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10月, 2021の投稿を表示しています

『ありえないほどうるさいオルゴール店』#841

このお話、好きだーー!!! 瀧羽麻子さんの『ありえないほどうるさいオルゴール店』を読み終えて、思わず叫びました。北の小さな町にあるオルゴール店を舞台にした、7編の連作短編集です。 ☆☆☆☆☆ 『ありえないほどうるさいオルゴール店』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 2007年『うさぎパン』でデビューされた瀧羽麻子さん。いまは兼業作家として活動されているそう。 わたしは『ありえないほどうるさいオルゴール店』で初めて出会った方なんですが、書き込みすぎない余白から生まれる余韻が、たまらなく好きでした。 「あなたの心に流れている音楽が聞こえるんです」というオルゴール店の店主。耳の聞こえない少年、解散の危機にあるバンドメンバー、コンクールで入賞できなかった少女たちの「心の中の音楽」をオルゴールにしてくれるんです。 オーダーは、別の曲なのに、ですよ。 超能力!? と思いながら読んでいて、徐々に秘密が明かされるような、大事なところは「想像にお任せします」と放っておかれるような、その塩梅がとてもよかった。 タイトルには、「ありえないほどうるさい」とありますが、オルゴール店に音楽は流れていません。お客さんがネジを巻いたり、手回ししたりすることで流れるくらいです。 だけど、店主にとっては、世界って本当に「ありえないほどうるさい」のです。 目が見える、耳が聞こえるわたしにとっても、「ありえないほどうるさい」ものは存在するかもしれない。 たとえば、インターネット。 たとえば、噂話。 自分にとって心地よいものだけを、選んで受け取れればどれだけいいか。 わたしの母は右耳が聞こえないため、右側から話しかけると気付いてもらえません。家族にとっては当然なのだけど、知らない人にとっては「え!?」となりますよね。いろいろ誤解されることもあったようですが、補聴器を付けるのをずっと嫌がっていました。 理由は、聞こえすぎるから。 周囲の雑音も、しっかり聞きたい話し声も、同じパワーで伝わるらしいのです。その話を聞いて、人間の耳って小さいのに、すごい能力を持っているのだなと感じたものでした。 人の心に寄り添いたいなら、「ありえないほどうるさい」ものを遮断する術が必要なのでしょうね。 続編の『もどかしいほど静かなオルゴール店』や、他の作品も読んでみたい。あぁ、こういう出会いって本当に幸せです。

『星を掬う』#840

「あたしの人生は、あたしのものだ」 過去の記憶を手放す。同情にNoと言う。誰かの悪意のはけ口にならない。 自分の人生を自分の手にするために、乗り越えることは、なんて多いんだろう。 町田そのこさんの小説『星を掬う』は、登場人物それぞれが、自分の人生を取り戻していく物語です。 痛みと絶望の果てに手にした星のかけらに、慰めをもらいました。 ☆☆☆☆☆ 『星を掬う』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ラジオ番組の賞金ほしさに、母との夏の思い出を投稿した千鶴。ラジオを聞いた恵真という人物から、連絡を受け取るが、彼女は、自分を捨てた母の「娘」だと名乗っていた。元夫の暴力から逃げるため、恵真の住まいに避難することになった千鶴。母・聖子と再会するものの、母は若年性アルツハイマーを患っていた……。 町田そのこさんは、『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞されています。 世界一孤独な52ヘルツの「Help」 『52ヘルツのクジラたち』 #571   この小説が虐待から逃れた少年の物語だったので、ちょっと覚悟していたのですが、『星を掬う』もやっぱりイタかった。 元夫による執拗なDV、支配的な母による抑圧、母に捨てられた娘と、娘に捨てられた母。それぞれに痛みを抱えた人たちが、同居生活を送ることになり、痛みに向き合うことを覚えていきます。 小学3年のとき、氷室冴子さんの作品を読んで小説家になりたいと思ったという町田そのこさん。わたしも「こんな物語を書きたい!」と、セコセコ書いていたことがあったので、すごく共感しました。家事と育児の合間を縫っての執筆って、尊敬しかない。 門司港を舞台に新作 京都郡在住・町田そのこさんが故郷を離れぬ理由   千鶴は、母との気持ちのすれ違いを究極的にこじらせてしまい、ついには人生も崩壊させてしまうんですけど。自分が自分の人生を生きていない。言い訳の材料として母に捨てられたこと、元夫のDVを利用しているんだと気付く辺りは、『嫌われる勇気』を思い出しました。 (画像リンクです) 誰にだって不器用なところはあるはず。それは「親」だって同じ。キレイに取り繕うとするよりも、ちゃんと向き合って話すことで、関係の糸をほぐす手がかりが得られるのかもしれない。 「あたしの人生は、あたしのものだ」 こう宣言することで、心は強くなる。その先に続く道を信じたくな

