終わってしまった……という物語に、続きがあった驚きほど、うれしいものはない。
4巻で完結したと思っていた「活版印刷三日月堂」シリーズに、番外編が登場していました。『活版印刷三日月堂 空色の冊子』は、本編の主人公「弓子」へとバトンが渡る前の、過去の物語です。
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『活版印刷三日月堂 空色の冊子』
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時代や主人公の違う、7つの短編が収められています。
最初は、本編のラストを飾った、西部劇コラムの書籍化のお話。このコラムを書いた映画ライターをはじめ、時間をみつけては活字を拾い、版を組んだ「弓子」のおじいちゃん。若くして妻をなくし、心もなくしてしまった「弓子」の父。「弓子」の母と親しかった旧友。
「三日月堂」に関わる人々が、順番に登場します。「活版印刷」と家族への想いが語られ、ひとつ、またひとつと、バトンが渡されていく。
生業としての「活版印刷」は、いまでは「アート」としてとらえられているようにも感じます。それがいいことなのか悪いことなのかは分からないけれど、「便利」や「効率」だけでは語れないのが、文化なのではないかしらね。
この週末は、東京駅近くにあるビルへと行ってきました。ほしおさなえさんの140字小説を、九ポ堂さんで活版印刷したカードが販売されているんです。活版印刷の、ちょっとだけデコボコした手触りが愛おしくなります。
ほしおさなえさんの140字小説×九ポ堂さんの活版印刷カード。かわいくて、手触りがよくて、ずっとスリスリしちゃう。
— mame3@韓国映画ファン (@yymame33) September 26, 2021
angersにあるもの、全部好みで、全部欲しかったよー😆 pic.twitter.com/HISUZBPMga
いまは「好きなことを仕事に」と語られる時代ですが、作者のほしおさんは、「仕事をすることがすなわち生きることである」と語っています。
映画が好きで、コラムを生きがいとしていたライターが、年と共に干されていったり、活版印刷という業界が先細りしていったり。東日本大震災という大きな損失が招いた、空虚な想いや、愛する人を失った絶望。
心で血を流しながら、それでも人は生きていくから。自分にしかできない「仕事」をみつけて、立ち上がる。
読んでいると、人間の持っている力を信じたくなるんですよね。そして、人と人のつながりを信じたくなる。
ちょっと疲れたな、という時にぴったりの物語です。
「活版印刷三日月堂」シリーズの本編はこちら。
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