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『天海の秘宝』#883

伝奇ものの小説を書き継いでいる夢枕獏さん。 『陰陽師』 はじめ、どれもおもしろいんですが、ひとつだけ言いたいことがあるのです。 話を完結させてください!!! 「キマイラ」シリーズなんて、1982年に始まって、まだ終わってないんだもん。まぁ、楽しみは続く、ともいえますがね。 そんな中で、『天海の秘宝』は大長編だけれど、ちゃんと完結している!!!という点で、超おすすめです。 ☆☆☆☆☆ 『天海の秘宝』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 異能のからくり師・堀河吉右衛門と、天才剣士・病葉十三がコンビを組んで、江戸の町に起きる怪異を推理するというストーリー。 初めは小さな事件だったものが、だんだんと大きくなり、ついには一連の出来事が、天海僧正の秘宝に関連していることが分かってきます。 天海僧正とは、徳川家康の側近だった大僧正で、神号や葬儀に関する遺言を預かった人でもあります。あの「あずみ」を導いたお坊さんですね。 (画像リンクです) 江戸の町づくりにも大いに力を発揮し、陰陽道や風水に基づいた都市計画を行ったといわれています。 そんな天海僧正が江戸の町に埋め込んだ秘宝とは……という展開は、ワックワク~なんですが、いかんせん長編なのでおもしろくなるのは下巻からです。 たとえるなら、中村吉右衛門さん演じる「鬼平」に、「ターミネーター」がツッコんできて大暴れ!みたいなお話。こういう奇想天外なものがお好きな方にはたまらん読み物です。 その分、現実主義な方には、わけ分かんないかもしれない。 すべてが理路整然と、ロジカルにできあがっているわけではないんですよね。人間って。

『大江戸火龍改』#882

先月お亡くなりになった中村吉右衛門さんといえば、わたしにとっては「鬼の平蔵」こと長谷川平蔵です。27年もの間、ドラマ「鬼平犯科帳」で長谷川平蔵を演じてこられました。 凜々しい立ち回りに、「火付け盗賊改方、長谷川平蔵である」という一喝の声。しびれるほどのかっこよさでした。 (画像リンクです) わたしはドラマより前に池波正太郎さんの小説で「鬼平」を知りましたが、すっかり吉右衛門さん節のイメージになりました。 理想の上司とは『鬼平犯科帳』#205   火附盗賊改は、いまでいう「警視庁・捜査1課」みたいなお役所です。その裏組織「火龍改」が存在していた……という設定の小説が夢枕獏さんの『大江戸火龍改』。 江戸時代版の晴明か!?と思いきや、もっとどす黒い人間の欲を描いた物語でした。 ☆☆☆☆☆ 『大江戸火龍改』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 主人公の遊斎は、ロン毛の白髪を赤い紐で結んでおり、道服のようなものを着ています。夢枕獏さんの小説では、異界とつながる役目を負った人物は、異形の姿で描かれることが多く、遊斎もそんな妖しさを感じさせます。 お友だちはなんと平賀源内! 部屋には、角のある頭蓋骨とか、西洋から持ち込まれた謎の物体とかがあふれていて、それだけでもワクワクしてしまう。 与力(いまでいう刑事かな)の間宮林太郎や、飴売りで噂好きの土平の力を借りて、「普通ではない」事件を解決していきます。 3本の短編と、1本の長編が収録されているんですが、この長編の「桜怪談」がゾゾッとくるおもしろさでした。 シリーズ化してもおもしろそうな、濃いキャラクター揃い。でも、どちらかというとアニメ化されるといいなと感じます。 そしてこの本には、珍しく政治への憤りを綴ったあとがきが収められているのです。 “静かに、しかし強く、なお強くこみあげてくるもの” 2020年4月時点で69歳の夢枕獏さん。40年以上も小説を書いてきて、いまようやくスタートラインに立てたような気がする、と語っておられます。 この言葉、重く受け止めたい。

