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『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』#696

“音”のサブリミナル効果って、あるんだ!? 脳科学の本を読んでいると、「知りたくなかった!」と思うような、身もふたもない話がけっこう出てきます。 そんな中、おもしろかったのが黒川伊保子さんの『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』でした。タイトル自体、ユニークな“音”を発してますね。ゴジラやガンダムなど、怪獣に濁音が多い理由をはじめ、濁音に迫力を感じ、清音に爽やかさを感じる理由を解き明かしています。 ☆☆☆☆☆ 『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』 https://amzn.to/2TOe7y4 ☆☆☆☆☆ 文章を書くときに、「漢字とひらがなのバランスを考えて、ビジュアルを整えましょう」みたいな話はよくありますよね。 「言葉」と書くか、「ことば」と書くか、「コトバ」と書くかで、ちょっと印象が変わることもあるし。 こうしたビジュアル性についてのセオリーはたくさんあるけれど、音のイメージだけをあぶり出すことはできないだろうか。 それが黒川さんの出発点だったそう。 キャラクターやブランドの名前などは、「音」としても記憶されます。特に、声に出して発音するときの感覚=息と喉、口腔、鼻腔、舌、歯、唇の感覚は、イメージにも影響を与えているのでは……という研究なのです。 たとえば、H音とF音の違いについて。 日本語だとどちらも「は行」の音。発音するときも似ているように感じますが、H音の方が喉の奥をしっかり開けないと発音できないですよね。 はーーーーー ふーーーーー と、発音しながら比べてもらうと分かるかもしれません。 そうしたところから、F音の言葉には「ふんわりと霧散していく非現実感」のイメージが生まれる ↓ ファンタジー、ファン、ファンタスティック といった言葉を、そのまま日本語の「おとぎ話」「愛好家」「感動的」に置き換えてしまうと、だいぶ違う世界な感じがしませんか? ここはやっぱり「F音」の方がいいと感じるところがあるんですよね。 わたしは校正の仕事をしているため、原稿を読むときは言葉の「意味」や「文字」に注目しています。でも、このブログのように自分が何かを書くときは、音読をして「音」にも意識を向けています。 見た目のバランスはもちろんのこと、頭の中に響く「音」としても心地いいものであってほしいなと思うからです。 長く続くブランドの名前を「音の感性」で読み解くと、戦略とかセンスだけでは

『生贄探し 暴走する脳』#695

人間の脳は他人に「正義」の制裁を加えることに、喜びを感じる。 こうして言葉にされると「え……」と言いたくなってしまいます。でも、スポーツイベントや災害、政治的イシューなどに対して一体感が強まっていると、「和」を乱す人を一方的に攻撃する行為が発生するのも事実です。 「誰かが得すると自分は損した気になる」ことも、「集団にとって都合の悪い個体を排除する」ことも、脳の働きなのだそう。 人間の仕組みにとらわれ、制裁の快感に飲み込まれる前に、一度立ち止まって考えてみませんか?という本が、『生贄探し 暴走する脳』。脳科学者の中野信子さんと、マンガ家のヤマザキマリさんの対談です。 ☆☆☆☆☆ 『生贄探し 暴走する脳』 https://amzn.to/3prSqiQ ☆☆☆☆☆ 人間の脳の働きについては、中野信子さんの『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』に詳しいです。 ☆☆☆☆☆ 『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』 https://amzn.to/2TPacRL ☆☆☆☆☆ そして、異質なモノを受け入れる生き方については、ヤマザキマリさんの『たちどまって考える』が参考になります。 ☆☆☆☆☆ 『たちどまって考える』 https://amzn.to/2S7omx4 ☆☆☆☆☆ どちらも新書なので、サラッと読めますが、2冊も読むのはちょっと……という方におすすめなのが、『生贄探し 暴走する脳』。内容がギュギュッとつまっています。 『テルマエ・ロマエ』や『プリニウス 』など、ローマを舞台にしたマンガを描いてこられたヤマザキさんからは、ローマにおける毒親の話や、異文化の受け入れについての話が。これを聞いた中野さんが脳科学的に分析をしています。 ちょっと胸が痛くなるのが、暴君と呼ばれた皇帝ネロの話。ネロの母は完全に支配型の人だったそうで、「よかれと思って」ネロにすることが、すべて自分自身を満足させる方向に向かっていたのだとか。 こうした誰かのための「正義」に酔ってしまうと、痛みを訴える声は、ズルをするための言い訳に変換されてしまうとのこと。 「正義」という概念は、近代に西洋から輸入されたものです。 「正義」って、ヒーローモノによくある「正義の味方」という「弱い者を守る存在」な感覚があったんですけど、どうも違うようで。もともとは、「感情ではなく、作られた法・ルールによっ

