで娘を育てている刑事のチン・ギョンフン役は、ヤン・イクジュンが演じています。チョン・ジンスと対立するロングカットは一番のみどころ。実は即興劇として撮影したそうで、ユ・アインのアドリブにヤン・イクジュンが「反応する」演技をしたのだとか。

(画像はNetflixより)

チョン・ジンスの主張に反論し、増大していく宗教団体から人々を守ろうと奔走する弁護士を演じるのは、キム・ヒョンジュ。強さと弱さの交差する瞳が印象的でした。

(画像はNetflixより)

第1話から第3話までは、謎の「地獄の使者」と、それを神の啓示として人々の信頼を集めていくユ・アイン中心に話が展開していきます。第4話から第6話は、別のお話といえるくらい、ガラリと雰囲気が変わります。

子どもを虐待していた母の、恐怖と不安と後悔の混ざった表情はとても胸を打ちました。


のらりくらりとのさばる悪党たちを、法律ではなく私的に復讐するドラマや映画のことを韓国では「サイダー」と呼ぶそうです。

ドラマ「ヴィンチェンツォ」や、「ボイス~112の奇跡~」「悪霊狩猟団:カウンターズ」は、まさに「サイダー」要素満載の私的な復讐のドラマでした。

ですが今年に入って制作されたドラマは、「許し」をテーマにした作品へと変化してきたように感じています。

「地獄が呼んでいる」の場合、一方的に「死の宣告」を受けるため、「悪人なのだ」と世間的にもバッシングを受けることになってしまう。

第3話以降の大衆の狂気は、SNSでの炎上を彷彿させる描写です。

ちなみに、「死の宣告」をする怪物は「天使」と呼ばれていて、CGの本体は映画「パラサイト」で、お金持ち家族の高校生を演じたチョン・ジソちゃんです。

(画像はKMDbより)

コ・ヒョンジョンとシン・ヒョンビンが対立する「あなたに似た人」、イ・ヨンエがこきちゃない探偵を演じた「調査官クギョンイ」など、理不尽に対して請う「許し」は、今後もテーマのひとつとなっていくのかもしれません。

ヨン・サンホ監督とキム・ヒョンジュが、舞台裏を語る映像が公開されています。こちらもぜひ。

「地獄が呼んでいる」は全6話と短いので、長いのが苦手という方でも観やすいと思います。「ターミネーター」を感じさせるラストに、否応なしにシーズン2への期待が高まる構成。

人間の不安はどこに向かうんだろう。


ドラマ「地獄が呼んでいる」全6話(2021年)

監督:ヨン・サンホ

脚本:チェ・ギュソク

原作:ヨン・サンホ、チェ・ギュソク

出演:ユ・アイン、ヤン・イクジュン、パク・ジョンミン、キム・シンロク、パク・ジョンミン、キム・ドユン、イ・レ


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