『時の娘』#871

リチャード3世=悪いヤツ!と思っていたわたしにとって、ジョセフィン・テイ『時の娘』は、衝撃的でした。 「安楽椅子探偵」の傑作のひとつといわれているミステリーで、新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』でも紹介されていました。 書きたい人も、読みたい人も手に取りたい超一級のブックガイド 『書きたい人のためのミステリ入門』 #536   テューダー朝の敵役として描かれたシェイクスピアの戯曲「リチャード3世」では、醜悪な容貌を持ち、狡猾な人間とされていました。いまでいう「こじらせ中年」みたいなオッサンです。 (画像リンクです) これを映画化したのがローレンス・オリヴィエが演じた「リチャード三世」。 (画像リンクです) また、舞台化するプロセスをドキュメンタリー映画にした、アル・パチーノ主演・監督の「リチャードを探して」という作品もあります。最後の名セリフ「馬をくれ、馬を! 代わりに我が王国をくれてやる」が効いていました。 (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) このように、「リチャード3世=悪いヤツ!」は既定路線として定着している状況です。 でも、リチャードの肖像画を見たアラン・グラント警部は、ふと疑問に思うのです。 「これははたして、悪人の顔だろうか?」 犯人を追跡中に足を骨折して入院中のグラント警部。アメリカ出身の歴史研究者ブレント・キャラダインという助手を得て、数々の資料を取り寄せ、推理を展開していきます。 さて、その結末やいかに。 ☆☆☆☆☆ 『時の娘』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 1452年に生まれたリチャード3世は、ヨーク王朝最後のイングランド王です。政権闘争に明け暮れた半生を送ったようですが、兄であるエドワード4世が亡くなった後、息子の王子ふたりをロンドン塔に幽閉し、殺害したのではと疑われていました。 小説では、この言い伝えが本当なのかが焦点になります。 貴族のパーティー参加者を調べたり、財産目録の動きを調べたり。リチャードが「甥を殺す必然性があったのか」を調べていたグラント警部とキャラダインは、思わぬ事実を発見するのです。 タイトルの『時の娘』とは、「真実」の意味だそう。時が経てば明らかになる、というですね。 「安楽椅子」ならぬ、「ベッド」の上の探偵による、名推理。 リチャード3世が、醜悪で狡猾な「こじらせ中年」として

『黒牢城』#870

この設定には、やられた!しかない!! ミステリのジャンルのひとつに、「安楽椅子探偵」というものがあります。 特徴としては、 ・現場に行かない ・外から与えられた情報のみで推理する ことがあるそう。 新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』でも、このジャンルの小説がいくつか紹介されていました。 書きたい人も、読みたい人も手に取りたい超一級のブックガイド 『書きたい人のためのミステリ入門』 #536   米澤穂信さんの時代小説『黒牢城』が、まさにこのジャンルの醍醐味を詰め込んだものでした。ただし、“探偵”は、「安楽椅子」に座っているのではなく、「牢屋」に閉じ込められているのですけど。 天才軍師と呼ばれ、織田信長や豊臣秀吉に仕えた知将・黒田官兵衛が、“探偵”。 牢屋にいる官兵衛に「やっかいごと」を相談に行くのは、官兵衛を捕らえた張本人の荒木村重。 一年近くに及んだ籠城戦の裏側で、「牢屋探偵」が活躍していたとは……。設定だけでも十分におもしろいでしょ。 ☆☆☆☆☆ 米澤穂信『黒牢城』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 黒田官兵衛という武将については、岡田准一さん主演の大河ドラマ「軍師官兵衛」があったので、ご存じの方も多いかもしれません。 (画像リンクです) 本能寺の変の後、秀吉を説得して光秀を討つよう進言したり、姫路城や大坂城、福岡城といった名城を築城したりと、知略に富んだ人物です。「天下を狙った野心家」といわれていて、秀吉は彼が謀反を起こさないよう、わざと石高を低くしておいたのだとか。 現代なら、さっさと転職しちゃいそうですが……。 荒木村重が織田信長に対して謀反を起こし、有岡城に籠城した際、説得に行った官兵衛は、逆に幽閉されてしまうんです。地下にある土牢で一年ほど過ごしていたそう。 わたしはむかーしにマンガで「黒田官兵衛」という名前を知りました。なんというタイトルだったのか、いろいろ検索してみたのですけど、どうしても思い出せない……。風がどうこうだったような気がする。 このマンガの中の官兵衛は、やさしくて(当然イケメン)、頭が切れる(イヤミな感じはなく)男でした。ラストシーンが、土牢に幽閉された官兵衛を救うところだったので、官兵衛のために動いていた“外側”の人たちの物語だったのではなかったか、と思います。 でも、『黒牢城』で描かれる官兵衛はというと、知力を鼻にかけ