『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』#686

日本人は「休み下手」だといわれています。「働き方改革」とはつまり、「休み方改革」といえるのかもしれません。 身体を休ませることはもちろん、メンタルケアのためにも休むことは大切です。すべてに怠惰なわたしだけど、もっと「休み上手」になりたいと思っていました。 4月に社会人デビューした方も、そろそろ疲れがみえてきたころなのではないでしょうか。仕事用のエネルギーと、心のエネルギーの使い方を見直すなら、下園壮太さんの本『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』がおすすめです。 ☆☆☆☆☆ 『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』 https://amzn.to/2R2wvSQ ☆☆☆☆☆ 著者の下園壮太さんは、元・陸上自衛隊心理教官で心理カウンセラーという方です。自衛隊というと、強そうなイメージがありますが、その秘訣は「休み方」にもあるようです。 長期戦を戦うために必要な要素として挙げられているのが、「組織力」と「疲労のコントロール」。特に休むことの大切さは、あまり理解されていないのかもしれないなと感じます。なぜか、「がむしゃらにがんばる」ことが善と考える人が多くて……。 本によると、「ムリ」は4つの面で表われるそう。 ① 体 ② 人間関係 ③ 行動 ④ 心 ムリがどの面に表われても、本人は「ムリ」のせいだと気付きにくいもの。そして、3段階で進行していきます。 第1段階:普通の過労段階 第2段階:別人化の始まり 第3段階:別人化 組織内での人間関係の悪化は、こうした状況を示すシグナルでもあるわけです。 「ムリの防ぎ方」個人編と上司編があるので、チームを持っている方は、ぜひご一読を。また、感情の無駄遣いを止めて、「感情疲労」を避ける方法は、気持ちの浮き沈みに疲れちゃう、という方にもおすすめです。 今週は、新人たちのフォローアップ研修を実施しました。予想どおりではあったのですが、がんばり方に試行錯誤した2か月間だったようです。研修で話すことなんて、なかなか腹落ちしないもんだなとしんみり……。努力と結果がイコールとならない「仕事」という世界の洗礼にアップアップしたメンバーもいました。そして。 「ゴールデンウイーク中、何をすればいいのか分からなかった」 という声も……。 はぁ。もっと「休み上手」になりたい。

『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』#664

「料理研究家論」とはつまり、テクノロジーの進化とフェミニズムの歴史そのものなのですね。阿古真理さんの『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』には、それぞれの時代における料理哲学が見えました。 ローストビーフや肉じゃがのレシピを定点観測した比較も。 ☆☆☆☆☆ 『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』 https://amzn.to/3ylwNVR ☆☆☆☆☆ まずは“料理”に関する肩書きの多いことにビックリ! 料理研究家、料理評論家、フードライター、フードコーディネーター、レストラン評論家などなど。スイーツ評論家なんてものもありました。 阿古真理さんの『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』は、タイトルどおりテレビ放送が始まった時代から、料理番組を持ち、料理教室を開き、レシピを開発してきた「料理研究家」の立ち位置と、変化を追ったノンフィクションです。 歴代の研究家の哲学には、生活への想いがあふれていました。「料理研究家論」とはつまり、テクノロジーの進化とフェミニズムの歴史そのものだといえます。だからこれだけ「肩書き」が増えていったのかも。 1950年代後半、「三種の神器」と呼ばれる家電3品目が普及したにもかかわらず、1960年代に行われた調査で女性の家事時間は減っていないことが判明。その理由として、家庭料理のハードルが上がったことが指摘されています。 フェミニストの上野千鶴子さんは家事労働を「愛という名の労働」だとして、「主婦」という身分が誕生して以降、「家事労働」が発明されたと指摘。 高水準の「労働」が求められるようになった結果、「料理が苦手」「めんどくさい」と感じる層も増加傾向に。そうした意識を持つ人たちに向けて、料理研究家たちはどのようなメッセージを発してきたのか。膨大な書籍や雑誌資料を基にていねいに追いかけています。 ローストビーフや肉じゃがのレシピを定点観測した比較もおもしろい。部位は? 出汁は? といった視点から、時代時代で大切と考えられていたことが透けて見えるのです。 昭和のはじめに料理研究家と呼ばれていた人たちは、生まれ自体がセレブ階級。そのため、本場の西洋料理に触れることができた人たちでした。 その後、活躍を始めた城戸崎愛さんや小林カツ代さんは、家庭の料理を発展させる形で「料理家」としても活躍するようになった方たちです。わた

