中学2年のとき、わたしは初めて恋をした。 いま考えると、あれは「恋」といえるほどのものだったのかという気もするけれど、初めて「好きな人」という存在が自分の中に生まれたときだったなと思います。 一度だけ一緒に帰ったことがあったんですよね。自転車に乗っておしゃべりをしながら、運動公園の中をグルグル走りました。家の方向が逆だったので、学校の隣にある公園に向かったのですが、なぜ座って話をしなかったんだろう……。 たぶん、ふたりとも照れ屋だったから、かな。 世の中には、景気のよさに浮かれた気分、将来を信じる力のようなものが漂っていて、でもそんなものは、田舎の中学生にはほとんど関係がありませんでした。 なにより我が家は貧乏でした。 冷蔵庫を開けたら、うどんとラーメンが1玉ずつしかなかったことがありました。他にはマーガリンと、マヨネーズだけ。冷蔵庫の明かりが透明のパネルに反射して、とても明るかった。その光景はいまでもはっきり覚えています。 「あぁ、うちにはお金がないんだ」という事実と、冷蔵庫の中の状態がはっきりと結びついた瞬間でした。 原因は父親です。姿を見るのは、1か月に数回。もちろん「仕事」で不在だったわけではないので、たまに家に帰ってきて母と戦闘態勢に入ると、子どもたちは2階の自室にいるように言われました。ケンカしているところを子どもに見せないという、唯一くらいである母のポリシーには助けられた気がします。それでも母の大きな泣き声は聞こえていたのですが。 学校には仲のよい友だちもいました。友だちとケンカをするのは怖かったので、言いたいことがあってもガマンして飲み込むことが多かったように思います。 高校受験までにはまだ時間があるし、小学生みたいなガキンチョ扱いはされない、でもオトナ扱いはされなくて、宙ぶらりんだったかもしれない。 そんな「中学2年生」の風景を、しみじみと思い出してしまう映画が「はちどり」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「はちどり」 公式サイト: https://animoproduce.co.jp/hachidori/ Amazon: https://amzn.to/3A5RJRc ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1994年、空前の経済成長を迎えた韓国。14歳の少女ウニは、両親や姉兄とソウルの集合団地で暮らしている。学校になじめない彼女は、別の学校に通う親友と悪さをしたり、