映画「8番目の男」#866

韓国初の陪審員裁判を描いた映画「8番目の男」。もちろん、裁判映画の名作「十二人の怒れる男」へのオマージュもたっぷり捧げられながら、いかにも韓国らしい姿が込められた作品でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「8番目の男」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国の歴史上初めて国民が参加する裁判が開かれる日がやってきた。全国民注目の中、年齢も職業も異なる8人の一般市民が陪審員団として選定された。彼らが扱うこととなったのは、すでに証拠、証言、自白が揃った明白な殺害事件だった。8人の役目は刑を量定するだけのはずが、被告人がいきなり嫌疑を否認したため、陪審員たちは急きょ有罪無罪の決断を迫られることになってしまう。 韓国では、2008年に国民参与裁判=陪審員裁判制度が導入されました。その初の裁判が舞台ですが、ホン・スンワン監督はあえて実話から距離を置くように脚色したそう。 裁判ドラマって、難しい法律用語が連発するし、動きがないから退屈なものになりかねません。ドラマ「ロースクール」も、キム・ミョンミンのマシンガントークがなければ、凡庸なものになっていたかもしれいなーと思います。 ドラマ「ロースクール」#713   映画「8番目の男」の場合は、ベースが「十二人の怒れる男」なので、まぁ展開は読めてしまうのですよね。 期待するところは、陪審員8号である「8番目の男」が、どれだけ混ぜっ返してくれるか、というところでしょうか。演じるパク・ヒョンシクは、アイドルグループ「ZE:A」のメンバーで、これが長編映画デビュー作です。 ホン・スンワン監督もこれが長編デビューなようで、周囲のベテランたちがガッチリ話を引っ張っていってくれる感じが楽しめます。 プロ目線と素人の発想。コミカルに振ったら、しっかりと押さえにかかる。このバランスがとても楽しめました。 わたしは裁判官のキム・ジュンギョムを演じたムン・ソリという俳優が大好きで、この映画を見始めたのですけれど。 初の陪審員裁判を担当するのが、“女性”判事ということで、あちこちから圧力がかかるんです。あぁ、こんな役をムン・ソリがやるなんて……と、せつない想いでいっぱいになりました。 ムン・ソリは、イ・チャンドン監督の映画「オアシス」で、第59回ヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人

『フェイク・インフルエンサー』#854

いまやネットのない生活なんて考えられないけど、ネットには負の側面もあることを、誰しも感じているのではないでしょうか。 白烏あずささんのデビュー小説『フェイク・インフルエンサー』は、SNSを活用して成功をつかもうとしているガールズバンドのボーカルが主人公です。 Instagramならぬ「メテオ」というSNSでフォロワーを増やし、YouTubeでPVを配信し、ライブで魅了する。レコード会社との契約を目前に控えたところで、暴露されてしまうんです。 隠しておきたかった過去を。 それからの総叩きは、読んでいて苦しくなるほどでした。 『フェイク・インフルエンサー』は、SNSを舞台にしたミステリー小説です。 ☆☆☆☆☆ 『フェイク・インフルエンサー』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 女子大生バンドでメインボーカルを担当する叶多は、戦略的にSNSへ投稿し、着実にファンを増やしていた。ある日、ネットニュースに叶多の過去についての暴露記事が流される。裏アカで公開した写真が元ネタだと知った叶多は、犯人がバンドメンバー内にいると確信。犯人捜しを始めようとしたとたん、メンバーが殺されてしまう。プロデューサーを迎えて再出発を図るが、第二の殺人が起こり……。 白烏あずささんはこれがデビュー作とのことですが、全然情報がない……。とにかくライブシーンの迫力がピカイチなんですよ。だからきっと、バンドか音楽をやっている方ではないかと思って探していたら、小説に登場するバンドCL⇌ROWNをイメージした曲が配信されていました。 私の著書に登場するバンド・CL⇌ROWNをイメージして曲を作りました。 イラストは @Naju0517 さん 使用のご快諾ありがとうございます 是非聴いてみてください フェイク・インフルエンサー feat.初音ミク https://t.co/10QMLVz7Lx #sm39540410 YouTube https://t.co/CYuUogbKTr pic.twitter.com/dYxdiXdiau — 白烏あずさ@フェイク・インフルエンサー著 (@hakuaazusa) October 27, 2021 小説からのイメージは、矢沢あいさんのマンガ『NANA』な感じだったんだけど、もっと電子っぽかった。初音ミクが歌っているせいかな。 (画像リンクです) 現在

