善と悪の境界線が溶けていく。 デジタルの世界は「0」と「1」の二元論でできていて、いまわたしの生活は、そんなデジタルに支えられているけれど、すっぱりきっぱりと切り分けられないものだってあります。 なにかの事件が起きるたび、テレビのワイドショーでは「悪人」を探し出して断じるわけですが、自らの立つ「善人」の位置は、誰が決めてくれたものなのか。 韓国の新人監督ホン・ウィジョンの映画「声もなく」を観て、そんなことを考えていました。 ユ・アインとユ・ジェミョンが“犯罪者”コンビを演じています。 ☆☆☆☆☆ 映画「声もなく」 公式サイト: https://koemonaku.com/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> テインとチャンボクは、普段は鶏卵販売をしながら、犯罪組織から死体処理などを請け負って生計を立てていた。ある日、犯罪組織のヨンソクに命じられ、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを1日だけ預かることに。しかしヨンソクが組織に始末されてしまったことから、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まり……。 ※ネタバレありです。ご注意ください※ 青年テインを演じるのは、ユ・アイン。この役のために15kgも体重を増やして臨んでいます。猫背でぽっちゃりしたお腹が、新鮮でした。パンフレットの監督インタビューによると、太ったり痩せたりしてイメージを固め、依頼通りに「だらしなく」太ってくれたんだそう。 (画像は映画.comより) 理由は明らかにされていませんが、テインは言葉を発することができないという設定。99分間、本当にひと言も発しません。 代わりに、仕草や表情で感情を伝えています。 そんなテインを幼い頃に引き取り、いまは「裏稼業」も手伝わせている相棒が、チャンボク。ユ・ジェミョンがおしゃべりで、腰が低くて、人のいいおっちゃん感満載で演じています。「梨泰院クラス」の会長とは正反対の空気感でした。 チャンボクが謙虚に、ていねいに話せば話すほど、笑いを誘うという不思議な役柄です。 (画像は映画.comより) ユ・ジェミョンのおしゃべりがブラックなユーモアに包まれているので、思わず「フフッ」となってしまうのですが、この映画の登場人物は、ド底辺もド底辺な生活を強いられている人たちです。 おそらくは障害があること、学がないことで社会から落ちこぼれ、救済システムも届かないところで、ただ生き