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『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』#707


配信サービスが充実してきたおかげで、観たいドラマが増えました。といいつつ、韓国ドラマばかり観てしまうのですけれど。

治部れんげさんの『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』を読んで、久しぶりに他の国のドラマも観てみたくなりました。

韓国、アメリカ、カナダ、デンマーク、そして日本のドラマをジェンダー視点で読み解いた本です。

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『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』
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韓国ドラマから取り上げられているのは、「愛の不時着」「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」「SKYキャッスル」「椿の花咲く頃」、「ミスティ」、「私の名前はキム・サムスン」です。

「私の名前はキム・サムスン」だけちょっと古くて2005年のドラマ。それ以外は2018年から2020年に放送されたドラマです。

治部さんが初めて観た韓国ドラマは、ヒョンビンとハ・ジウォン主演の「シークレット・ガーデン」だったそう。

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ドラマ「シークレット・ガーデン」
(画像リンクです)

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その後、ヒョンビンつながりで「愛の不時着」をおすすめされ、すっかりハマってしまったのだとか。出合いがこのパターンだと、ずいぶん甘ったるいイメージになっちゃうんじゃないかなーと思っておりました。

でも。

ジェンダーの視点で切り取ると、なるほど、こういうおもしろさもありましたね!と思うところがいっぱいでした。

特に「椿の花咲く頃」です。わたしにとっては、ミステリー部分が不完全燃焼だったのですが、たしかに「田舎町で偏見と戦うシングルマザーの物語」としてみると、魅力が120%増しに。もう一度見直したくなりました。


30代の主人公の恋愛に口を出す。子どもの受験戦争に母の方が必死になる。韓国ドラマにとって家族との関係は切っても切れないものです。

一方でアメリカやカナダ、ヨーロッパのドラマが描くのは、個人主義と核家族の世界観。日本のドラマはその中間にあたるのではないか、と指摘されています。

各国のドラマを、社会事情と共に紹介しているので、「次に観たい」を探す格好のガイドブックだと思います。

日経BP社でエンタメ雑誌の記者をされていた治部さんは、かつて短文のドラマ紹介文をたくさん書いたそうです。分かりやすく、単純化したキラーワードや、人気の俳優名が使われることが多いのですが、もっと工夫できるのではと書き比べされていました。

ソン・イェジンとチョン・ヘイン主演のドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」の紹介文として、ありそうなパターンがこちらです。

“ソン・イェジン&チョン・ヘイン主演の純愛ラブストーリー。年上女性が幼なじみの年下男性と恋に落ちる。お互いの家族には内緒のまま愛を深める一方、職場や元彼・家族の問題が立ちはだかる。”

うん、まぁ、そんなドラマですが、ドラマの魅力が半分も伝わってこない。これを治部さんが改善したのがこちら。

“ソン・イェジン&チョン・ヘイン主演の純愛ラブストーリー。幼なじみが恋愛関係に発展する様子を柱に、職場の男尊女卑文化やセクハラ告発、家柄や学歴で人を切り捨てる“毒母問題”を描く”

実際、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」は主人公ふたりの恋愛模様もせつないのですが、それ以上に、ソン・イェジンが、会社でも家でも追い詰められていく姿に心打たれるドラマです。最近の韓国ドラマはジャンルをまたがったものが多いので、紹介文ひとつとっても工夫がいるなーと勉強になりました。


わたしは日本のドラマをほとんど観ていないので、知らないことだらけでした。観ない理由は、一番に俳優の演技力です。そしてのっぺりした画の貧弱さに耐えられなくなったのですが。

Amazonのページに、“人権意識の低い日本のテレビを見られなくなった人たちへの「おススメドラマリスト」”とあって、思わずニヤリとしてしまった。

日本で「強い女」扱いされるキャラクターは、海外ドラマでは「普通」の水準かもしれません。忖度なしの言動は、とても気持ちがいいもの。ドラマは世の中の「いま」を映しつつ、ちょっと先の理想をみせてくれるものだと思います。

さて、わたしも観たいと思えるドラマが、日本にも生まれるかな。


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