映画「カエル少年失踪殺人事件」#780

韓国映画は、自分たちの社会や歴史の暗部をドラマ化するのが、本当にうまい。 ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」や、パク・ジンピョ監督の「あいつの声」は、未解決事件を、チャン・ジュナン監督の 「1987、ある闘いの真実」 や、カン・ウソク監督の「シルミド」などは、葬り去られそうになった歴史を掘り起こしています。 イ・ギュマン監督の「カエル少年失踪殺人事件」も、そのひとつ。 1991年3月に大邱市で発生した小学生5人の行方不明事件を映画化。犯人不明というミステリーに、“オトナの思惑”を加えて、緊迫のサスペンスドラマに仕立てています。 ☆☆☆☆☆ 映画「カエル少年失踪殺人事件」 DVD ☆☆☆☆☆ 実際に起きた事件をベースにしたストーリーで、映画を観るだけで事件の推移が把握できます。それが、なんとも胸が痛い展開。 遺骨が見つかるまでの10年の間、家族たちがどれほど苦しんできたのか。杜撰な捜索、特ダネ狙いのテレビプロデューサー、犯人像を分析して家族に疑いの目を向ける教授ら、どれほどの人たちが家族を弄んできたのか。 それでも、映画の封切りに合わせて家族たちは、「全部許すから、出てきて欲しい」と犯人に呼びかけたのだそう。 当然、ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」と比較されることも多かったようですが、サスペンス度は「カエル少年」の方が強かったなーと思います。 ただ、事件についてまったく知らなかったし、「カエル少年失踪殺人事件」というタイトルだけを見て、わたしは勘違いしておりました。 少年探偵団みたいなコメディだと思っていたのに!!! バッチバチの緊迫感漂うサスペンスで、まばたきするのも忘れてしまってたよ。 特に、赤いマントの少年の母を演じたキム・ヨジン。 (画像はKMDbより) 最近ではドラマ「ヴィンチェンツォ」の悪役ぶりが目立っていましたが、こういうセリフのない演技の壮絶さは、ピカイチだと思います。エアロビ踊ってるだけじゃないのですよ。 ドラマ「ヴィンチェンツォ」#667   「カエルを捕まえに行く」という言葉を残して、姿を消した少年たち。事件は2006年3月26日に時効が成立し、迷宮入りとなりました。 赤いマントを翻して走っていた、うれしそうな顔に無念ばかりが残ってしまう。 (画像はKMDbより) 痛烈な批判と皮肉が込められたストーリー。これを劇映画として成立させてしまう

『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』#755

ミステリー小説好きにとって、翻訳家の田口俊樹さんは神さまのような存在なのではないでしょうか。 ローレンス・ブロックの「マット・スカダー」シリーズ、レイモンド・チャンドラーやアガサ・クリスティーといった大御所の作品も、田口さんの訳が出ています。 200冊近い訳書を刊行された大御所ですが、駆け出しの頃の訳を見ると、トホホ……となることもあるのだとか。 そんな、40年に及ぶ翻訳生活を振り返った本が『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』です。 ☆☆☆☆☆ 『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』 https://amzn.to/3xptA5P ☆☆☆☆☆ 小学生の頃、アガサ・クリスティにのめりこんでミステリーにハマったという田口さん。大学を卒業後、英語の先生になります。 さすが~! 英語教師になるくらい語学に堪能だから、翻訳とかできるんですよね!? なーんて思ってしまいますが、実際はその逆。生徒に質問されても答えられないもどかしさから、英語力を身につけようと翻訳をやってみた。そしたら仕事になってしまった、というミラクルな経歴をお持ちです。 通訳や翻訳など、企業に就職して仕事を得るタイプではない業種って、人の縁でデビューが決まったというパターンが多いようです。 日本のトップ通訳者である田中慶子さんも、「人生無計画」な生活から通訳デビューをされています。 失敗上等!人生無計画でもなんとかなるよ『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』#49   韓国語翻訳家のたなともこさんは、友人から送ってもらったホン・ソンスさんの著書『ヘイトをとめるレッスン』を読んで、翻訳出版したいと決めたのだとか。ホントに動いて実現させちゃう行動力がすごいな。 『ヘイトをとめるレッスン』#741   『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』の著者・宮崎伸治さんも、出版社に持ち込み企画をしていたそう。ただ、デビュー作は「名前が出ない」予定で進んでいました(ある大物文筆家が翻訳家としてクレジットされる予定だった)。 『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』#754   デビューの形はいろいろあれど、自分の名前で本が出せるのはうれしいことですよね。でも、過去の翻訳を見直すことほど、つらい作業はないと思います。『日々翻訳ざんげ』に綴られているのは、勘違いや誤訳へのざんげと、新人だった

