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ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」#835


時を巻き戻せる時計があったら、いつの時代に戻りたいですか?

「時間」はいつも一方通行。イヤでも前に進むしかないものですよね。

だからこそ。

いまを大事に生きなくては。わたしの手には、大切な宝物があるのだから……。

コミカルな調子でスタートしたドラマが訴えかけてくるメッセージに、最後は大泣きしてしまいました。

ポン・ジュノ監督の「母なる証明」で、強烈な母親役を演じたキム・ヘジャと、「イ・サン」「ある春の夜に」のハン・ジミンが、ふたり一役を演じています。

☆☆☆☆☆

ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」

公式サイト

https://www.welovek.jp/mabushikute/

DVD

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
幼い頃、砂浜で時間を巻き戻せる腕時計を拾ったヘジャ。その腕時計を使って時間を戻すと、人より早く成長してしまうことに気づき、封印を決意する。時を経て、 25歳になったヘジャは、アナウンサーを目指すも厳しい現実にぶつかる。ある日、放送部の集いで記者志望のジュナと出会う。お互いに好意を抱くようになるが、ヘジャの父が交通事故で死亡。父を救おうと、不思議な腕時計で時間を戻したヘジャは、70歳のおばあさんに変わってしまう。仕方なく老人としてデイサービスに出かけたヘジャは、そこで演歌を歌い踊るジュナを見てしまい……。


韓国では日本よりもはるかに少子高齢化が進んでいて、2065年には人口のほぼ2人にひとりが高齢者となると予想されています。


同時に深刻化しているのが、高齢者の貧困問題。高齢者貧困率は、OECD加盟国の中で最も高いそうで、生活苦から自殺する高齢者の数もOECDの中で1位になっています。


自分の生活だってままならないくらいなのに、親の面倒をみて、子どもを大学にやって、となると、ミドル世代の負担は相当なものだといえます。

こうした社会問題を反映したドラマが、ここのところ増えていますね。

70歳のおじいちゃんが、バレエにチャレンジしちゃうというドラマ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」にも、息子が

「いいからおとなしくしててくれ!」

と叫ぶシーンがありました。


でも、「高齢者」は、国の政治を民主化し、経済を発展させた世代でもあるわけです。年をとっていきなり「邪魔者」扱いされるんですから、せつないなーと感じてしまいます。

キム・ヘジャさんが演じる“ヘジャ”は、25歳のマインドを持ったまま、70歳のおばあちゃんとして暮らすことになるのですが。

もーとにかく、かわいい。髪型やファッションでみせ、ふとしたしぐさでみせ、やわらかい笑顔でみせる。おきゃんなピチピチ感もあふれている。キム・ヘジャさんの演技力あってのドラマだといえます。

他にも、「スタートアップ:夢の扉」のナム・ジュヒョク、「パラサイト 半地下の家族」の家政婦役で世界デビューを果たしたイ・ジョンウン、おばあちゃんになってしまったヘジャを受け入れられない父にドラマ「ロースクール」のアン・ネサンと、演技派俳優がそろっています。

若返りならぬ、一気に年齢が進んでしまうというSF的なストーリーが、コミカルに展開していく前半部。ラストの2話でガラリと話が反転。ヘジャの時計の謎が明らかになり、家族それぞれにとっての“母”の思い出が語られることになります。

わたしは、ヘジャの母(イ・ジョンウン)の姿が自分とオーバーラップしてしまって、つらいったらなかった。

従来型の家族観を描いているのですが、高齢者を襲う、病やお金の問題をリアルに感じさせるドラマといえます。

いきなり70歳の老人となり、関節の痛みや、シャキシャキ動けないことなど、お年寄り特有の悩みを体感することになったヘジャ。

「あなたたちは、自分がどれほど大事な宝を手にしているか分かってないでしょう?」

年齢が若いということは、身体の自由が利くことであり、未来があるということです。まぶしいくらいの日々を、大切に生きなくては。

失ってからでは遅いのだから。


ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」JTBC 全12話(2019年)

監督:キム・ソギュン

脚本:イ・ナムギュ

出演:キム・ヘジャ、ハン・ジミン、ナム・ジュヒョク、ソン・ホジュン、アン・ネサン、イ・ジョンウン、キム・ヒウォン、キム・ガウン


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