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠山さんは

映画「幼い依頼人」#838

人の話を“聴く”って、なんて難しいんだろう。 いま、“聴く”トレーニングの勉強をしていて、毎日そう感じています。 「聞くくらい、誰でもできるでしょ」 そう思いますか? 『日本国語大辞典』によると、「聞」と「聴」はこのように区別されています。 聞:音を耳で感じ取る。自然に耳に入ってくる。 聴:聞こうとして聞く。注意してよく聞く。 意識しないでも耳に音が入ってくる状態は「聞く」なんです。誰かと話をする時、上司とミーティングをする時、ほとんどの場面は「聞く」状態ではないでしょうか。 注意してよく耳を傾ける「聴く」は、声として口に出さなかった言葉までも聞き取ろうとすることです。 オトナはよく、「分からなかったら、なんでも聞いてね」と言うけれど、本当に「聴く」ができる人は少ないように思います。 「幼い依頼人」は、少女の話を本当に聴いてくれるオトナがいなかったことから起きた、痛ましい事件を映画化したものです。 ☆☆☆☆☆ 映画「幼い依頼人」 公式サイト http://klockworx-asia.com/irainin/ DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ロースクールを卒業したものの、就職に失敗したジョンヨプ。姉の勧めで児童福祉館に就職し、相談員となる。ある日、継母から虐待を受けている“ダビン”姉弟に出会うが、ソウルの法律事務所への就職が決まり、町を離れることに。しかしその後、出世街道に乗ったジョンヨプの元に、姉のダビンが弟ミンジュンを殺したという知らせが飛び込んできて……。 「私は王である!」や「先生、キム・ボンドゥ」など、コミカルなヒューマンドラマを撮ってきたチャン・ギュソン監督がメガホンを取り、「エクストリーム・ジョブ」で、ひとりだけ捜査に熱心な刑事を演じたイ・ドンフィが主演だったので、少しはお笑いシーンもあるのかと思いきや。 全編にわたってイタかった……。 出世を目指す弁護士ジョンヨプと、虐待されて逃げ込んできた姉弟。やたらとジョンヨプに懐くのには、理由がありました。 「助けて」というメッセージを、大人たちは誰も聞いてくれない。「忙しい」「こんなことで警察にくるなんて」といった言葉を投げつけられ、どんどんとオトナへの信頼を失っていく子どもたち。 なのに、ジョンヨプだけが「間違ってない」と言ってくれたんです

映画「虐待の証明」#837

韓国でも児童虐待は年々増加していて、社会問題化しています。大部分が家庭で起きることから、他人が入り込むのはなかなか難しいことが多いですよね。 そこで韓国では、「駆け込み寺」の役割を果たすコンビニも登場しているそう。 韓国で広がるコンビニの社会貢献…セブンイレブン8千店が児童虐待の「駆け込み寺」に   映画やドラマでも、よく登場する問題です。 二大スターが初共演! 失った娘を取り戻せ 映画「クローゼット」 #539   行方不明の息子を探す母。その心を殺すもの 映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」 #440   親から虐待され、なんとか生き延びた少女が、大人になって自分と同じような少女に出会う。映画「虐待の証明」は、ハン・ジミンが湧き上がる怒りと無力感を、見事に演じています。 茶髪にくわえタバコ、眉間にシワを寄せて、「なんじゃゴラァ~!」ばりににらみつける姿は、これまでの清純派イメージを一新させました。 ☆☆☆☆☆ 映画「虐待の証明」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 母親から虐待を受け施設で育ったペク・サンア。ある日、刑事のジャンソプから、母が孤独死したことを知らされる。荒んだ生活を続けていた時、サンアは夜の街の片隅で震えている少女ジウンと出会う。お腹を空かせたジウンの身体は痣だらけで、誰かに虐待を受けているのは明らかだった。そんなジウンの姿に過去の自分を重ね合わせたサンアは、彼女に手を差し伸べようとするが……。 キム・デスン監督×イ・ビョンホン主演の映画「バンジージャンプする」で映画の仕事に携わるようになったイ・ジウォン監督は、「虐待の証明」が長編デビュー作になります。 映画の最初に「実話を基にしています」と出るんですが、実際にこのような「事件」があったわけではないそう。 イ・ジウォン監督が、隣の家の子どもを見かけた。 その一点だけで、これだけの物語を書き上げたらしくて、よほど印象に残ったのだなと思われます。 (画像は映画.comより) ペク・サンアを演じたハン・ジミンは、第38回韓国映画評論家協会賞や第39回青龍映画賞で、デビュー以来初めてとなる主演女優賞を受賞。茶髪にくわえタバコ、すさんだ雰囲気を全身から発していて、文字通りの転機となった映画でした。 (画像は映画.comより) ただ、これまで