ドラマ「ロースクール」#713

「ルールは、頭のいい奴に都合のいいように作られてるってことだっ!」 マンガ『ドラゴン桜』で、弁護士の桜木建二が檄を飛ばす時のセリフです。世の中が気に入らないなら、自分でルールを作る側に回るしかない。 そう思ったのかどうかは知らないけれど、ドラマ「ロースクール」でルールを作る側の人・行使する側の人たちは、ホントーーーに、自分の都合のいいように法を解釈していました。 その姿、アッパレと言いたくなるほど。 憑依型俳優キム・ミョンミン主演のドラマで、若手俳優たちがのびのびと演技している、というか、しごかれています。現在、Netflixで配信中です。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「ロースクール」Netflixで配信中 https://www.netflix.com/title/81413647 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国一の名門・韓国大学のロースクールで、教授が殺害されるという事件が発生。検事出身で、現在は刑法教授のヤン・ジョンフンが逮捕されてしまう。「ヤンクラテス」とあだ名されるほどのスパルタで知られるジョンフンは、自身の事件をも教材にしようとするが……。 2004年から放送されていたJ・J・エイブラムス監督のドラマ「LOST」って、ご存じでしょうか。無人島に不時着した乗客の、過去や秘密が徐々に明らかになっていく、というストーリーで、日本でも大人気になりましたよね。 当時のキャストがインタビューで、「来週の脚本を受け取った時、“オレ、まだ生きてるかなー”って、まず確認してたよ。笑」なんてことを語っていました。 ドラマ「ロースクール」でいうと、「来週は、わたしが“犯人”だー」なんて言っていたんじゃないかと思うくらい、殺人事件の容疑者が次々に変わっていくんです。 そして回を追うごとに、学生と教授、学生同士の関係、過去、秘密が明らかになっていきます。 犯人は、いったい誰なのか。なんのために殺したのか。 推理ドラマをベースに、突きつけられるのは、法律における「正義」です。 落第スレスレの落ちこぼれ学生もいれば、優秀なんだけどコミュニケーションに問題のある学生もいる。ピカイチの頭脳を持っているけど、倫理観がなかったり、必死さのあまり一線を越えてしまったり。 司法試験に挑戦する学生たちの、厳しい現実。こんな苦労をして「法律の専門家」になった後、どんな道をいくのでしょう。 現役のプロである検事

二大スターが初共演! 失った娘を取り戻せ 映画「クローゼット」 #539

いつの時代でも、どこの国でも、社会の歪みの被害者は、一番弱いところにいく。そこから目を背けることはできないし、もしできたとしても、呪縛から逃れることなんてできない。 ハ・ジョンウとキム・ナムギルという二大スターが初共演した映画「クローゼット」は、ぶっちぎりの「怖おもしろさ」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「クローゼット」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 妻を事故で亡くしたサンウォンは、娘のイナを連れて引っ越すことに。トラウマに苦しみつつ、仕事に追われ、娘のイナとの間にできた溝も埋めることができない。ある日、新しい友達ができたと笑顔を見せるようになったイナがこつ然と姿を消してしまう。必死で娘を捜すサンウォンの前に、彼女の行方を知るという謎の男ギョンフンが現れる。彼はクローゼットにすべての秘密が隠されていると言うが……。 トラウマを抱えながら娘と関係に悩む父・サンウォンを演じるのはハ・ジョンウ。 (画像は映画.comより) 新居に向かう途中での事故、新居に着いてすぐのアクシデント。緊張感がメリメリと高まっていく中、登場するのがキム・ナムギル演じるギョンフンです。ヘラヘラとした妖しさを振りまきつつ、不穏な空気の中で笑いもとっていく、ミラクルな男です。 (画像は映画.comより) もうね。このふたりが出会った瞬間、画がしまるんです。 監督のキム・グァンビンは、これが長編デビュー。よくぞふたりをキャスティングしてくれたなーと思ってしまう。西洋的な「クローゼット」を舞台にしたミステリーに、日本のホラーを融合させ、ガツッと韓国映画に仕上げたといえるストーリーです。 心を閉ざし、父に邪魔にされていることを感じたイナは、新居で「新しい友達」と出会ったと語ります。見たことのないぬいぐるみを抱きしめ、浮かべる笑顔。人里離れた山の中で、カラスしかいない場所なのに……。 イナの「新しい友達」とは、誰なのか。そして、イナを連れ去ったのは誰なのか。 ギョンフンの職業は「退魔師」。聞き慣れない言葉ですが、悪霊を祓う霊媒師みたいなもんですね。イナがいる場所について説明する時のセリフが笑えます。 「『神と共に』って映画、観てないの? アレ知ってたら話が早いんだけどなー」 観てないどころか、ハ・ジョンウ主演ですから!!!  「神と共に」でみつ

