子どもの頃、なりたかった職業のひとつが「小説家」でした。自分でも創作をして、絵が得意な友だちにマンガを描いてもらって、クラスで回し読みしたりしていたんですよね。 大人になってからもほんのりとした気持ちは持っていたけれど、夢枕獏さんの『陰陽師』を読んで、スッパリとあきらめました。わたしにはこんな物語は書けないと思ったから。 闇が闇としてあり、人も、鬼も、もののけも、共に存在していた時代。人の心は、ほんの小さな揺れで暗がりに落ちてしまう。取り込まれてしまう。闇への畏れと、人間の業。悲しみとはかなさの中に描き出される、生きることの意味を感じて、おののいたのでした。 ☆☆☆☆☆ 『陰陽師』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 陰陽師とは、平安時代にあった官職のひとつです。陰陽五行思想に基づいた陰陽道によって占筮(せんぜい)や地相などを占う技官でした。陰陽五行思想をものすごーく大雑把にいうと、古代中国から伝来した学問で、天武天皇はその道に長けた人だったそう。 平安時代、陰陽道は国家機密とされていて、政治利用もされていたようです。『陰陽師』は、そんな陰陽師・安倍晴明の活躍を描いた小説。現在、41冊のシリーズが刊行されています。 祝・35年! 2年半ぶりの最新刊『陰陽師 水龍ノ巻』夢枕 獏「陰陽師」シリーズ | | 特設サイト 式神や人形(かたしろ)といった使役のための小道具や、呪符など、神秘的な世界もありつつ、なにより魅了されたのは、晴明と、その親友源博雅とのやり取りです。 酒を酌み交わしつつ、草ボウボウの庭を眺めながら、世情について、人生について、死について、呪(しゅ)について、語り合うふたり。 物語の冒頭は、だいたい博雅が宮廷の噂話や、やっかいごとなどを持ち込んで、「ほぉ、それはあれだな」と晴明が言い、ナゾの解明に乗り出す、というパターン。晴明と博雅は、いってみれば探偵ホームズとワトソンくんのようなコンビなのです。 岡野玲子さんの漫画版は、小説の漫画化というよりも、陰陽師として生きる者の性を感じるストーリーになっています。 (画像リンクです) ファンによる人気のストーリー投票も行われています。上の公式サイトには夢枕獏さんが選ぶベスト11が。この中にある「鬼小町」「鉄輪」は、わたしも大好きな一篇です。 好きな人と思いを遂げられれば、それで「幸せ」なのだろうか。もし思いが届