『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』#641

チームを任される立場になると、新たな悩みが増えてきます。 頼んだことができていない。 みんなバラバラで統一感がない。 こんな時、下手な言い方をして「パワハラだ!」と言われたら困るし、関係が悪くなってしまったらどうしようと心配する方もいますよね。 最近では「コーチング」に注目が集まっていますが、わたしは「ティーチング」が必要な場面と、「コーチング」の方がよい場面とで分けて考えた方がいいのではないかと思っていました。 中原淳さんの『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』は、その辺りの考えの補強ができ、とてもありがたい本でした。 ☆☆☆☆☆ 『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』 https://amzn.to/3i2WLHR ☆☆☆☆☆ 「フィードバック」は、なぜ必要なのか。 ひと言で言うと、相手の成長のためです。どんなに厳しいことでも、言いにくいことでも、それが相手の成長に必要なのであれば伝えるのがマネジャーの役目。 そして、どんなに「いいこと」を言われても、納得がなければ相手の行動が変わることはありません。 効果的なフィードバックの方法はふたつ。 1. 情報通知 :いわゆるティーチング パフォーマンスに対して、理想と現実のギャップを把握することが目的です。 2. 立て直し :いわゆるコーチング 自らの行動を振り返り、今後の行動計画をたてる支援をします。 現役マネジャー3人によるフィードバック事例も、マネジャー自身の不安と迷いの声が聞けてよかったです。 先日、富士通が「優秀なマネジャー像」を解明したとニュースになっていました。 富士通が「優秀なマネジャー像」を解明!2400人の人事データ調査で https://diamond.jp/articles/-/265174 上の記事によると、高い成果を上げているマネジャーはコーチング型のマネジャーだったのだそう。しかも持続性もあるとのことでした。 いまはまだ上意下達の体育会系マネジャーが多いのかもしれませんが(自分たちがそう育っているので)、長期的な成長は常に視野に入れておきたいところ。その手助けとなる一冊です。

『ディズニーの魔法のおそうじ』#640

オフィスの掃除タイムって盛り上がらないんですよね。掃除なんかするより、クライアントへのメールを片付けたい!と考えてしまうから、でしょうか。 『ディズニーの魔法のおそうじ』によると、ディズニーで行われる掃除の目的は、清掃そのものではないのだそうです。掃除は、「ゲストの安全のため」に行われるもの。 ☆☆☆☆☆ 『ディズニーの魔法のおそうじ』 https://amzn.to/2RPz0II ☆☆☆☆☆ 汚れる前にベンチを拭くのは、汚れてから掃除するより効率的だからですが、それ以上に、ベンチの周囲に不審物がないか、木のささくれで怪我しないかといったことを確認するためなのです。そして、掃除自体もエンタメとして実施するため、人気職とのこと。 著者の安孫子薫さんは、東京ディズニーランドの開園時にカストーディアル(掃除担当の部署)を担当され、部長まで勤められた方です。 本を読んでマネしたいなーと思ったところは、「マニュアルはガイドラインであって、絶対ではない」という点です。いいアイディアがあればどんどん取り入れるし、提案もできる。 ディズニー流の魔法をオフィスで取り入れて、この辺りに取り組んでいました。 ・ケーブルがとぐろを巻いていていいのか ・入り口に段ボールが放置されていていいのか お恥ずかしい状態ですが、オフィスでの「幸福感」アップを目指して、ひとつずつ意識改革を進めたい。そのヒントをもらえる本です。