書きたい人も、読みたい人も手に取りたい超一級のブックガイド 『書きたい人のためのミステリ入門』 #536

英語の「mystery」の語源は、ギリシャ語の「ミュステーリオン(μυστήριον)」です。理解不可能なものや、秘密を意味し、それが古代ギリシアや古代ローマの秘密の儀式を指すようになったのだとか。 奇妙な出来事や理解不可能な出来事に引きつけられてしまう。そしてその謎を解明していく様子に、ハラハラドキドキする。 “秘密”を語源とする「ミステリ小説」は、まさしく“秘密”に魅せられる小説でもあります。 大好きなジャンルなので、それなりに読んでいる方でしたが、新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』を読んだら、知らない本がいっぱい! この本はちょっとヤバい。今すぐミステリを読みたくなる!!! タイトルには「書きたい人のための」とありますが、「読みたい人のための」超一級のブックガイドでもあります。 ☆☆☆☆☆ 『書きたい人のためのミステリ入門』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ ミステリにおける「三種の神器」とは。 ・謎 ・伏線 ・論理的解決 謎がなければ、そもそもミステリにはならないし、「お前が犯人だ!」と言われて「誰やねん!?」となったのでは意味が分からない。「三種の神器」がうまくかみ合ってこそ、ミステリ小説として成立するのです。 初めての推理小説と言われているのは、1841年に発表されたエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人事件』です。「三種の神器」はこの小説から始まっているそう。 (画像リンクです) ミステリは、まずはフーダニット(犯人は誰か)の小説がたくさん書かれ、そこからハウダニット(どうして・どうやって)、ホワイダニット(なぜそんなことをしたのか)へと発展していきます。 わたしがあまり心引かれなかったのはハウダニットの小説で、フーダニットやホワイダニットが好きだったんだなーと読みながら気がつきました。 「ために」設定されたトリックの小説を読んでしまったせいかもしれません。でも、この本を読んで、あらためてハウダニットの名作にもチャレンジしてみたくなりました。 数々のミステリ作品が紹介されますが、ネタバレはほぼなし。地の文の重要性や視点のもつ意味、世界観や人を描くということといった、小説創作に必要な事柄が解説されています。 なぜそんなことができるのかというと、著者の新井さんは長年、新人賞の下読みを担当されてきたから。初心者が陥りがちなポイントを知り抜いた上