ドキュメンタリー「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」#836

30代後半のアラフォーであるにも関わらず、「25歳の就活生」を演じても違和感のないハン・ジミンさん。透明感のある肌と、クルクルした瞳、泣き顔まで美しい俳優です。 (画像はAmazonより) ドラマ「オールイン」で主人公ソン・ヘギョの子ども時代を演じ、時代劇ドラマの巨匠イ・ビョンフン監督の 「宮廷女官チャングムの誓い」 でイ・ヨンエの親友役を、 「イ・サン」 ではヒロイン役を熱演。一躍トップ俳優に上りつめました。 清純でかわいらしいイメージがありますが、実は酒豪としても有名なのだとか。ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」のクランクアップのお祝いに花束を贈られた際、真ん中に焼酎の瓶が刺さっていたくらいです。 ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」#835   料理研究家のペク・ジョンウォンさんが、毎回異なるゲストを招くトーク番組「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」に出演した時も、クイクイクイクイクイクイと焼酎を飲んでいました。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」 https://www.netflix.com/title/81299230 ☆☆☆☆☆ 毎回のゲスト一覧はこちら。 エピソード1 :絶望の時ソジュがあった   ゲスト:ラッパーのパク・ジェボムとロコ エピソード2 :人と人をつなぐソジュ   ゲスト:俳優のハン・ジミン エピソード3 :はじめまして伝統酒   ゲスト:俳優のイ・ジュンギ エピソード4 :熟していくこと   ゲスト:テレビプロデューサーのナ・ヨンソク エピソード5 :違いがあるからいいんだ!   ゲスト:バレーボール選手のキム・ヨンギョン エピソード6 :あなただけの色を見せて   ゲスト:俳優のキム・ヒエ ペク・ジョンウォンさんは、韓国で最も有名な料理研究家であり、自分でレストランを経営する実業家でもあります。韓国では「愛されおじさん」のひとりなのだとか。 冷麺の歴史を探り、各地の冷麺を食べまくる「冷麺賛歌」もおすすめです。 ドキュメンタリー「冷麺賛歌」#784   「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」は、キム・ヒエさんが好きなので見始めたのですけど、おとなのしっとりした飲みっぷりに見惚れてしまいました。 ハン・ジミンさんがゲストの回は、釜山にあるオープンテラスのお店でカンパ

ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」#835

時を巻き戻せる時計があったら、いつの時代に戻りたいですか? 「時間」はいつも一方通行。イヤでも前に進むしかないものですよね。 だからこそ。 いまを大事に生きなくては。わたしの手には、大切な宝物があるのだから……。 コミカルな調子でスタートしたドラマが訴えかけてくるメッセージに、最後は大泣きしてしまいました。 ポン・ジュノ監督の「母なる証明」で、強烈な母親役を演じたキム・ヘジャと、 「イ・サン」 「ある春の夜に」 のハン・ジミンが、ふたり一役を演じています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」 公式サイト https://www.welovek.jp/mabushikute/ DVD (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 幼い頃、砂浜で時間を巻き戻せる腕時計を拾ったヘジャ。その腕時計を使って時間を戻すと、人より早く成長してしまうことに気づき、封印を決意する。時を経て、 25歳になったヘジャは、アナウンサーを目指すも厳しい現実にぶつかる。ある日、放送部の集いで記者志望のジュナと出会う。お互いに好意を抱くようになるが、ヘジャの父が交通事故で死亡。父を救おうと、不思議な腕時計で時間を戻したヘジャは、70歳のおばあさんに変わってしまう。仕方なく老人としてデイサービスに出かけたヘジャは、そこで演歌を歌い踊るジュナを見てしまい……。 韓国では日本よりもはるかに少子高齢化が進んでいて、2065年には人口のほぼ2人にひとりが高齢者となると予想されています。 「日本を上回るスピードで悪化中」韓国の少子高齢化の知られざる実態 「世界でもっとも老いた国」になる   同時に深刻化しているのが、高齢者の貧困問題。高齢者貧困率は、OECD加盟国の中で最も高いそうで、生活苦から自殺する高齢者の数もOECDの中で1位になっています。 韓国、高齢人口比率高まるが、高齢者貧困率はOECDで最高   自分の生活だってままならないくらいなのに、親の面倒をみて、子どもを大学にやって、となると、ミドル世代の負担は相当なものだといえます。 こうした社会問題を反映したドラマが、ここのところ増えていますね。 70歳のおじいちゃんが、バレエにチャレンジしちゃうというドラマ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」にも、息子が 「いいからおとなしくしててくれ!」 と叫ぶシーンがありました。 ドラマ「

ドラマ「彼女の私生活」#834

最近では、すっかり肯定的な評価を受けるようになった「オタク」。 韓国でも日本語をそのまま使って「오타쿠(オタク)」と呼ばれていましたが、一昔前は日本と同じようにイケテナイ感じだったように思います。 それが、いまでは立派な趣味(?)へと昇格していますよね。 言葉自体も変化して、「오타쿠(オタク)」の「타쿠(タク)」を変形させた「덕후(トク)」という言葉が生まれ、「덕(トク)」だけで「オタク」を意味するようになったそう。 これに、「~すること」という語尾「질(ジル)」をくっつけた「덕질(トクチル)」は、日本でいう「オタ活」みたいなものでしょうか。 仕事中毒と呼ばれ、パーフェクトな仕事ぶりが評価されている、美術館のキュレーター、ソン・ドクミには、秘密の「덕질(トクチル)」があって……という、ラブコメが「彼女の私生活」です。 「キム秘書はいったい、なぜ?」のパク・ミニョンが、今作でもラブリーな姿を見せてくれています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「彼女の私生活」 (画像リンクです) Netflix配信 https://www.netflix.com/title/81205812 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 美術館の主席学芸員として働くソン・ドクミ。仕事中毒と言われるほど仕事熱心だが、プライベートでは熱狂的なアイドルオタク。仕事を終えるとカメラを片手にオタク活動に励んでいた。ある日、上司のオム・ソヘ館長の裏金問題が発覚し、美術館に新しい館長が就任することが決まる。それは海外の競売場で最悪の出会い方をしたライアン・ゴールドだった。 韓国で放送されたtvNのホームページには、 「現代のオタクは、能力者と同義語」 という言葉が載っています。ドクミがまさに!で、有能なキュレーターですが、元画家としてのセンス、編集力、カメラテクニック、調査能力といった能力を発揮するのはオタ活なんです。 宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』を読んだ時、「推しがしんどい」という言葉の意味がやっと理解できたのですけど。 大人のための、“推し”入門小説 『推し、燃ゆ』 #570   「彼女の私生活」では、「推しが尊い」という言葉を実感することになりました。 いやー、マジで尊いな。推しもだけど、推しのためにすべてを捧げるトクチルたちも。 そんな超能力者みたいなパク・ミニョン演じるドクミ。そしてドクミが恋に落ちるライアン・ゴールド