書きたい人も、読みたい人も手に取りたい超一級のブックガイド 『書きたい人のためのミステリ入門』 #536

英語の「mystery」の語源は、ギリシャ語の「ミュステーリオン(μυστήριον)」です。理解不可能なものや、秘密を意味し、それが古代ギリシアや古代ローマの秘密の儀式を指すようになったのだとか。 奇妙な出来事や理解不可能な出来事に引きつけられてしまう。そしてその謎を解明していく様子に、ハラハラドキドキする。 “秘密”を語源とする「ミステリ小説」は、まさしく“秘密”に魅せられる小説でもあります。 大好きなジャンルなので、それなりに読んでいる方でしたが、新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』を読んだら、知らない本がいっぱい! この本はちょっとヤバい。今すぐミステリを読みたくなる!!! タイトルには「書きたい人のための」とありますが、「読みたい人のための」超一級のブックガイドでもあります。 ☆☆☆☆☆ 『書きたい人のためのミステリ入門』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ ミステリにおける「三種の神器」とは。 ・謎 ・伏線 ・論理的解決 謎がなければ、そもそもミステリにはならないし、「お前が犯人だ!」と言われて「誰やねん!?」となったのでは意味が分からない。「三種の神器」がうまくかみ合ってこそ、ミステリ小説として成立するのです。 初めての推理小説と言われているのは、1841年に発表されたエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人事件』です。「三種の神器」はこの小説から始まっているそう。 (画像リンクです) ミステリは、まずはフーダニット(犯人は誰か)の小説がたくさん書かれ、そこからハウダニット(どうして・どうやって)、ホワイダニット(なぜそんなことをしたのか)へと発展していきます。 わたしがあまり心引かれなかったのはハウダニットの小説で、フーダニットやホワイダニットが好きだったんだなーと読みながら気がつきました。 「ために」設定されたトリックの小説を読んでしまったせいかもしれません。でも、この本を読んで、あらためてハウダニットの名作にもチャレンジしてみたくなりました。 数々のミステリ作品が紹介されますが、ネタバレはほぼなし。地の文の重要性や視点のもつ意味、世界観や人を描くということといった、小説創作に必要な事柄が解説されています。 なぜそんなことができるのかというと、著者の新井さんは長年、新人賞の下読みを担当されてきたから。初心者が陥りがちなポイントを知り抜いた上

字幕文化へのプライドを感じる『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』 #82

高村光太郎の詩「道程」には、一篇の詩と、第一詩集に収められているもの、ふたつのバージョンがあるそうです。どちらかというと、わたしは詩集版の長い詩の方が好きです。 “どこかに通じてる大道を僕は步いてゐるのぢやない 僕の前に道はない 僕の後ろに道は出來る 道は僕のふみしだいて來た足あとだ だから 道の最端にいつでも僕は立つてゐる 何といふ曲りくねり 迷ひまよつた道だらう 自墮落に消え滅びかけたあの道 絶望に閉ぢ込められたあの道 幼い苦惱にもみつぶされたあの道 ふり返つてみると 自分の道は戰慄に値ひする (略)” 今日は引き続き、字幕翻訳家の太田直子さんの本を紹介しようとしているのですが、字幕翻訳家は、「これをやれば必ずなれます。稼げます」という道がありません。 いまでこそ、専門学校や講座なんかがありますが、卒業してしまえば、再びワナビー。デビューの糸口をつかむことほど、難しいことはありません。高村の詩は、そんな先人たちの気負いと嘆きが詰まっているように感じます。 ロシア文学にほれ込んだ太田さんの道も、平坦ではありませんでした。エピローグに収録されている、「字幕屋Nが出来るまで」はおすすめ。 夢破れても、なんかある。その辺の土でもつかんでこい!(安藤百福の言葉)といわんばかりの気迫に、うっかりウルッとしてしまいました。 ☆☆☆☆☆ 『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』 https://amzn.to/3vKgPBU ☆☆☆☆☆ そもそもこの本を読もうと思ったのは、字幕制作の過程が細かく紹介されているからです。 ハコ書き ↓ スポッティング ↓ 翻訳 ↓ 推敲 ↓ 初号試写 こうした字幕付き映画制作の一連の流れがよく分かる構成です。縦書き・横書き原稿の写真もあり、リアルな現場が見えます。 日本の映画字幕は、世界一と言われているそう。翻訳のクオリティ、タイミングの妙、どれもがすばらしく練り上げられているんですね。 ところが、こうした技は、人間の職人が積み上げてきた、非常に繊細な技術なんです。それが、ソフトで再現できるのだろうか?と、疑問を呈されています。 わたしが仕事をしていた翻訳事務所は、まさにそのソフトを使って制作していました。笑 このソフト、めちゃくちゃ高いんです。なので、翻訳会社のトライアルを受けようとすると、「ソフト所有の有無」を聞かれることが多いです。 ソフト持っている