時空を超えて届く未解決事件のヒントがエモい ドラマ「シグナル」 #521

「週刊少年ジャンプ」の方程式といえば、「友情・努力・勝利」ですが、最近の韓国ドラマにおける黄金の方程式といえば「復讐・格差・初恋」ではないかと思います。 2020年の流行語大賞トップ10に選ばれた「愛の不時着」はもちろん、「梨泰院クラス」や「スタートアップ:夢の扉」など、日本でも人気になったドラマはどれも3つの要素を取り入れていました。 友人から「ヒョンビン演じるリ大尉ってセリが初恋の人なの?」という疑問をもらったので、ちょっと補足。ドラマの中でリ大尉のことを“母胎ソロ”と呼ぶシーンがあるんです。“母胎ソロ”=母胎から出てきて以来、ずーっとソロという意味の韓国語なので、おそらく彼はセリに会うまで恋をしたことがなかったのではないかと思われます。 閑話休題。 「復讐・格差・初恋」を活用した刑事ドラマなら、断然「シグナル」がおすすめ。キネマ旬報が主催する「プロが選ぶ! 【第1回 韓国テレビドラマコレクション大賞】」にて、総合第1位を獲得したドラマです。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「シグナル」 https://www.netflix.com/title/80987077 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 警察のプロファイラーであるパク・へヨンは、廃棄処分となっていた無線機を見つける。そこへ突然、イ・ジェハンと名乗る刑事から、15年前の誘拐事件の手がかりを伝える声がする。事件はヘヨンの同級生が犠牲となり、未解決となっていた。これをきっかけにふたりの交信が始まるが、情報を伝えるイ・ジェハン刑事は過去の人間で、上司であるチャ・スヒョン刑事がずっと探している人物だった……。 未解決事件チームに配属されたパク・へヨンとチャ・スヒョン。演じるのは若手実力派俳優イ・ジェフンと、キリッとしたアネゴ肌のキム・ヘスのコンビです。過去からメッセージを送ってくる人物であり、スヒョン刑事の先輩でもあるイ・ジェハン刑事はチョ・ジヌンが演じています。 もー、わたしの好きな俳優ばっかり!!!というわけで見始めたのですが、あっという間に夢中になってしまうサスペンスドラマでした。 現在(2015年)では未解決になっている事件の、発生現場にいるのがジェハン刑事なのです。無線がつながるのは、1990年代の後半から。時には6年くらい連絡が途絶えていることも。へヨン刑事からすると1週間なんですけど。 竜宮城とのやり取りのようですが、

雅な時代の探偵ホームズとワトソンくんに学ぶ人間の業 『陰陽師』 #500

子どもの頃、なりたかった職業のひとつが「小説家」でした。自分でも創作をして、絵が得意な友だちにマンガを描いてもらって、クラスで回し読みしたりしていたんですよね。 大人になってからもほんのりとした気持ちは持っていたけれど、夢枕獏さんの『陰陽師』を読んで、スッパリとあきらめました。わたしにはこんな物語は書けないと思ったから。 闇が闇としてあり、人も、鬼も、もののけも、共に存在していた時代。人の心は、ほんの小さな揺れで暗がりに落ちてしまう。取り込まれてしまう。闇への畏れと、人間の業。悲しみとはかなさの中に描き出される、生きることの意味を感じて、おののいたのでした。 ☆☆☆☆☆ 『陰陽師』  (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 陰陽師とは、平安時代にあった官職のひとつです。陰陽五行思想に基づいた陰陽道によって占筮(せんぜい)や地相などを占う技官でした。陰陽五行思想をものすごーく大雑把にいうと、古代中国から伝来した学問で、天武天皇はその道に長けた人だったそう。 平安時代、陰陽道は国家機密とされていて、政治利用もされていたようです。『陰陽師』は、そんな陰陽師・安倍晴明の活躍を描いた小説。現在、41冊のシリーズが刊行されています。 祝・35年! 2年半ぶりの最新刊『陰陽師 水龍ノ巻』夢枕 獏「陰陽師」シリーズ | | 特設サイト   式神や人形(かたしろ)といった使役のための小道具や、呪符など、神秘的な世界もありつつ、なにより魅了されたのは、晴明と、その親友源博雅とのやり取りです。 酒を酌み交わしつつ、草ボウボウの庭を眺めながら、世情について、人生について、死について、呪(しゅ)について、語り合うふたり。 物語の冒頭は、だいたい博雅が宮廷の噂話や、やっかいごとなどを持ち込んで、「ほぉ、それはあれだな」と晴明が言い、ナゾの解明に乗り出す、というパターン。晴明と博雅は、いってみれば探偵ホームズとワトソンくんのようなコンビなのです。 岡野玲子さんの漫画版は、小説の漫画化というよりも、陰陽師として生きる者の性を感じるストーリーになっています。 (画像リンクです) ファンによる人気のストーリー投票も行われています。上の公式サイトには夢枕獏さんが選ぶベスト11が。この中にある「鬼小町」「鉄輪」は、わたしも大好きな一篇です。 好きな人と思いを遂げられれば、それで「幸せ」なのだろうか。もし思いが届