『パークアヴェニューの妻たち』#833

資産10億米ドル以上(約1000億円)の人は、世界中に2189人しかいない。 世界の総人口は、「世界人口白書2021」によると、78億7500万人。上位0.00003%の人だけが「ビリオネア」と呼ばれているんですね。 世界中に2189人しかいない「ビリオネア」は、なぜ全人類6割より財産が多いのか   そんな富裕層の数パーセントが好んで暮らしているのが、ニューヨークの超高級住宅地アッパー・イーストサイドだそう。「SEX and the CITY」でキャリーが住んでいる街という設定でした(実際のアパートメントがあるのはウエストビレッジ)。 (画像リンクです) アッパー・イーストサイドでは、男たちは高学歴で高収入。女たちは最先端のファッションを身にまとい、バーキンを持って歩く……。 子育てのためにそんな街へ引っ越したウェンズデー・マーティンさんが見た、街の姿とは。そしてそこで暮らす“女たち”のリアルとは。 『パークアヴェニューの妻たち』は、マーティンさんの専門であるフィールドワークの知見を生かして観察したエッセイです。 ☆☆☆☆☆ 『パークアヴェニューの妻たち』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 舞台は、パークアヴェニューというサバンナ。過酷な弱肉強食社会、下克上が当たり前のサバイバルの街です。「ウシャーーーッ」という感じで攻撃をしかけてくる女性たちの習性を、ゴリラや猿などの類人猿と比べながら分析しています。 引っ越し当初はママ友もなく、無視されたり、意地悪されたり。毎日がドキドキの大冒険そのもの。 歩道を歩くにしても「カースト」があるようで、一番上の階級となるにはバーキンを手に入れるしかない!!!と奮闘する姿には、ちょっと笑ってしまいました。 街に脅えていたはずが、知らず知らずのうちに、自分も染まっていくのか……。 女性たちが自分の美を守るためにするストイックな行動も驚きでした。人としての温もりを感じさせない“ご近所さん”たちですが、マーティンさんの身に起きた不幸に対しては、親身に寄り添う姿をみせてくれます。 林真理子さんのエッセイに、東京生まれの人はパジャマでコンビニに行けるけど、地方出身者はおめかししてからじゃないとムリ!という話が出てきます。 都会に暮らしてきたといっても、本人にとってはそこが“地元”。「オシャレの街・東京」というイメージの強い地方出身者とは差が生ま

『進む、書籍PR! たくさんの人に読んでほしい本があります』#832

次はどんな本を読もうかな。 そう思った時、わたしは新聞の書評欄や、SNSで本を探すことが多いです。「王様のブランチ」で、編集者の松田哲夫さんがガイドしてくれる「松田チョイス」のコーナーも楽しみに見ていました。 こうした新聞や雑誌、テレビで紹介してもらうために活動しているのが、PRパーソン。『進む、書籍PR! たくさんの人に読んでほしい本があります』の著者である奥村知花さんも、新刊書籍のパブリシティを専門にされている方です。 本との出会い、読んでほしい本が世の中に広がっていく様子に、興奮してしまうお仕事エッセイです。 ☆☆☆☆☆ 『進む、書籍PR! たくさんの人に読んでほしい本があります』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『日本の統計2021』 によると、2019年に、日本では71,903冊の書籍が発売されました。1日に約196冊もの本が世に出ている計算になります。 (出典:総務省統計局『日本の統計2021』 https://www.stat.go.jp/data/nihon/index1.html ) そんな数、全部読めない!!! たぶん、タイトルを追うだけでも大変なことになってしまいます。 そこで奥村さんのような書籍のパブリシティをしている方がガイド役となり、テレビ局などに企画として売り込むわけです。 テレビで紹介されることや、書評欄に取り上げられる効果は絶大だそう。 盛岡にある「さわや書店」で名物店長と呼ばれていた伊藤清彦さんは、乙武洋匡さんの『五体不満足』を読み、テレビで紹介されるタイミングを逆算し、在庫を確保したそうです。 当時、乙武さんは大学生だったので、試験期間が明けた頃に動くだろう……と推理。前もってあちこちに手配をしておいたのだとか。 お客様のために“名物”店長が取り組んできたこと 『盛岡さわや書店奮戦記』 #532   一冊の本を世に出すために必要なのは、著者自身の努力だけではありません。編集者、出版社の営業、書店員、そしてパブリシストたちが一丸となって取り組むんですね。 本への愛情と仕事への熱意に打たれました。 奥村さんは、自分の肩書きを「本しゃべりすと」としているそう。 いいな、この肩書き。