『小説の言葉尻をとらえてみた』#76

校正の仕事をしていると、間違いなのか、造語なのか、判断に迷うことがあります。それも、しょっちゅう。 若手のライターは語彙が少ないこともあって、無邪気に自由に書き綴ることが多い。それはそれでいいんだけれど、日本語としての美しさが壊れていく現場にいるような思いを抱くことも。 『三省堂国語辞典』編集委員である飯間浩明さんは、新しい言葉の使い方に出合う瞬間をとても楽しんでおられるようで、心から尊敬しました。 『小説の言葉尻をとらえてみた』は、そんな小説と新しい言葉の出合いを綴った本です。 ☆☆☆☆☆ 『小説の言葉尻をとらえてみた』 https://amzn.to/2RTvhty ☆☆☆☆☆ エンタメ、ホラー、時代小説の“現場”に、飯間さん自身が潜入。登場人物の何気ないひと言を拾い上げ、解説がなされます。そのおもしろさといったら! 「ご苦労さまでした」 ビジネスマナーとしては、この言葉は「目上」の人に使えませんと教えることが多いんですよね。でも、それって本当にそうなのか? ねぎらいの言葉として使える表現はないの? そんな疑問に答えてくれます。 わたしは「真逆」という言葉に抵抗がある方なのですが、やはり歴史の浅い言葉でした。広まったのは21世紀になってから、とされています。飯間さん自身、目にしたものの、読み方がずっと分からなかったのだとか。 一方で、舞台となっている時代に存在しない言葉が登場することを、おもしろがってもおられます。 言葉は生き物です。時代や環境に合わせて変化していくものだと思います。飯間さんは辞書の編集委員として、新しい語、新しい使い方に興味津々で、(それって単なる誤字では……)と思うような言葉も、ドーーーンと受け止める。 ああ、なんて懐の深い方なんだろう。 小説の楽しみ方のひとつとして、言葉の森を行く手引きとして、何度も味わえる探検物語なのです。 飯間さんの本では、『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』もおすすめです。 『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』#6  

『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』#6

校閲者のお仕事本シリーズ。本日は飯間浩明さんの『ことばから誤解が生まれる - 「伝わらない日本語」見本帳』です。 ☆☆☆☆☆ 『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』 https://amzn.to/2Spc0k5 ☆☆☆☆☆ 著者の飯間さんは国語辞典編纂者です。最初に「言葉によって誤解が生まれる事態は避けられない」とキッパリ宣言。でも誤解されないようにすることはできるはず。だから言葉を上手に扱いましょうと、音声・文法・語義など7テーマに分けて言葉を分析・解説しています。 日本語は同音異義語が多いので、ちょっと使い方を間違うと一気に関係を壊してしまいそう。でも、これをポジティブに考えると、「誤解が生まれる元を知っておけば、気持ちのいいコミュニケーションがとれる」ということ。 なかでも、何気ない使い分けでニュアンスが大きく変わってしまう助詞の項目がおすすめです。 a「グラスに酒が半分はある」 b「グラスに酒が半分もある」 c「グラスに酒が半分しかない」 d「グラスに酒が半分だけある」 事実はひとつなのに、心象を反映してニュアンスが変わっていますよね。変えているのは、助詞です。 よく冗談で言われる「今日 は きれいね」も同じです。「は」は他のものと区別するニュアンスを持つので、「 (いつもと違って) 今日 は きれいね」と聞こえてしまう。いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんですよーと弁解する前に、「 (いつもきれいだけど) 今日 も きれいね」と、意識して助詞を選択できるようになりたいですね。 言葉には多義性があるので、この言い方は間違い、この使い方はNGと切り捨てないのが飯間さんのスタンスです。 飯間さんのこういう姿勢がわたしは好きなんです。 “あることばを、自分がいくら「正しい」意味で使おうとしても、相手も同様にその意味で使っているとは限りません。(中略)「これが正しい意味だ」と、みんなが納得できる規範は、結局、どこにもありません。” 「口は災いの元(門)」「もの言へば唇寒し秋の風」などなど、日本は言葉にしないことをよしとしてきたようですが、いまの時代、そんなわけにはいきません。おまけに「沈黙」していたって誤解は生じます。 「誤解」とは、「情報処理の誤り」です。この本にあるような知識があれば、思い込みで人を断罪するような解釈はなくなるのかなと感